第27話 残虐なる刃
『さぁ、準々決勝第二試合! 続いても【十王】の登場です! 【刃王】エッジ・クラフト!!!』
「やーやー、どーもどーも」
観客からの拍手はおろか歓声もない。
「なんや、けったいな客やなー。これから楽しい楽しいショーの始まりやで?」
『対するは、あのグラン・エンハンスを撃ち破った肉体派!! 【血塗れの狼】ガーランド・バスクレイ!!!』
一際大きな歓声が響き渡る。それはエッジに対する野次も含まれていた。
「あらー、おっさん大人気ですやん。うらやましー」
「ふん! 貴様のような戦い方をするやつは根性叩き直してやらんとな!」
「あー暑苦し。あんなんお遊びですやん」
『それでは準々決勝第二試合、開始!!!』
「おっさんも遊んだるさかい、大人しくしいや!」
両手をガーランドに向けると、エッジの周囲にいくつもの剣が姿を現す。
形は様々で統一性が全くない。しかしその全てが実体を持った、世間一般で知られる"剣"である事には違いない。
『さぁ、エッジ選手。得意の剣生成能力で先手を取るか!』
「おら、いけや!」
掛け声と同時に剣がガーランドに襲いかかる。軌道は正面にまっすぐ、体目掛けて向かっていた。
「そんなもので俺に勝てるつもりか!!」
ガーランドに当たる前に全ての剣が動きを止め、次々と地面へと落ちていく。
剣が届く前に【引力操作の筋肉】を発動させていた。
『ガーランド選手、攻撃を全て防ぎ切りました!! これは一進一退の素晴らしい勝負の予感です!!』
「ほーん、なんやろな、あの能力。動きを止める……まさか重力操作か? それやったら厳しいわ。あ、独り言やから気にせんとってな!」
「ふざけた野郎だぜ……! 様子見なんて性に合わねぇ、ぶっ飛ばしてやる!」
ずん、ずん、と近付いてくるガーランド。
「あれ、そこ危ないで? ほら、剣刺さってもうてるやん」
「あ?」
気が付けば、ガーランドは短刀を踏み抜いていた。
「ぐああぁぁぁ! ちくしょう、いてぇ!」
「あはははは!! 言うたやろ? 危ないて!」
手をパンパンと叩きながら大笑いするエッジ。
不自然に踏み抜いた短剣を投げ棄てると、足元に注意を向けながら再びエッジに襲いかかるが――
「あー! 前方不注意やで!?」
下に注意を向けている間に、左肩に剣が深く突き刺さっていた。
『私は夢でも見ているのでしょうか!? ガーランド選手の進行方向に合わせて何処からともなく剣が現れているように見えます!!』
「ちくしょう、どうなってやがる!? 奴は剣を投げつけるどころか造り出してもいねぇ……気付いたら剣が刺さってやがる!!」
「ほら、動いたら危険やで! じっとしといたらええんと違う?」
迂闊には動けない。そう思ったのか、ガーランドは得体の知れない攻撃に動くのをやめてしまった。
「……ほんまに動くのやめてどないすんねん」
カラン、と背後で音がなる。
思わず振り向くと足元に再び短剣が上を向いているのを見つけた。
「くそが! またかよ!!」
踏みぬく前にその短剣を拾い上げ体を起こそうとしたその時、上から五本ほどの剣が降り注いできた。
「ちっ、うぜぇ!!」
咄嗟に正面の地面に対し能力を使用する。剣は軌道を変え地面へと突き刺さった。
「おー、あれ防ぐんか? 困ったなぁ」
「いい加減頭に来るぜ! ちまちまやりやがって!」
「せやなぁ……あ、そこから動かへん方が良いで? 足元注意や」
「うるせぇ! 床の剣は俺の引力で張り付いたままなんだよ!!」
ガーランドが足を踏み出すと脛に激痛が走る。
進行方向には不自然に剣が浮いており、ガーランドを待ち構えていた。
「そんなばかな……!」
「ほら、せやから言うたやん、足元注意やって」
その剣は役目を終えたからか、バンッと地面に引き付けられ他の剣と同じように張り付いた。引力操作の今効果は切れていない。ならばなぜあのような形で存在していたのか。
「上のは囮や。オレの【変幻自在の操刃】からは逃れられへんで?」
エッジ・クラフトの能力、【変幻自在の操刃】は異質な効果を持っている。
あらゆる刃物を造り出し操る能力、と思われているが実際は、刃物に関するあらゆる事象・結果を操作する能力である。
例えばたまたま移動した先に刃物が存在していたり、たまたまその刃物が刺さってしまう。こういった事象を結果として用意することが可能なのだ。
ただ事象操作により対象者が直接命を落とすことは絶対にない。この能力で許された改変は傷をつけることのみである。
事象操作と刃物を造り出す効果は別とされ、その刃物を使って能力使用者自ら命を奪う行為や、出血死させる事は可能である。
(出血がやべぇ……このままだと意識を失っちまうな)
エッジは用心深く距離を保っている。
こちらから攻めようにも彼の能力で出鼻を挫かれる。
「よし、いくぜっ!!」
意を決してエッジに近付く。
「あー、ほら、踏みそうや!」
「そうかよ!」
ガーランドは短剣を踏み抜いても剣で傷ついてもその歩みを止めなかった。
「うそやん、痛ないんかこいつ……」
「おら、捕まえたぞクソが!!」
「まぁええわ。これで終いや!」
エッジとガーランドとの間に十本ほどの剣が突如としての現れる。しかし、ガーランドは能力を使いその全てを地面に張り付かせた。
「効かねぇんだよ、てめぇの手品はよ!!」
既にエッジも能力に捕らえられ身動き一つ取れないでいた。
しかし彼は笑ったままガーランドを見つめている。
「上から来るで? 気ぃつけや!」
「――――!?」
空には無数の刃が浮いていた。それはガーランドの【引力操作の筋肉】によって凄まじい速度となり降り注ぐ。致命傷を避けて腕を、脚を、肩を傷つけていく。
【変幻自在の操刃】の効果で出現した刃で死ぬことは無い。しかし幾つもの傷を負ったガーランドは出血により意識が朦朧としていた。
「あぶな、ギリセーフや! ……あれ?」
「まだ逃がさねぇ…………この手でぶん殴るまでは…………」
「うそやろ……まだ意識あるて、どないなっとんねん……」
【引力操作の筋肉】依然発動中である。【変幻自在の操刃】を使おうにも、これ以上は確実に命を落とす為、発動しない。自分自身で止めをさせれば問題無いのだが、エッジは身動きが一切取れない。
「くらい……やがれ……!」
ガーランドは残っている全ての力を拳に込めて思い切り振り下ろす。顔を目掛けて何度も殴りつけた。
何度目だろうか――拳がエッジの顔面に触れたのを最後にガーランドが倒れこむ。
その姿をエッジは見下ろしていた。彼の顔には多少痣はあるものの、見た目よりもダメージは少ない。
彼の体は既に限界を迎えていた。
「……おっさん、あんた漢やな。せやから殺さへんとくわ」
『……勝者! エッジ選手!!』
試合終了と同時に救護班が慌てて駆けつける。
「ほな、帰らせてもらうわ」
エッジは再び笑みを浮かべリングから降りていった。




