第14話 戦いは終わり、そして
クリスティーナの無事をシーラから伝えられたカイルは、四角形にそびえ立つ壁の頂点によじ登り、中へと入っていく。
「レフィアー! 大丈夫かー?」
「……大丈夫よ」
大声で叫ぶカイルとは反対に小さく呟き返事をするレフィア。
下へ降りると、明らかに不機嫌そうな表情をしていた。
「あの……遅くなって悪かったよ……」
カイルは申し訳なさそうに恐る恐る謝る。
「いいわよ。一つ貸しだからね」
レフィアが笑いながらカイルの肩を叩いた。
「しっかし狭いわね……」
壁の中は二人入ると結構狭く身動きが取れない。
「背負うから捕まって」
「重いよ?」
「余裕だ」
レフィアはカイルの背中に体を委ねる。
胸が押し当てられ形が変わるのをお互いに感じていた。
カイルは指先に【闘気】を集中させ、壁に突き刺しながら登っていく。
「もう終わったの?」
「まぁな」
「そう、なら良かったわ」
「レフィアの……黒い剣みたいなやつ。あれが能力なのか?」
「んー、まぁ」
どうにも歯切れが悪いが、カイルは構わず聞いた。
「へぇ。あれってもっと別の使い方も出来るだろ? 剣だけじゃなくて盾とか、それこそ全身に纏って攻防一体みたいにも出来そうだし。それに――」
「カイルってさぁ……」
レフィアが大きくため息を吐きながら呆れたように言うが、カイルからは見えないその顔には笑みがこぼれている。
「着いたみたいね。あー外の空気は美味しい……ことも無いわね」
ただでさえ城跡だというのに、更に城壁は破壊され瓦礫と化し辺りは砂埃も立ち込めている。
下を見ると頭部と右手右足が無い馬鹿でかいグールの死体が横たわっている。
今初めて、壁の中に居て良かったとレフィアは思った。
「なんか大変そうだったみたいね」
「あぁ、中々楽しかったけど流石に疲れたよ」
「あーそう、この光景みて、楽しそうだったわね! なんてとても言えないけどね」
レフィアの皮肉もカイルには届かず、またそれが良いとレフィアは感じていた。
(酷い光景だし凄い疲れたけど――)
カイルに抱きかかえられたまま壁を飛び降りる。
僅かな時間だったがレフィアにとってそれはとても長いひと時であった。
「カーイールー! レーフィーア―!」
「……無事でよかった」
両手を振りながらぴょんぴょん飛んでいるキャミィ。
アイリスはいつもと変わらないが安堵しているようだ。
シーラも駆けつけてくるが、クリスティーナの姿は無かった。
「シーラ、姉さんは?」
「それが……その……」
シーラが何か言いかけた時、カイルはクリスティーナの姿を遠くに見つける。
「姉さん、もう大丈夫?」
声をかけながら近づいていく。
クリスティーナは虚ろな目をカイルに向けていた。
「カイル……私もう疲れちゃったの。家に帰りましょ?」
「その前にギルドに報告しに行かないと。あ、ロディさん忘れてた……ちょっと助けに行ってくるよ」
ロディが閉じ込められてる壁に向うカイルを目で追い続けるクリスティーナ。
彼女にとって、弟がここまで自分の言う事を聞かないのは初めてであった。
「すみません、ロディさん。助けるのが遅くなってしまって」
「いや、むしろありがたかったよ。こんな巨大なグール……見ただけで恐ろしくてその場から動けなかっただろうし」
ロディは大型グールの死体を見ながら青ざめた表情で言った。
「しかしカイル君の仲間は何というか……美人ぞろいで羨ましいなぁ! どう? みんな一緒にうちのクランに」
「あら、いやですわロディ様ったら」
「キャミィ美人だって!」
「……ふふん」
「あんたたち……本当にちょろかわいいわぁ……」
自慢げな表情を浮かべる三人にレフィアが呆れた顔をしている。
「ロディさんも一緒にギルドへ報告しにいきます?」
「そうだなぁ……うん、君たちと一緒に行った方が色々と良いかもな。じゃあギルドまでの間よろしくたのむよ。」
「ええ、こちらこそ。……あ、そういえば聞きたかったんですけど、ロディさんの能力って?」
「あー……俺の能力はな、【強靭なる心身】。自分へのあらゆる負担・負荷を十分の一にするんだ」
皆が言葉に詰まり微妙な間ができる。
「ハハ! 地味な能力だろ? よく言われるんだよな!」
慣れたものなのか笑いながらロディが言う。
それに釣られて他の皆も笑っていたが、カイルだけは何やら真剣に考えていた。
「負荷が十分の一という事は、非能力者と比べあらゆる攻撃に十倍強いってことか……耐久面で言うとかなり上位の能力な気がするけど実際はどうなんだろうか……」
「この戦闘バカ……」
レフィアが呟くと、ロディも思わず吹き出してしまい、辺りは爆笑に包まれた。
カイルだけが何故皆が笑っているか分からずきょとんとしていた。
「さぁ、皆さん。馬車へ戻りましょう。こんなところ早く出て宿屋でゆっくりしたいですし」
シーラの一言で皆馬車へと向かう。
カイルはそれを眺め、皆とは少し離れて歩き出す。
「カイル君、相当無理したようだね」
不意にロディが声をかけた。
「無理なんてしてませんよ」
カイルの表情は硬い。
「君は何者だい? 彼女たちも謎だが……君はなんというか、異質だね」
「あぁ、勘違いしないでほしいんだけど、だからといってどうこうしようなんて思っていないんだ。行き過ぎた好奇心ってやつさ」
カイルの視線が鋭くなったのに気づき、ロディは慌てて言い繕う。
「戦闘中と今の君は別人のようだし、喋り方というか、雰囲気が違ってみえる。不思議だね。そこが魅力的なのかな?」
ロディは笑いながら歩みを早める。
「でも、俺程度に見抜かれるようじゃまだまだだぜ。【十王】は甘くないからな。隠すならもっと上手くやることだな」
前を行くロディの背中を見ながらカイルは自嘲気味に笑った。
「Aランクの称号は伊達じゃないか」
表情には出さないが歩く度に全身が軋むように痛む。
しかし、久しく感じていなかった痛みにカイルは喜びを感じていた。




