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第36話 暇を持て余した女神のイタズラ

 ランペイジ城の一室。宿屋で一番高い部屋でもこれほど広くはないだろう、と思わせるほど広い部屋には三十人弱の武踏会が集められていた。そこには当然カイル達も含まれている。


「皆様に集まって頂いた理由はただ一つ。この国を守るのに力を貸して頂きたいのです」


 ミリアが決して大きくはないが良く通る声で話し出す。


「私たちの直面している危機は表面化していません。しかし、このままではこの国は確実に滅びます。その原因は一つ。【征王】ヴァルク・アイゼルンの存在です」


 その名を口にした瞬間、半数以上の者がざわつきだす。

 ここに集まった面々は皆、ミリアから直々に声をかけられ自らの意思で来ている。当然腕には覚えがあり、またランペイジ王国の姫君に認めらたという自信もある。

 それでもなお、【征王】が相手となるという事に抵抗を持つ者は多い。その理由は二つある。

 一つは【十王】である彼の能力が強大であること。そしてもう一つは――


「彼がそのような事をするとは思えないのですが」

「そうだ。オラシオン帝国は彼のお陰で暗黒期を乗り越えた。その英雄が他国を侵略するなど考えられない」


 彼には圧倒的なカリスマがあり、また他国他種族にもファンが多い。実際彼の好感度は高く、オラシオン帝国は彼の帝国だ、とも言われる程だ。


「当然の反応です。しかし実際に我が国は被害を受けています。奴等は我が国に対し経済戦争を仕掛けてきているのです。あなた方にお願いしたいのは、戦いを仕掛けるのではなく資源を守って頂きたいのです」


 彼らの顔付きは変わりざわつきは消えていった。

 ミリアの言っていることが本当であれば話は違ってくる。


「奴等は国と関わりの無いならず者を雇い、国に対し不利益を与えています。その者を捕らえ吐かせましたが、しかしこの事は公には出来ません。私達は公に出来るだけの証拠が必要なのです。この国を守る為に皆様のお力を、どうかお貸しください」


 深々と頭を下げるミリアの姿に、皆心を打たれた。

 もともとかれらはオラシオン帝国とは何の関係も無い人々だ。より身近で真摯な者に心を許すのは当然だろう。

 何より彼女が強調している、国を守る、という言葉は彼らの心に響く。

 それはミリアが意図してランペイジ王国出身者、もしくは親族、彼女、友人が王国内にいる者を集めたからであるが。

 結果として彼らの全面的な協力を得られる事となった。


「詳しい話はグランとエリスからお聞きください」

「さぁ皆様、こちらへどうぞ」


 執事とメイドに連れられて部屋を出ていく。


「カイル様達には別でお話があります」

「丁度良い。俺も話がある」


 カイルは自らの仲間達にも含みを持たせた視線を送っていた。

 その中に見知った顔を見付ける。


「やっと気付いたのね」


 表情を変えることなく手を降ってくる女性――

 女神ルシールは唐突にやって来た。


「……何故ここに?」

「あなたの口からでは伝わらないと思ってわざわざ来てあげたのよ。感謝しなさい」


 この女性とカイルのやり取りに、皆唖然としている。

 ミリアは話の腰を折られ少し不機嫌な様子だ。


「失礼ですが……どなたですか?」


 気品溢れる笑顔の裏側に凄まじい威圧感と、僅かな殺気で威嚇

 する。

 勝手に場内に入り込み部外者に聞かせるつもりのない話し相手まで聞いている彼女は、ミリアにとって今のところ敵でしかない。


「カイル、説明しなさい」

「ぐっ……」

「……カイル?」


 本来人に何かを言われて動くような男ではない。

 むしろ、そのような経験は一度たりともない。


「こいつは……」

()()()?」


 無表情、という訳ではないが全く表情を変えることなく、しかし言葉のイントネーションが伝えてくる。ちゃんと丁寧に紹介しろ、と。


「……この方は世界を管理する女神だ」

「女神様」

「……女神、さま、だ」

「良くできました。私は女神、名はルシール。宜しく頼むわ、人間達」


 この場にいる誰もが目を疑っていた。

 表情の変わらない自称女神の存在に、ではない。項垂(うなだ)れ暗い顔をし拳を握る、一人の男の姿にだ。




 ***




 時は僅かに遡る。


「私にあなたの仲間を紹介してほしいの」

「それは構わないけど……世界を殺すのなら俺一人で十分だろ?」

「あら、自惚れが強いわね。世界の意思に存在を消されそうになっていたというのに」


 思わぬ反論にカイルは何も言えなくなる。

 ふっ、と鼻で笑う女神の表情に変化の色は見えない。


「心配してるのね。大丈夫よ、彼女達は強いから」

「そういう問題じゃ……」

「キスしたことバラすわよ」


 その一言にカイルの表情は凍りついた。

 目は見開き、口はだらしなく空いたまま、声にならない、微かな呻き声をあげながらルシールの方に顔を向ける。


「ルシールねえさん、そらあんまりとちゃいます……?」

「黙りなさい。誰が喋ることを許可したの?」

「え、喋ったらあかんかったの!?」


 いつの間にかエッジは喋ることを禁止されていたようだ。


「いや待て、俺からした訳じゃないし……」

「事実は別として、私の口からそのような事を聞かされたら彼女達はなんと思うかしら?」

「うわっ、えげつな!」


 女性に脅された上にそれに逆らう事が出来ないと思わされる――

 それはカイルにとって、初めての出来事だった。


「にいさん、なに笑てますの? もしかして……そっちの趣味が!?」

「あ、いや、久しくちゃんとした脅しを受けたことがないなと思って。さて困ったな……何故か無視できない。要望を受け入れるしかなさそうだ」

「真面目かっ!」


 彼らのやり取りを見ながら、ルシールは少し口角が上がっているのに気付く。そんな自分に驚きながらも表情を戻す。

 そしてそのやり取りの中であることに気付いた。

 カイルの最適化は完了してはいないのだ、と。


「まぁいいや……紹介するよ。一緒に行くか?」

「いえ、私は勝手に行かせてもらうわ。それじゃあね」


 いつの間にか女神の姿は消えていた。存在を認識出来なくなった、と言った方が感覚的には正しいのかもしれない。

 彼らは少しの間目を合わせると、お互い別の方向へと歩き出していった。




 ***




「女神だろうが何だろうが、ここは私の国です。好き勝手やられてはたまりませんね」


 ミリアは笑顔を崩さず、しかし威圧感を隠さず苛ついた様子でルシールに食ってかかる。

 女神のカイルに対する態度からか、誰一人としてそれを止めるつもりはないようだ。

 それを受けても、やはり表情は変わらない。


「ねぇ、カイル。この状況をどうするつもり?」

「……はぁ」


 お前が悪ふざけをするからだ――――カイルはそんな心の声を閉じ込めたのだか、


「カイル様、ちゃんと説明してください」

「なんじゃそいつは……」

「……女神っぽくない」

「少しお腹すいてきたよ」


 次々と不満の声があがる。

 とりあえずカイルは持っていた干し肉をキャミィに手渡すと少し眼を瞑り考えた。

 考えたのだがどうやら面倒くさくなったようで、


「ルシール、もう疲れた」

 

 ぶん投げた。


「ふっ、あなたにしては頑張ったわね。さて、どこから話しましょうか……最もあなた達に理解が出来るかしら?」


 若干名から殺意の込められた視線を向けられながらも顔色一つ変えないこの女性に、得たいの知れない何かを皆が感じていた。


「安心なさい、彼とは何の関係も持っていないわ。あなた達が思うような事は何も、ね」

「そんな事は貴様に言われなくとも分かっている。大方、貴様に唆されたのだろう」

「ミリア様、安堵と動揺からか素が出てますよ」

「こ、これは! その、あれだ。女神と名乗る者相手に偽りの自分では失礼にあたると――」

「……貴様呼ばわりしてたのに?」

「干し肉美味しいー!」

「あらまぁ、私も食べたいです」


 ぎゃあぎゃあと騒がしい彼女達をぼーっと眺めるカイル。


(……へぇ)


 気付けばルシールは自然と笑みを浮かべていた。

 神は不老不死だ。管理者として世界に唯一無二の存在と言えるかれらには、向かい合って喋る相手、ましてや友人などはいないのだろう。

 かつて不老不死であったカイルは少し懐かしい気持ちと、彼女にほんの僅かな同情を抱いた。


「さぁ、カイル。あなたはこの中の誰と結婚したいの? さっさと選びなさい」

「おいこら、どういう話してんだ」


 先程抱いた同情心は砕けて散った。

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