第25話 それぞれの戦い 後編
魔族の中でも王族しか発現する事が出来ない【黒瘴気】。
これもまたカイルの【闘気】に似た性質を持っており、発動者の遺志により攻撃性を持たせることが可能である。
【黒瘴気】は変幻自在でありその身を守る鎧にも、攻撃するための武器にもなる。
そして一番の特性。それは、能力発動中は魔族特有の残虐性に支配される、という点である。
レフィアから発せられた【黒瘴気】はサイアスの左手を腐食させていく。思わずレフィアから離れ距離をとった。醜く爛れた左手を押さえながら、サイアスは嬉しそうに笑い声を上げていた。
『レフィア選手の様子がおかしいですね……おや、これは……? レフィア選手の目が変化しております! まさか、レフィア選手も魔族だったとは!!』
「クフフフ……ようやくお目覚めですな、姫様。どうですか? 貴女が手にいれた平穏が崩れ去った感想は」
レフィアはゆっくりと目を閉じ、そして再び開けると腕に抱えていた頭部が見えなくなっていた。
「やはり幻覚か。全く未熟者めが、この程度の術に翻弄されおって……」
静かに立ち上がり悲しそうに顔を伏せる。
「姫様、具体的なお話しは後程。事態は切迫しております。どうか一度魔界へお戻りください」
「すまんなサイアス、暫く人として暮らしている内にどうやら儂も人が好きになってしまったみたいじゃ」
「……本気で仰っておいでですか? 魔人属の貴女が下等な人間属を?」
「うむ、本来ならば【魔王】を継ぐ者。人と相容れぬ存在であるとは理解おる。じゃがこやつは別だろう? 大切な孫の人生を狂わせるわけにはいかん」
「……そのような【混血種】、生きている事がもはや罪。一刻も早く真の御体に戻って頂きかなければ」
「…………」
レフィアは顔を伏せたまま、弱々しく答えていた。
サイアスは最初こそ笑みを浮かべていたが、今では顔はひきつり言葉にも怒気が含まれていた。
「……姫様の仰ることはわかりました。ならば私が取るべき行動は一つ」
サイアスは再び【暗闇の幻影】を発動させた。辺りが闇に包まれ、再び幻覚がレフィアに襲い掛かる。
「サイアス、お主の魔族を想うその気持ちは痛い程わかる。じゃがの……」
闇が早々に晴れていく。
リング中央には人影が二つ、立ったままの状態で確認できる。
「――わしの孫を傷つけ、まさかただで済むと思ってはいまいな?」
レフィアは頭部を鷲掴みにしていた。それは先程まで相対していたサイアスのモノであった。
頭部を失った胴体を小突くと、どすん、と小さく音を立て倒れこみ、捻り千切られたと思われる歪な首の切断面からは、ごぽごぽと血が溢れ出ていった。
「不愉快な思いをさせた罰じゃ」
頭部を無造作に投げ捨てるとリングから出ていった。
『……えー、色々とありましたが、第六試合はレフィア選手の勝利です!!』
控え室に戻ると待っていたのは恐怖に満ちた眼差しであった。
「ふん、人というのは何年経っても変わらぬな」
「あ、レフィアー! おかえり! なんか凄かったねー。一緒にかえろ!」
「……お主、儂が怖くないのか?」
「んー、人殺しちゃったのは良くないよね! ダメだよ!」
キャミィはぽかっとレフィアの頭を叩く。
しかし、彼女の言動に思わず大笑いをしてしまった。
「ふ、ははははは! 全く、おかしな娘じゃ!! どれ、では罪を償うとしようか」
「え? あ、うん。えーっとね、十万Jil払えばいいみたい! あ、武踏会の中で起きた事だけだよ? 外で殺っちゃだめよ?」
「そうかそうか。あい、わかった。しかし持ち合わせがないのじゃが。さて、どうしたものか」
「カイルに払ってもらお! きっと優勝するから大丈夫だよ!」
「ほう、しかし儂が優勝しても問題ないのじゃろ?」
「そうだけど……その能力、いつまで有効なの?」
「わからぬ」
「そのレフィアってレフィア?」
「うむ、レフィアでよいぞ」
「おばあちゃんなの?」
「ふ、まぁそうなるのかの」
二人は楽しそうに宿へと戻っていった。
『第八試合の勝者は!! なんと可憐な少女、アイリス選手!!! 不思議な力で見事準々決勝進出ー!!!』
「まさかアイリスがベスト十六まで残るなんてな」
「ええ、もぐもぐ、全く素晴らしいもぐもぐ、です」
「……えっへん」
カイル、シーラ、アイリスは宿に併設されている食堂で夕食を共にしている。
「そういえばキャミィとレフィアは最近いつも一緒だな」
「たまたま控え室が、もぐもぐ同じだったようですよ。もぐもぐ、私もカイル様と一緒がもぐもぐ、良かったです」
「……今日も一緒だった」
「シーラ、ゆっくり食え」
「もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ、申し訳ございません……お恥ずかしい。あ、すみません。これとこれおかわりと、これとこれとこれ追加お願いします」
「……胃袋が宇宙」
カイルも大食らいだと思っていたが、シーラはもはや次元が違う、そう感じ少々呆れてしまった。
「そういえば今日のレフィアは様子がおかしいようにみえました。カイル様は何かご存知ですか?」
「いや、最近は話してないしな。明日会いにいってみるか……」
「……それがいい、喜ぶ」
「あー! にいさん、奇遇でんな! オレもご一緒してよろしいですか?」
偶然か、【刃王】エッジが食堂へやってくる。カイルが答える前に席へと座り注文をしていた。
「カイル様、お知り合いですか?」
「せやねん、オレ、エッジ・クラフト言います! こんな美人さんとお知り合いになれるなんて、えらい光栄です!!」
「あら、お上手ですね」
ぐっ、と手を捕まれたシーラだが、もう片方の手でそれを叩きほどく。
「いやー、しかしにいさんも隅に置けませんな! 二人も可愛い女の子はべらかして、いやーやり手ですやん!」
「……じゃあな」
「にいさん、女神さんとはどないでした? あない恨まれては口説き落とせへんかったやろ?」
カイルの形相が一変し、エッジを睨み付ける。
「あらー、何で知ってんねんって感じです? オレもそっち側やねん」
「何者だ?」
「にいさんがオレに勝ったら教えたるわ。弱いやつ嫌いやし」
二人は殺気をぶつけあう。
「わかった。武踏会で会おう」
「あっさり言いよるけどなぁ、次【拳王】やろ?」
「それが何か?」
そう言い放ち席を離れるカイル。
彼を追ってシーラとアイリスも食堂から出ていった。
一人残されたエッジは冷や汗をかいている。
「……おー、こわ。あらあかんな、存在としての格がちゃうわ。あー、どないしよ」
言葉とは裏腹に笑いを堪えきれないエッジ。
そして夜が明け、準々決勝が開始される。




