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第26話 拳王の力

『本日はここ、ランペイジ闘技場にて、ランペイジ武踏会準々決勝を行います!!!』


 観客の歓声がまるで怒号のようにビリビリと響く。

 それは控え室にまで届いていた。


「いやー、ほんま好きやなぁ。人の戦い見て何がおもろいねん」


 エッジは誰に言う訳でもなく一人呟いた。


「しかし控え室も気付けばにいさんと二人きりやん。一体いくつ用意してんねんっちゅー話やな。お、もうすぐ出番や。にいさん、頑張ってください!」


 カイルは視線も合わさず無視してリングへと向かう。

 エッジはその様子を見て楽しそうに笑っていた。


『それでは第一試合、行きましょう!! 初っぱなから飛びしております!! 孤高の王、【拳王】ティアリエ・ゴッドバルツ選手!!!』

『対するは、既にその強さ、王に届いた!? 王を食らい王になるのは今日だ!! 【王喰】カイル・イングラム選手!!!』


「カイル、と呼ばせてもらおう。貴様には恨みはない。【舌王】も【命王】もどちらかといえば嫌いだから彼らを退けたという事にも興味がない。ただ私は強者と戦う事が楽しくて仕方ない。だから、死んでも恨むなよ?」


「奇遇だな、俺もだよ」


『準々決勝第一試合、開始っ!!』


 カイルは開始の声と同時に【闘気(オーラ)】を展開する。

 一回戦の時よりも、大型グールを倒した時よりも、その出力は強くなっていた。


「この気迫、本物だな! 私も使わせてもらおう。【唯一無二(ワン・アン)の金剛力(ド・オンリー)】!」


『さぁ! 両者ともに能力を解放しております! ティアリエ選手は一見変化がないように見えますが、スクリーンの前の皆さん! 私は今、物凄い圧を感じております!!』


 少女の姿は決して変化したわけではない。

 しかし目の前に存在する()()からは、今までに対峙したことの無い威圧感と力をカイルは感じていた。


唯一無二(ワン・アン)の金剛力(ド・オンリー)】とは、身体能力・運動能力を現存する全生命体の中から最も高い数値をそれぞれ参照し、能力者に付与する能力である。加えて能力発動中にその数値が更新された場合、【唯一無二(ワン・アン)の金剛力(ド・オンリー)】にも反映されるのだ。これは自己強化能力も参照の対象となる。

 但し複雑な能力形態のものや、強化に外的要因があるなどといったものは参照の対象外とされる。


 そして、カイルの目の前にいる少女は、紛れもなく身体強化能力者の頂点に立つ存在であった。


「いくぞおおぉぉぉっっ!!」


 ティアリエが突進してくる――と思った瞬間、カイルは吹き飛んでいた。息も吸えない程の衝撃と痛みが遅れてやってきた。リングアウトになる前に態勢を立て直すがティアリエの姿を認識できない。

 ミリアの移動速度も相当早かったが力に振り回されており直線的な動きだった為、カイルも容易に予測が出来た。

 しかしこれは自分の力を完全に制御した動きをしている。

 それもただ物凄い速度で動き回っているだけに予測が出来ないのである。


「まだまだぁ!」


 カイルの背後から声がしたと思えば正面に現れ軽く突き飛ばす。打撃に備えていたカイルは虚を突かれた。


「せやっ!」


 左側頭部に蹴りが入る。そしてみぞおち、胸部、喉にそれぞれ一発ずつ拳を浴びせ距離を取った。

 その動作、全てがまるで一瞬の出来事である。だが、カイルに目立ったダメージは無い。

 むしろ攻撃を仕掛けていた拳から痛みを感じる程だ。


「くっ、何なんだ貴様は……!」

「それはこっちの台詞だ……【闘気(オーラ)】を突き抜けてダメージを与えてきやがる」


 言葉とは裏腹にカイルは思わず口元に笑みを浮かべる。


「これで倒れないとは人間かどうかを疑うレベルだな! しかし完全に攻撃が通らないわけではなさそうだ」


 ティアリエは再び姿を消した。

 この世界には時速六百キロメートルで高速飛行する鳥が存在する。生物であり理論上その速度を出す事が可能な構造をしている以上、ティアリエにとってそれは再現可能な速度となる。

 もっとも彼女自信にはその自覚はないのだが。


「くらえっ!!」


 距離を一気に詰めカイルの正面に移動し拳を放つ。空気を切り裂く音が聞こえ、その拳圧は観客の元まで辿り着いた。

 本来であれば胴体に穴が空いてもおかしくはない一撃である。しかし目の前の男はそれに耐えていた。

 拳の感触でティアリエは察する。彼の体には届いていないと。


「その身に纏っている光……厄介だな」

「これが無かったらもう四回は死んでるね」

「つまりそれが消えるまで攻撃し続ければ良いってわけだ!」


 ティアリエががむしゃらに攻めてくる。精度を欠きながらも一撃は重く鋭い。

 カイルは受け流しながら徐々に反撃に出た。両者ともに決定打は無く至近距離での殴り合いが始まる。


『なんという攻防でしょうか! これは本当に人が踏み込んでいる領域なのでしょうか!? 私たちは今、人間を超越した存在同士の戦いを目の当たりにしております!!』


「どうした、カイル! 防御に自信があるなら避けずに受けきってみろ!!」


 ティアリエは攻撃の手を休めない。カイルは黙々と攻撃を受け流しているが、嬉しそうな表情を浮かべている。それがまたティアリエの精神を逆撫でしていた。



 この攻防を観客は勿論、スクリーンを見ている誰もが固唾をのんで見守っていた。


「カイル大丈夫かな……」


 キャミィが心配そうに呟く。レフィアは険しい表情でスクリーンを睨み付けていた。


「ダメじゃな、こやつは。全くもって危険じゃ」

「えぇ!? それじゃカイル負けちゃうの?」

「正面から、しかも力の勝負を挑んで【拳王】に勝てる生命体など存在せんじゃろ」


(もし勝てるとしたらそやつは……)



「ふ、どうした! 貴様を包む光が弱まってきているぞ!」

「なんて体力バカだ……」


 ティアリエはまるで疲れている様子を見せない。

 一方的カイルは既に肩で息をしていた。


(この肉体が【闘気(オーラ)】に耐えきれなくなっているか……)


「はぁっ!!」


闘気(オーラ)】の出力を更に解放させる。広がった光はティアリエを弾き飛ばし、二人の間に距離が出来た。


「がっ……! その光、鬱陶しい!!」


 距離を詰めようとするティアリエ。しかしそれはカイルの【闘気弾(オーラショット)】により防がれる。


『カイル選手、身に纏っている光を放っております! このダメージはいかほどなのでしょうか? ティアリエ選手、全く近付けません!!』


「ちぃ! うるさい光!!」


 両手で【闘気弾(オーラショット)】を払いのけながらカイル目掛けて突進しようとするが、タメを作れずじりじりと迫る形となる。しかしその距離は確実に縮まっていた。


「捉えたっ!!」


 攻撃の僅かな間を突いてカイルとの距離を一気に詰める。距離が近すぎて【闘気弾(オーラショット)】は打てない。

 そこはティアリエの間合いだった。


「これで仕留める!」


 カイルの顎を蹴りあげた……かに思えたが、当たる瞬間僅かに体を後ろに反らし避けられる。カイル体を翻し、左手に【闘気(オーラ)】を集中させた。 


「もう両腕は上がらないだろ? ここまでご苦労様」


 ティアリエの腹部に手を当て、【闘気(オーラ)】を放つ。その衝撃は背中を突き抜け、ティアリエの体を吹き飛ばした。


『これは決まったか!? ティアリエ選手、立ち上がれない!!  ……いや! 立ち上がったぁ!!!』


「大型グールを消滅させた威力だというのに……素晴らしい」

「私は……負けない……【拳王】は負けてはならないんだ!!」

「その気力に敬意を表して、俺も今の限界を超えよう」


 更に【闘気(オーラ)】を強める。筋肉の切れる音が聞こえ、カイルは身体中が悲鳴を上げているのを感じていた。

 ティアリエはどうすればこの男を倒せるのかと、一瞬考えたがやめた。今までどんな相手にも正面から挑み倒してきた。


「だったら私の出来ることは一つ」


 ティアリエはリングの端へと跳躍しカイルとの距離を思い切り開ける。


「突撃あるのみ!!」


 風を切り裂きながらカイル目掛けて突き進む。彼女の通った後はまるでサイクロンが通過したかのようにリング上にその痕を残していた。


「うおおぉぉぉっ! 貫けええぇぇぇっ!」


 それはただの拳だった。それは何者をも貫く最強の矛でもあった。全身全霊で今持てる全ての力を出しきった攻撃だった。


 カイルはおもむろに左手を突き出し拳を掴む。衝撃が後ろに突き抜け、リングを通り越し後ろの壁をも破壊する。

 しかしカイルの手はその拳をつかんだまま、微動だにしない。


「強かったぞ、ティアリエ・ゴッドバルツ」

「いやだ、そんな……こんなこと……私は……!」


 掴んだ手を離し、右足を踏み込むと同時に右拳を打ち込む。その瞬間、【闘気(オーラ)】を放出する。

 ティアリエは反対側まで吹き飛び壁にめり込んだまま意識を失った。


『…………け、決着です!! 息を呑む戦いでした!!! あ、えー、勝者、カイル選手!!!』


 観客も呆然としていたが、司会の声が聞こえると一気に大歓声をあげる。それに応える余裕もなくカイルはリングを降りていった。



「ガハッ……ちっ、これからはちゃんと体も鍛えなきゃな……」


 控え室へと繋がる通路にうずくまり吐血する。

 ティアリエから受けたダメージもあるが、カイルの体は許容量を超えた【闘気(オーラ)】を取り込んだ事によって傷付いていた。更に最後の一撃を受けた拳は破壊され、指も曲げられない状態になっていた。


「おや、にいさん大丈夫ですか? えらい試合でしたなぁ」


 わざとらしく心配しながらエッジが近付いてくる。


「次はオレも強敵が相手なんです。良かったら見といてください。お知り合いのガーランドが死ぬとこ♪」


 鼻唄を歌いながらリングへと向かうエッジ。

 その後ろ姿を見向きもせず、カイルは闘技場を後にした。

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