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第34話 女神との邂逅

 こことは別の世界。

 かつてその地では総勢七十四名の犠牲者を出した連続殺人事件が起きた。

 犯人は十三歳の少年。彼には一つの才能があった。それは、他人から信頼される才能である。

 両親の教育の賜物か、頭の回転が早く知識も豊富で社交的な史上最年少の殺人鬼は、飽きたという理由で殺しをやめた。

 その三年後、まるで別人のようになり問題行動の一切もなく大人しく暮らしている。

 彼の名前は倉淵瑛士(くらぶちえいじ)

 やがて異なる世界で【刃王】と呼ばれる少年である――




 ***




「お前も異世界の住人だって?」


 カイルは信じられないといった表情を浮かべる。


「それ以外あります? せやなかったら、こんな話でけへんよ」

「……それもそうだが。で、俺と同じようになったと?」

「せやねん。転生さしてくれたんはええねんけど、その後のケアをしてくれへんかったんや。まぁ、最初に殺そうとしたんが悪かったんかも」

「何してんだ」


 カイルは呆れた表情をするが、よく考えたら自分も神を殺していることに気付き、話をそらす。


「で、どうすれば?」

「知り合いの女神さんとこいけば一発や。案内しますよ?」

「女神……」


 黙りこんでしまった。仮に()()()()とは別だとしても、カイルは同胞を一人屠っているのだ。

 普通に考えれば良い気はしないだろう。


「あまり気にせんと。あの女神さんとそっちの神さんらは別のグループやし、この話するようにって言うてたんも女神さんやし。安心してや」


 雰囲気で察したのか、エッジがフォローのように言葉を投げ掛けたその時、


「そうよ。せっかく助けてあげるって言ってるんだから、素直に感謝しなさい」


 突如カイルの背後から女性の声が聞こえる。

 振り向くとそこには、女性が立っている。

 身長は標準よりも少し高めで、体型はやや痩せ形。肩ほどの長さの髪は白に近い金色。服装は白い半袖のシャツに水色のショートパンツ。ヒールの高めな黒いレザーブーツと、至って普通の女性らしい。

 だがカイルは、()()()()()()()()()()()()()、ような感覚に襲われた。

 思わず頭を振り、


「……いつからそこに居た?」


 表情が険しくなるのを隠すことく問いかける。


「あら、そこに疑問を持つの? なかなか鋭い勘をしてるのね」

「いつも急に来ますね、ルシールのねえさん」

「エッジ……ねえさんは止めなさい。私はあなたの姉ではないでしょう?」

「まぁええやないですか」


 喋りながらカイルの横を通りすぎエッジの隣まで歩いたかと思えば、くるりと反転し右腕を上にあげ――


「私があなたを助けてあげる。だから私を助けなさい」


 ズバッ、と効果音が出そうなほどの勢いで振り下ろされた右腕。

 人差し指はピンと伸びておりカイルを差していた。


「……ねえさん、それじゃ伝わりませんて」

「あなたの説明不足なんじゃないの?」

「分かった。助けるから助けてくれ」


 カイルが口を開くと何やら言い争っていた二人は、ぱたりと会話を止め少し見詰めあう。


「ほら、通じてるわ」

「なんでや……」


 ルシールは勝ち誇ったように、しかし表情は一切変えること無く言い放ち、カイルに視線を送る。


「何とかしてくれるなら何でもいい」

「良い心掛けね。私の名はルシール。この世界の管理者にして聡明で美人のキュートな女神よ」

「そうか」


 これまた、ぱたりと会話が止まる。


「あなた、コミュニケーション能力足りてないんじゃない?」

「何故?」

「名乗ったのだから名乗りなさいよ」

「神だから知ってると思って……」

「ええ、当然知ってるわ。でもマナーの問題よ、分かる? そもそも女神なのよ? もっと驚きなさい」

「前にみた奴は神々しく空から降臨してきたし」

「あんなのバカしかしないわよ。あんなのをありがたる人間は精神的弱者よ。一緒にしないで。そもそも――」


 いつの間にか話題は逸れ、無益な言い合いが続く。しかし自称女神の声に怒気は含まれておらず、表情の変化もない。

 淡々と言葉をぶつけてくる彼女に、段々と苛立ちを覚える。


「エッジ、こいつ――」

「……にいさん、この方そういう人やねん。多めにみたってください」


 ルシールはカイルの顔を見詰めながら、視線すらそらすこと無く言葉を続けた。


「ふん、まぁいいわ。ほら、こっちに来なさい。さっさと終わらせてあげる」


 掌を上に向け指を曲げながらカイルを呼びつける。

 この女神は苦手だ――――と、彼の本能が告げていた。

 表情が殆ど変わることがなく、声のトーンも変化が無いためつかみ所がない。

 それでも彼女の言葉に従うしか無かった。彼女の目の前まで歩いて行き、睨むように見つめる。


「……本当になんとかしてくれるん――んぐっ!?」


 ルシールは少し背伸びをしてカイルの首に両腕をまわし、顔を近付けるとそのまま唇を重ねる。

 カイルは振りほどこうとしたが体に力が入らない。

 まるで自分の意志が肉体に通っておらず自分が自分では無いような、不思議な感覚に襲われていた。それはあの違和感に似たものだった。

意識が混ざり合うのを感じる。まるでバラバラに散らばっていたパズルのピースが勝手に当てはまるかのように、カイルという人間がこの世界で"初めて"構成されていった。

 十秒程してカイルは解放された。彼女が手を離すと操り糸の切れた人形のように、彼の体が崩れ落ちる。


「……ふぅ、気分はどう?」


 口を拭いながら投げ掛けられた言葉に反応出来ない。

 彼の意識はまだハッキリしていなかった。


「転生してから時間が経ってたから、最適化にもそれなりにかかりそうね」

「……ねえさん、オレの時とやり方違うねんけど。オレの時、手を頭に乗せただけやったやないですか! オレもちゅーしたいわー!!」

「侵蝕度が違うからよ。彼の場合あと少しでも遅ければ――」

「いややー! ちゅーさせてーなー!!」


 喚くように駄々をこねるエッジを見るルシールの視線は、まるで路上に棄てられたまま放置された生ゴミを見るかのようで嫌悪感に満ちていた。

 この場に来て初めて表情が歪んだ瞬間である。


「……エッジ、少し声を落としてくれ。頭に響く」


 カイルは頭を押さえながらその場に座り込んだ。声に気付いたルシールは彼の目の前にしゃがみこみ、問いかける。


「あなたの名は?」

「俺は……カイル・イングラム……」

「本当に?」

「……意味が分からない」

「エリグラーズ・ルクカインという人を知ってる?」

「誰それ。いや、聞き覚えはあるんだけど……頭がぼーっとして……」


 彼の目を見詰めながら一つ一つ、何かを確かめるように質問をしていた。


「ま、こんなところね。記憶障害も無し。前世の……あなたの場合は違うけど、そっちの影響も無し。世界への最適化は終わったわ。あなたが何で悩んでいたか、それはわかるわね?」

「……あぁ」

「おめでとう。あなたは本当のあなたになれたのよ。それじゃ次は私を助けてもらうわ」


 未だに呆然とするカイルと、話の途中で放り出されたエッジを置いて言葉を続ける。


「あなたには()()を殺してもらう手伝いをしてもらうわ。分かったわね?」

「……あぁ」


 言葉の意味も未だ分からない虚ろな状態ながらに返事をするカイル。その様子を見ながらエッジは哀れみにも似た表情を浮かべていた。

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