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第02話 能力者は突然に

「とりあえず服が欲しい」


 男の目の前には気を失った女性。

 彼女を助けるにしても裸では都合が悪いと考え、とりあえず彼女の服を脱がし始めた。

 程よい大きさの乳房、腹部も余分な脂肪は無くしかし男心を擽るような肉付きの体型。

 決して悪くないスタイルの女性が下着姿であるにも関わらず、全く見向きもせず彼女が着ていたシャツとスカートを剥ぎ取るとそれを着始めた。


「意外と馴染む……なんだこの貧弱な体つきは」


 男は見慣れた筈の腕や脚に違和感を覚える。

 女性の腰ほどの太さを誇る脚、首ほどの太さを誇る腕、見事に鍛え上げられ素の状態で鋼以上の強度を誇った胸板及び腹部――

 その全てがスケールダウンしていた。だが内から湧き出る力は以前のものと同じように感じる。


「なんでもいいか」


 一言で済ませた。

 女性物のシャツとスカートを着用した男が下着姿の女性を担ぎ上げ歩く様は、まさに異様な光景と言いざるを得ない。すれ違い様に好奇の眼差しを浴びせられていたが、男は意にも介さず道なりに歩む。当然スカートの下は何も履いていないのでぶらぶらさせている。

 しかしここで一つの問題が発生した。彼はここがどこか分からない。人通りも多くなくこの女性も意識を失ったまま、しかも全く見覚えの無い土地。

 どうしようかと思い、とりあえず人に助けを求める為に大声で叫んでみることにした。


「困ったなぁー! ほんっとーに!! あー困ったなああぁぁぁ!!!」


 声量も異常な程にデカい。

 こんな怪しいヤツが大声で叫んでいるとなるとそれこそ誰も近寄らなくなりそうだが、男は困った経験が無かった為この方法しか思い浮かばなかった。

 すると、後方からやってきた大きな荷馬車が男の横を通り過ぎ少し前に進んだ所で止まる。荷台の中から男が出てきた。


「よぅ、困ってるみてぇだな。助けてやろうか?」


 いかにもな悪人面した青髪の男。耳と鼻には装飾品(ピアス)を付けており、体の肉付きはそれなりに良さそうに思える。


「そんな格好で……えー……何か事情があるんだろ? 力に……なるよ」


 青髪の男はどうにも歯切れが悪い。

 何故か、を女装したノーパン男には理解出来なかった。


「感謝する。まず服が欲しいんだけど無一文なんだ。次に俺を見てこの女が気を失ってしまったようで家に送りたいが場所が分からない。どうにかしてくれ」


 この説明を受けて青髪の男は絶句した。

 アルビーはヤバい奴に声をかけてしまった事を後悔しながらも、同時に頭の悪い男に巡り合わせてくれた神に感謝する。


「おう、だったら俺が服一式分けてやるよ。ついでに金もくれてやる」

「本当に? 良い人がいるもんだな」

「だろ? あとその女も俺が責任もって家まで送ってやるからよ」


 そう言って青髪の男は荷台へと向かったが、すぐ男の元に戻ってきた。


「じゃあこれが服と金な。まー金は返さなくてもいいぜ」

「そんなわけにはいかないよ。名前を聞いても?」

「見た目の割には律儀だな…… アルビーっつーケチな商売人だよ。あっちこっち移動してっから会えたら奇跡だな」


 アルビーは左手で服と金を渡し、右手を差し出してくる。

 女装した男は右手を差し出し握手をした。


「ありがとう、アルビー。それではこれで」


 握手をほどきそのままこの場を去ろうとする男。

 それに対しほどきかけた握手を再びするアルビー。

 その手は渾身の力が込められていた。


「おーいおい、待てよにいちゃん。女だよ女、置いてけよ」


 男はきょとんとした表情を浮かべ首を傾げた。

 意図が伝わっていないのか、それとも只の馬鹿なのか。

 アルビーは再び、今度はドスを効かせて怒鳴りつけるように声を荒げた。


「だぁかぁらぁ!! その抱えてる女渡せったってんだよ!! 分かんだろぉ? この金と服と引き換えにっつー事はよぉ!?」


 アルビーの怒鳴り声を聞き、荷台から数人の男が降りてきた。

 誰もが少し殺気立っているのを感じる。

 しかし女装した男は表情一つ変えず言い放つ。


「……それは宣戦布告か?」


 拳を構えた男からは尋常ならざる闘気が溢れ出ていた。

 普段なら小便撒き散らしながら土下座謝罪コースなのだが様子がおかしい。

 リーダー格のアルビーを始め何やらニヤいている。笑いを堪えきれず噴き出してしまった者もいた。


「アルビーさん、こいつめっちゃビビってねーっすか!? 強がり方はんぱねー!!」

「クックック……全くでさぁ。【舌王】の異名を持つ【能力者(ホルダー)】のアルビーさんを知らねぇってこたねぇはずでさぁ。そうさぁビビってますさぁ」

「う、う、う、う、うんうん」


「やめろやめろ! そんなにビビらすんじゃねぇよ!」


 モヒカン、猫背、デブと三拍子揃ったチンピラ三銃士とアルビーの茶番劇が始まった。

 大体この手の連中は部下が威圧し、リーダーがそれを咎め、対象に優しく接して警戒心を解かせるという鉄板コースを仕掛けてくる事を、男は知っている。


「怖がらせちまってすまなかったな、にいちゃん。ちなみに名前何てんだ?」


「エリグラーズ・ルクカインだ」


「おうおう、そうかい。エリグラーズ・ルクカインさんよ。テメーは……」



『そこから一歩も動くんじゃねぇ――!』



 アルビーは何故か自信の舌を出し続けている。

 周りはそれを不自然と思っておらずニヤつき続けている。

 自身の名を名乗った男は立ち続けていた。


(動けない…… 何だ、魔法の類いか? しかし麻痺の耐性は持っていたはずだが。かつて竜王の麻痺毒の息(バインドブレス)を浴びた時でも二秒で解けたというのにこれは……)


 困惑の表情を浮かべていると、舌を出したままのアルビーが近寄りながら喋ってきた。


「きょれは【じぇちゅおー】ぬぉいぎ、【ひんびゃく】! ほへにななえうぉちゅげはへたもののこうぼうをしばうのうろくよ!」

(これは【舌王】の秘技、【心縛】! 俺に名前を告げられた者の行動を縛る能力よ!)


「……何故舌を出したままなんだ」


「そへは」(それは)


「何言ってるか分からないから、誰か代わりに答えろ」


「ではアッシが! それは、アルビーさんの能力は【舌を対象に向け続けている間】のみ発動するからでさぁ!」


 物凄く自慢気に勝ち誇った表情をしているがどこか苦しそうなアルビー。


(確かに魔法と異なり耐性など無意味に思えるな……行動しようとする気さえ起きない。これは厄介だ……)


 強靭な精神力にあらゆる魔法、あらゆる毒に耐性を持っていても未知の能力に通用するかは別だ。

 加えて今の自分はどうやら姿形が別人のようである。男は少し考え込むと右手で頭を掻いた。


「さて、どうするか……ん?」

「へ?」

「ハァ!?」

「どうしてでさぁ!」

「う、う、う」


 動ける、と確信した瞬間、一瞬で距離を詰めアルビーに対し横蹴りを放つ。

 男はなるべく手加減をしたつもりだったが、二十メートルは軽くふっ飛んでいった。


「あ、あ、アルビーさああぁぁぁん!!」


 チンピラ三銃士は慌ててアルビーの元へ駆けていく。

 場に残されたのは女装した男と大きな荷馬車。

 

 そして――


「きゃああああぁぁぁぁぁ!!」


 下着姿の女性である。

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