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第22話 揺れる心

 カイルは城から出て街をぶらぶらと歩いていた。

 今さら控え室に戻るつもりもなく、また仲間の戦っている所も見たいとは思っていなかった。

 フェアプレイの精神など微塵も持ち合わせていないのだが、どうせなら未知の力を初見で味わいたい、とカイルは考えている。

 前の世界で最強無敵の存在であった彼にとって勝利は確定事項であり、戦闘というのはいかに過程を楽しめるか、というある意味娯楽のようなものであった。

 つまり彼女たちの未知の能力はまさに彼にとっての娯楽である。


(ミリアの能力は俺に似ていているが、強化ポイントの違いが面白かったな。しかもまだ伸び代がある。うまく鍛え上げれば或いは――)


 或いは自分に勝てるか?と考えた所でありえないと、思わず笑ってしまっていた。そのような考えはとうに捨てたはずだった。

 破壊神を名乗る男を二百年前に倒した時から――


「お客さん、おかわりいるかい?」


 気が付けば無意識に入っていた酒場で、ウェイトレスに声をかけられる。


「あぁ、貰うよ」


 カイルの視線は、自然とスクリーンに目がいっていた。


「旅の人かい? 武踏会の時はこれが設置されるんだよ。凄い技術でねぇ、なんでも古代に存在していたドワーフって種族の末裔が作ってるらしいんだけどね。まぁ、私らからしたら面白ければなんでも良いんで――」


 恰幅の良い熟女は飲み物を持ってきてからひとしきり喋ってから席を離れていった。

 意識をしていなかったが、この酒場もかなり繁盛しているようだ。皆、武踏会が気になるのだろう。顔はスクリーンに向けられ、戦いの様子を見ながら様々な感想を喋りあっていた。

 そんな様子を冷静に見ていたカイルは虚しくなり、早々に酒場を出た。夕暮れに街が染まり酒場や食事処は更に賑わいを増す。カイルは一人、宿へ帰ろうとしてハッと気付いた。

 彼はとても酒が弱いのである。慌てて闘技場に戻りトーナメント表を確認していると、偶然ガーランドが通りかかった。


「おう! 一回戦から派手な試合やってたなぁ!!」

「……あぁ」


 既に酒が回ってきているのか、ガーランドの声が頭に響く。カイルは顔をしかめながらシーラの試合が終わっていない事を確認した。


「ねぇちゃんたちは一緒じゃねぇのか? 今のところ勝ち上がってるみてぇだから微妙だよな! 仲間だけど敵っていうな!!」

「……あぁ」

「仲間といやぁよ! うちのクランの連中も来てんだよ!! 参加もしててな、今白いエルフのねぇちゃんと戦ってるぜ!!」

「……そうか」

「よう、どうしたんだ? 元気がねぇな」

「……気分が悪いだけだ」

「そうかい! ……げ! マスカのやろう、負けやがった……」


 どうやらシーラが勝ったようだが、カイルはそれどころではない。どんどん気分が悪くなり頭も重く感じる。


「それじゃ俺は仲間を慰めに行ってくるぜ! お前さんと戦えるのを楽しみしてるぞ!!」

「……俺もだ」


 ぐったりしながら手を振る。それからどれだけ時間が経ったのかカイルには分からなかった。もしかしたら寝ていたかもしれない――それぐらいあやふやな意識の中で朦朧(もうろう)としていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「あら、カイル様。いかがされました?」

「……シーラを待ってた」

「まぁ、それは嬉しいですね。……酔っていなければ、ですが」

「……酔ってはいない」

「そうですか」


 苦笑しながら隣に腰掛け、カイルの額に手を置いた。

 シーラの手が白く輝き、意識が次第にクリアになっていく感覚。しかしとても気持ちが良いその感覚に、今度はカイルに睡魔が襲いかかってくる。


「ここからわたくし一人で運ぶには少し距離がありますので、宜しければ続きはわたくしの部屋で……」

「……あぁ」


 ふらふらとシーラに支えられながら宿へと戻る。


「そういえば勝っていたな。おめでとう」

「まぁ、見てくださっていたのですか? 嬉しいです、ありがとうございます」


 ガーランドから聞いただけなのだが、カイルは余計な事を言う気力がない。


「カイル様と戦うには準決勝までいかないとですね。それまで頑張ります」


 カイルは答えない。答えられなかった。

 先程まではシーラを含め彼女たちと戦う事を楽しみに感じていたはずだった。だというのに、目の前でその事を考えると、とても戦いたいとは思えい。

 カイルにとって戦いたいとは生死のやりとりである。果たしてそれを行えるのか、そのような事を考えている内に宿へついた。


「……無理はするなよ」

「お酒でふらふらになっている貴方に言われましても」


 シーラはくすくすと笑いながら部屋へと入る。

 そのままベッドにカイルを寝かせ、手を額と腹部に当てるシーラ。うとうとしているカイルを見て穏やかな口調で声をかける。


「わたくしはソファで寝ますので、どうぞごゆっくり」

「……俺は床でいい」

「また一番最初に戦うことになるのですから体を休めてください。どうか、わたくしの事はお気になさらず」

「……だったら隣で寝れば良い」

「え!? あ、あの、でも……」


 赤面しながら慌てている間にカイルは眠ってしまった。その安らかな寝顔を見ながら、シーラは暫く手を当て続けていた。


 早朝、まだ日が出始めて間もない頃。

 カイルはソファで寝ているシーラをベッドに運ぶと静かに部屋を出る。


「……ありがとう」


 起こさないようにお礼を口にして自分の部屋へ戻り武踏会の準備をする。スクリーンに映るトーナメント表は更新されており、勝者の二つ名と名前が大きく表示されている。

 一際目立つ【王】の文字。カイルは初めて【刃王】と【拳王】の名前を認識した。



『レディース&ジェントルメーン! 皆様お待たせ致しました。一回戦十六試合を経てからのここ!! 本日もランペイジ闘技場にて、年に一度のランペイジ武踏会、第二回戦を開始致しますっ!!』


『それでは第二回戦の第一試合を始める前に、選手のご紹介をさせて頂きます! まずは一回戦にて圧倒的な強さを見せつけたカイル・イングラム選手――』


 司会の声がスクリーンを通して聞こえてくる。

 カイルは控え室で呼ばれるのを待っていた。


『そして対するは、ランペイジ王国騎士団所属! 団長! フィル・サーバイン選手です!! 彼は類い稀なる剣術の使い手で一回戦を勝ち抜きました。加えて彼の特種な――』


「おや、にいさんどないしたんですか? あ、もしかして便所かいな! はよいっとかなあきませんよ?」


 やたらにこやかに話しかけてくる青年の目は細くカーブを描いており、口許は緩く口角がこれでもかと言わんばかりに上がっている。カイルは少しうんざりした顔でこの青年(エッジ)の顔を見た。

 彼の独特の方言に対し親近感が湧く者もいるだろうが、カイルはむしろ苦手と感じていた。加えて過剰な笑顔で接してくる者は信用出来ないと思っているから尚更だ。


『第二回戦、第一試合を始めます。カイル・イングラム選手、リングまでおいでください』


「お、呼ばれてまっせ! にいさん頑張ってください!」


「……あぁ」


 カイルは軽くため息混じりに、しかし無視をするには良心が痛みつい返事をする。

 にこやかな笑顔がよりにこやかになったような気がして、それも後悔した。



『皆様! 大変ながらくお待たせ致しました! ランペイジ武踏会二回戦第一試合を開始致します!!』


 観客の盛り上がりは昨日よりも凄まじく、野次のような声援まで飛び交っている。


『まずはこちら! 【王喰(キングイーター)】の名は伊達じゃない……あの【戦姫(バトルプリンセス)】ミリアを倒した実力は本物だ!! 史上最短でAランクに認定された実力者、カイル・イングラム!!!』


『対しましてはこの人! 一回戦では見事な剣技と能力で終始対戦者を圧倒しておりました。なんとランペイジ王国騎士団長でもあります! 【炎雷の騎士】! フィル・サーバイン!!』


 観客は大いに盛り上り歓声を送っている。フィルはその甘いルックスで女性ファンも多く、黄色い声援も響いていた。


「カイル・イングラムさん……ようやく貴方に会えた。お噂はかねがね」


 いつの間にか、フィルの両手には見たことのない形状の剣が握られていた。元々用意されたものを取り出した様子も無く、突如としてそこに現れた。


「我が名はフィル・サーバイン。ランペイジ王国騎士団の名誉にかけて。そして、ミリア姫の雪辱を晴らす為! あなたはここで舞台から退場していただく!」


 片手には平たく太い剣身が短めな剣。赤く模様が刻まれている。もう片手には細長く、青い装飾が施されたシンプルな騎士剣のようだが剣身が途中から二股に分かれていた。



『それでは二回戦第一試合……開始しますっ!!』



 司会者が試合開始の掛け声をしたと同時に、フィルは平たい剣をその場で振り下ろす。激しい音を立てながら刀身から炎が吹き出てカイルを襲った。

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