第37話 目指せ、Sランク冒険者
女神ルシールは一部を伏せながら大体の話を聞かせた。
当然、カイルが転生者であることは秘密のままである。
統合していれば、異世界人であるという感覚も無くなる為、わざわざ言う必要が無い、というのが彼女の持論だ。
(……そうなると俺はまだ統合とやらが終わっていないのか?)
カイルには未だに転生前の意識も強く残っている。しかし以前のような違和感ではなく、うまく調和が取れた感覚の為、むしろ調子は良い。
「もぐもぐ、お話はよくもぐもぐ、分かりました。カイルさん、まだ干し肉ありますか?」
真面目な顔をしながら干し肉を両手に持っているアルビノのエルフ。なんというギャップのある構図なのだろう、とカイルは思いながら干し肉の入った袋ごと手渡す。
「皆で分けて食べるように」
「えぇ、分かっています」
そう言いながら一つずつ手渡していくシーラ。
「さて、これからの事を話し合いましょう」
まだ干し肉が大量に入っている袋をしっかりと握り締めている彼女は、さも当然のような顔をして席についた。
「なにこれ」
ルシールは渡された干し肉に戸惑っている。
表情は相変わらず変わらないままである。
「干し肉ですよ。とっても美味しいです」
シーラの両手は既に空き、次の獲物を袋の中から取り出そうとしていた。
「原始的ね…………あら、意外と美味しい。香草や岩塩で臭みを消してるのね。味付けもしっかりしてあって――」
「うむ、美味いのぅ。じゃ、ないわ! 突っ込みおらんから話が進まんわ!! こら女神、さっさと話せんか!!」
「ごめんなさい。どこまで話したかしら?」
「世界を殺す、辺りじゃの」
ルシールは咳払いをして少し顔を引き締める。
「そう、カイルに助けを求めたのは彼が世界を殺せる可能性を持ってるからよ。勿論あなた達も」
「でもでも、世界殺しちゃったらあたしたちどうなるの?」
レフィアは、うんうん、と大きく頷き、他の者もその部分は気になっていたのか真剣な表情になる。
ただルシールだけは何故か、ぽかんとしておりまばたきを数回した後に、
「あぁ」
と声をあげた。
「ごめんなさい。殺すのはこの世界の意思ではなくて、別の世界の意思なの」
ルシールの話ではこの世界は別の世界に侵略されている、という事だ。当然、その話はカイルも初耳である。
「……意味不明」
「世界とはそもそもなんじゃ?」
「あなた達に話しても意味のないことなんだけど。そうね……世界の意思は農民ってところかしら」
先程から頭の上にはてなが浮かび続ける者が多数いる中、レフィアとミリアだけが険しい表情を崩さない。
「農地はこの世界。あなた達は世界の意思が大切に育てた作物。そして、別の世界の農地は荒れ果てて作物がまともに育たない」
「……あまりにスケールの大きい話ですね」
「まぁ、実際被害もまだ無いし、今は敵である"世界"の尖兵を倒す事を考えて」
「それは誰じゃ?」
「ハッキリとは分からないわ。怪しいのは【十王】の【無王】、【賢王】、【征王】、【心王】の誰か……」
「つまり【十王】全員倒せばいい訳だ」
自信満々の顔をするカイルに向かってルシールが呆れるようにため息を吐く。
表情にも少し変化が現れたが、本当に呆れている。
「まぁ、やってみなさい。彼らに会うことすらあなた達には無理だと思うけど」
「全員が国家の代表、もしくは重鎮ですからね。私でもお会いした事はありませんし」
「権力者と対峙するにはこちらも相応の立場にならねばの……」
皆が唸りながら頭を抱えるように考えていると、干し肉を食べ終わったキャミィがルシールに近づく。
「ねー、冒険者なら会えるよね?」
「あのね、一介の冒険者ごときが気軽に会える訳が――」
「……なるほど、Sランクね」
ミリアはハッとする様な表情をし、カイルを見る。
「なんなの? そのSランクって」
「……無知」
「は?」
アイリスの辛辣な一言に思わず眼を見開くルシール。彼女の煽り耐性は意外と低い。
「この世界の冒険者にはランクが設定されているのです。EランクからBランクまでが所謂標準的な冒険者。Aランクにもなると国からも一目置かれます。そしてSランクにもなれば国から直々に依頼を受ける事もあり、王族や政府などとも親交がある者もいます。
最も我が国は冒険者に助けられた事など今までありませんでしたが」
ミリアは胸を張り、少し自慢げに話し続ける。
「今カイル様はAランク。異例の早さで昇ランクしている上に、今回の武踏会では【十王】を二人倒しています。つまり――」
「このままいけば、そのSランクとやらになれると?」
「えぇ、それどころか【十王】側から接触してくるかもしれませんね」
「女神様、何も知らないね!」
「……人の決めたローカルルールなど知らなくても構わないのよ?」
「ふーん?」
今までマウントを取り続けていた女神だったが、ここに来て立場が変わってしまった。
キャミィの明るい無邪気なキャラクターだからだろう。からかわれる事に慣れていない彼女は少しむっとするが、不思議と悪い気持ちにはならなかった。
「では当面はそのSランクの冒険者にカイルがなる、という方向で。分かったわね?」
「任せろ」
カイルは話の流れがよく分からなかったので適当に頷きながら返事をした。
シーラは話半分に干し肉と、どこから持ってきたのかチーズを食べ続けている。
アイリスは話がつまらないのか、カイルの背中にしがみついていた。
「……本当に大丈夫じゃろか」
目に写る現状と未だ目が覚めない孫娘の事も含め、レフィアがぼそっと呟いた。




