第23話 それぞれの戦い 前編
迫る炎に対し両手を回してかき消す。
その炎を目眩ましに使い、フィルがもう片方の剣をカイルの頭部目掛けて突き刺していた。躱した直後、剣身から光が発せられ視界を奪われた。
「我が剣技、受けてみよ! 【蠢く紅炎の蛇】!!」
剣身の短い剣を逆手に持って一気に降ると、剣から巨大な炎の蛇が放たれる。その蛇を押さえながらも威力におされ飲み込まれる。
「塵と化せ! 【轟く雷光の一閃】!!」
フィルはすかさず次の技を放つ。
もう一本の剣が光輝きそれを振るうと、剣身から放たれた雷がカイル目掛けて降り注ぐ。リングにも当たり粉塵を巻き上げカイルの姿も飲まれていった。
『これがフィル選手の必殺奥義! 彼は剣を通して様々な技を扱える能力の持ち主でもあります!! これはカイル選手も苦戦しそうです!!』
「ふっ、どうだ! これぞ我が奥義!!」
剣を構えてポーズを取る。しかし粉塵が晴れた先にはカイルの姿があった。
「良い威力だ……広範囲なのも高評価だな」
「へ……?」
服は多少焼け焦げ皮膚も黒く火傷の後が見受けられる。
「さぁ、他の技も見せてくれよ」
カイルは構えもせず、両腕をだらりと下ろしたままフィルに襲いかかった。
「くっ! 【炎雷の斬擊】!」
剣を交差して構えて振り下ろす。
炎と雷を纏った斬擊が迫ってくるカイルに向けて放たれた。それを左手で薙ぎ払いフィルの目の前に辿り着くと右拳で顎を打ち抜く。フィルの体は糸の切れた操り人形のようにその場で崩れ落ちた。
『……え? あれ、もう? あ、決着! 決着です!! えー、あっという間で私、見入ってしまいました。カイル・イングラム選手の勝利です!!』
控え室に戻ると待っていたのはやはりこの男。
鉛の強いエッジ・クラフトである。
「にいさん圧勝ですやん! ほんまめっちゃ強いやん、どないなってるん?」
笑みを絶やさず喋り続ける。カイルはそれを黙って聞いていた
「お、そろそろオレの出番ですわ。ほないってきまっせ!」
「あぁ、頑張れよ、【刃王】」
にぃっと、【刃王】エッジ・クラフトが笑いリングへと向かう。
それを見届けてカイルは独り闘技場を後にした。
***
『えー……【刃王】エッジ・クラフト選手の勝利、ですがこれは……対戦者、息をしておりません。従いまして……』
「あぁ? ええって、十万やろ? なんぼでも払たるわ」
会場は静まり返っていた。
エッジの目の前には無数の切り傷のついた血塗れの死体。片腕は切断されており離れた場所に無造作に捨て置かれている。片脚は膝から下が無く、残った脚も足首から下は肉と骨、という表現しか出来ない程損壊している。
【刃王】のポリシーだろうか、惨たらしい身体に対し顔だけは無傷である。
「まぁまぁ楽しかったわ。ほなな」
『……えー、リングの状態を整える為、十五分ほど休憩とさせて頂きます――』
【十王】の恐ろしさを見せつける一戦となった。
その様子を、もう一人の【十王】が見ていた。
「全く汚い試合をする。だからこいつは嫌いなんだっ!」
彼女は【拳王】ティアリエ・ゴッドバルツ。
見た目は可愛らしい少女だが、若冠十八才にして【十王】の称号を手にいれた規格外の存在である。
『それでは第三試合、開始!!』
すたすたと対戦相手の元へ歩いていくティアリエ。
五メートルくらいまで近付くとピタリと歩くのを止める。
相手が動こうとしたのを見計らい一気に踏み出し、相手の懐まで潜り込み掌を見舞うと、相手はそのまま壁まで飛んでいきめり込んだ。
『……【拳王】ティアリエ・ゴッドバルツ選手の勝利です』
ふん、と鼻をならすとリングから去っていく。
一呼吸間を開け、リング内は歓声に包まれた。
「相変わらずごっつ人気ですやん。羨ましいですわ」
「戦い方を改めろ。そうすれば人気も出るぞ」
「しゃないやん、あんなん弱いもんが悪いんやで?」
「……貴様と話していると反吐がでる。良い機会だ、この武踏会で貴様を【十王】の座から引きずり出してやる」
「そないな事出来るんかいな? お嬢ちゃん?」
殺気が渦巻く。お互いに一歩でも動けば殺し合いが始まると感じていた。
『まもなく第四試合を始めます!! まずは――』
「ふー、まぁええわ。どうせティアリエちゃんは勝ち上がられへんからなぁ」
「なんだと?」
「そっちのブロックは【王喰】呼ばれとるにいさんのもんや。あれにはだーれも勝たれへんで? オレ以外はな」
「……上等だ。そいつは潰して貴様は殺す。残り僅かな人生をせいぜい楽しむんだなっ!」
ティアリエは怒りながらその場を去る。
エッジは大きな溜め息を吐くとその場で座り込んでしまった。
「……めっちゃしんどいわ」
『さぁ第六試合、この試合は皆さん注目されているでしょう……今日初めて見る方の為にもう一度ご紹介させて頂きます!』
『ランペイジ武踏会と言えばこの方。もはやその存在は伝説! 第百十二回、続く百十三回武踏会を能力を一切使わずに連覇、その後ランペイジ王国に執事として雇われた後も五大会連続優勝という偉業を成し遂げました!!』
『ミスターランペイジ!! グラン・エンハンス!!!』
『対しますのをこの方! 世界三大クランの一つ【血塗れの狼】の団長!! 更にこの方は一度【十王】に誘われるもそれを断っております!!! クランのモットーは自己責任。来るもの拒まず去るもの追わずで様々な問題も数多くありますが、そんなものは知ったこっちゃねぇ!! ガーランド・バスクレイ!!!』
「随分と手の込んだ紹介じゃねぇか。昨日はこんなの無かったろ?」
「なに、ちょっとした演出でございますよ。こういうのは強者同士の方が盛り上りますでしょう?」
「ガッハッハ! 違ぇねぇや!! ところで昔は能力が無かったろ? あんたのその力、誰に貰ったんだ?」
「……さぁ、何のことやらさっぱり分かりませんな」
観客のボルテージは最高潮で司会者の声も埋もれる程の大歓声となっていた。
『それでは第六試合、開始!!!』
「ガハハハ! おら、いくぞっ!!」
先に動いたのはガーランド。正面からグラン目掛けて殴りかかる。その拳をひらりと躱し距離を取る、が。
「甘ぇよ!」
ぐっと力を入れると、距離を取ろうとしたグランがその場から動かず棒立ちしているように見える。ガーランドは間髪を入れず殴りつけた。
「リングの外まで飛んでいきなっ!!」
『な、なんと!! これは一体……? グラン選手の動きが急に止まったかと思えば一撃でとんでもなくぶっ飛んでいきました! これはガーランド選手の能力なのでしょうか!?』
【引力操作の筋肉】――
ガーランドの筋肉を基点に半径五十センチメートルの引力を操作する能力である。効果範囲内であれば引力を発生させるポイントは自由に設定が出来る。引力の強さも細かく設定可能だがガーランドはいまいち良く分かっていないので大雑把に使用している。
「これで俺の勝ちだぁ!!」
観客は唖然としている。
大声で勝利宣言をしたガーランドのすぐ側にはグランが立っていた。
『こ、これはどういうことでしょう? ガーランド選手に何が起きているのでしょうか……?』
グランの能力は【精神操作の幻眼】――
目が合った対象を五秒間だけ心を操る事が出来る能力である。当然幻覚や幻聴も思い込みで発生させる事が出来る。対象は支配された自覚が一切無くそれは現実のものと認識される為、効果が切れた後も能力にかけられたと気付かれる事はない。
強い精神力や信念を持った者には効果が薄く、それをねじ曲げた支配は出来ない。また、自害をさせたり他者を殺害させるといった事も本人が望んでいなければ難しいが、僅かにでも隙があればそこを利用して行わせる事も可能である。
グランは咄嗟にこの能力を使用してしまった。
それだけガーランドの能力が強力だったのだ。既に身動きが取れる状況ではあるが、接近戦はまず勝ち目がない。
「仕方ありません。姑息と思われるでしょうが……」
グランはある程度距離を取ると懐から細長い投げナイフを幾つか取り出しガーランドへ投げ付けるが、殺気を察知したのか野生の勘か、それを全て叩き落とす。
「む! いつの間に移動しやがった!! まぁいい、貴様も倒すだけだ!!」
跳躍して襲い掛かってくる所に更に投げナイフを浴びせる。
幾つか刺さり傷が出来るが、ガーランドの筋肉を貫く事が出来ず、浅く刺さり抜け落ちていった。
「ガハハ! 無駄だ!!」
ドスンッ! とグランの近くに着地すると同時に能力を使う。
グランの足元に引力を発生させ動きを封じると再度殴りかかろうとした時、ガーランドはその場に倒れこんだ。
「ふぅ、やっとですか……とんでもない方ですね」
「毒か……?」
「いえ、睡眠薬です」
眠気を僅かでも感じさせれば、精神操作でその感覚を増長させ更に深い眠りに誘う事が可能だ。
まだ意識があるのかグランの身動きは取れないが、後はこのまま
ガーランドが眠るのを待つばかりである。
『ガーランド選手、倒れこんでしまった!! ナイフに何やら仕掛けがあったのでしょうか?』
ふっと、グランの体が軽くなる。能力が解かれた事で勝ちを確信しガーランドに背を向けたその時。
「甘ぇんだよ……この程度の眠気なんざ、根性でどうにでもならぁ!!!」
グランの脚を掴み、持ち上げるとそのまま体をリングにぶつける。一瞬で意識が朦朧となるグラン。反動で体が浮きそのままリングの外へと放り投げ飛ばされた。
『なんという事でしょう……私もグラン選手の勝利を確信しておりした。しかし勝ったのはガーランド選手!! 勝因は気合いですっ!! 根性の勝利です!!!』
「へへ……ざまぁみやがれ……」
ガーランドはその場で崩れ落ち、寝た。




