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第12話 命王フェレス・ファウスト

 この世界には十人の王を名乗る者がいる。

 【十王】――決して国の君主というわけではない。

 彼らは言う、我々こそが【能力者(ホルダー)】の頂点だと。その発言は当然、反感を買うものであった。

 だが、その称号は全ての【能力者(ホルダー)】にとって憧れの象徴となり、全種族にとって恐怖の象徴となっている。



 【命王】フェレス・ファウストは涙ながらカイルたちに対し非難をぶつけていた。


「なんて酷いことを……アナタたちは命をなんだと……なんだと思ってるのですか……?

 あああぁぁぁぁ…………生命への冒涜だああぁぁぁぁああああああ!!!」


 感情の起伏が激しいのだろう。

 泣きながら叫びだしたと思ったら急に激怒している。

 脚を地面にドンドンと叩きつけ、まるで子供が癇癪を起こしているかのようだ。


「まぁまぁ、落ち着きましょうやフェレス様」

「そーですよん♪ 彼らも大事なお客様じゃないですか♪」


 慣れたものなのか、二人の男が苦笑しながらもフェレスをなだめる。

 右に立っているスキンヘッドの男は、薄着で腰のベルトには幾つものナイフを携えている。

 左の男は金髪ロングで毛先はくるくるとカールしていた。

 服にはフリルがあちらこちらについており、どう見ても婦人服を着ている。

 しかし体格は誰よりもたくましく、顔つきも明らかに男と分かるほど男らしい。


「あら? そこの男らしい彼、良いじゃない? 私、エレン・カマディウスっていうの。ヨロシクネ♪」

「何がエレンだよ、お前の名前ゴルディウスじゃねぇか」


 隣の男が聞こえるように呟いた言葉を無視し、自称エレンのゴルディウスはロディに向けてウインクをした。


「……俺はリョウ・マクガーレン。覚えなくていいぜ」


「さて! 自己紹介してください? さぁ、さぁさぁさぁ!!」


 眼を見開き身を乗り出してくるフェレス。


「カイル・イングラムです」


 彼らが何者かまだ分かっていなかったが、ロディの怯えかたを見ると只者ではない。

 しかし敵か味方かの判断は待とうとカイルは思っていた。


「……レフィア・グリンガム」

「ろ、ロディ・テンフィルドです! あああの! 【命王】にお会いできるなんて光栄ですっ……!」


 奥歯をガチガチ鳴らせながら、ロディは大袈裟にフェレスに向けて自己紹介をする。


「おー? おーおーおー、私を知っている? そりはウレシー!」


 フェレスは白眼をむきながらぴょんぴょん跳び跳ねる。

 頬は痩せこけ顔色も悪く、ぼさぼさ髪の白髪混じり。

 服は研究者が着るような白衣を着ていた。


「んっんー、君たちはグールを倒したね? あれは私の研究対象でね? やめてくれんかね? ね? ねねね???」


 フェレスは喋りながら首を左右交互に傾げ続けている。

 レフィアは眉をひそめながら三人の男をみていた。


「……まともに喋ることも出来んのかお前は」


 フェレスの不可思議な言動に、カイルはつい地が出てしまう。


「おまえ……おまえ? おまえとはつまりこの私? 誰がおまえと呼ぶことを許したのおまえ?」


 フェレスは左に首を傾げたまま喋っている。

 表情は先程と変わらないように見えるが、眼は笑っていない。


「ちょっと、カイル君……彼はあの【十王】の一人なんだよ!? 無礼な言動は命にかかわる……」

「ガキは殺す、女は頂く。おっさん、お前は帰れ。この事を冒険者ギルドに報告しな。俺たちに逆らおうと思う奴が少しでも減るようにな!」


 ロディの言葉を遮り、リョウと名乗るスキンヘッドの男が叫ぶ。


「あら、ロディは私のモ・ノ・よ♪」


「……一晩だけにしろよ」


「あらやだ嫉妬?」


「……きしょい」


 何を言っても無駄だと悟り、苦虫を噛み潰したような顔をするリョウ。


「うーん……仕方ない仕方ない。そうしようやってみよう! リョウ君、エレンちゃん。れっつごーごーへヴンに送ってあげてええぇぇぇ」


「グールの次はこんなのが相手なの……」

「おいおい、こんなのとは酷いね」


 リョウがレフィアに向かって走りながらナイフを投げ付けてくる。


「あーん、もう! 【黒双剣】!」

「あ? そりゃ魔族の……」


 レフィアは黒い剣を作り出し投げつけられたナイフを全て叩き落とす。

 それを見たリョウとフェレスの表情が変わる。


「おいこらリョウ!! 絶対そいつ逃がすなよ!!!」

「ハッ!!」


「赤髪の巨乳……まさか、アルビーが捕まえたとかいう希少種か? 何故こんな所に……」


 フェレスは口調が変わったかと思えばぶつぶつ独り言をしだした。


「どこ見てんの? ぼうや♪」


 レフィアに気をとられていたカイルの目の前に黒い霧と共にエレンが急に現れる。


(気配を感じなかった……?)


 振り下ろされる右拳を左手で受け止めようとするが、威力が大きい為か弾かれてしまう。


「そんなほ~っそい腕じゃ、ムリムリ♪」


 体ごと捻り衝撃を受け流すと距離を取るために後退する。

 気付けばレフィアとロディは、ユメリア城跡に存在していた()()()に囲まれ閉じ込められていた。


「こいつら【能力者(ホルダー)】か……」


「あらリョウちゃん、コイツ結構やるみたいよ」

「そうかい、まぁどのみち死ぬわけだし? 二人がかりでさっさと終わらせるか」


 久し振りに向けられた大きな殺気に身震いした。

 そして忘れていた感覚をカイルは思い出す。

 心の底から楽しいと思える時。

 それは圧倒的な力で蹂躙するのではなく、自分と渡り合える力を持つ者との死闘の中で相手を倒した時だった。


「ふ、ふはは…… 良いぞ、この世界は面白い者が多くて退屈しそうにないな!」


 カイルの【闘気(オーラ)】が限界まで膨れ上がり、尋常では無いほどの殺気を放つ。


「……おい、コイツ……マジか?」


 嫌な汗がリョウの頬を伝う。

 カイルの姿を見ただけで、彼の本能が死を告げていた。


「リョウちゃん、本気出すわよ?」

「出し惜しみしてる場合じゃねぇよな!」


 リョウが地面に両手をつける。

 その瞬間、カイルを囲むように壁が勢いよく上がってくる。


 地面や石などから、媒体とした成分の壁を生成する能力【壁の創造主(ウォールマスター)】――

 それが、リョウ・マクガーレンの能力である。

 強度は元となる素材の中で可能な限り硬くも脆くもでき、高さ、形も設定可能である。

 ただし無から生成する事は出来ないのと、生成した壁から更に壁を生成する事は出来ない。

 主に行く手を阻んだり隊を分断したりと、補助的な役割が大きい能力である。


 カイルは上を見上げた。

 以前見た壁よりも遥かに高いその壁はおよそ飛び越える事は困難に思わせ、唯一の出口にはエレンが待ち構えていた。


 彼の能力は【支配の黒霧(ブラックミスト)】、効果範囲内に存在する全ての対象の感覚を変化させる能力である。

 効果範囲内には黒い霧のようなものが薄く覆う。

 設定出来る感覚には限りがあり設定内容によっては効果も限られるが、具体的にも曖昧にも設定が可能である。

 黒い霧は壁の中に充満し、次第にカイルの感覚の一つを奪っていく。

 カイルは立つことが困難となり崩れ落ちるようにその場へ座り込んだ。

 エレンが設定した感覚は方向感覚である。


「オッケーよ、リョウちゃん!」

「フェレス様! たのんます!」

「いいよいいよ~? いいよよよ~ん♪ 私の実験体で? 君も今日から仲間入り!」


 フェレスの背後から体格の良いグールが三体現れる。

 リョウはグールが進む先に壁を階段状に生成し、カイルが閉じ込められている壁への道程を作る。

 そのまま壁の中へと落ちていくグール。

 中の様子は分からないが体液を浴びようものなら感染は免れない。


「ま、俺らにかかればどんな奴でも……」


 ビキィッ!という大きな亀裂音が壁の中から聞こえたと同時に壁に無数の亀裂が走る。

 一拍置いて大きな爆発音とともに崩れ落ちる壁。重々しく響くその音は辺りを飲み込んだ。

 砂煙が立ち込め視界を奪う。しかし壁があった中心地だけは光輝いている。

 雨のように降り注ぐ壁の破片が光に触れると砂のように崩れる。

 その砂すら光の中に入ることを許されず、外へと弾かれていった。


「馬鹿な……あの硬度の壁を破壊した?」

「立つことも出来ないはずよ! なのにどうして!?」


 騒ぎ戸惑う男二人をよそに、フェレスは険しい顔をしている。


「お前は面倒くさいから先な」


 そう言うと、カイルは一瞬でリョウの正面へ移動し腹部へ右拳を叩き込む。

 エレンは、嘔吐しながら宙に舞うリョウを横目に、カイルの動きを追っていた。

 【支配の黒霧(ブラックミスト)】で自身の五感を極限まで鋭くし、カイルに殴りかかる。


「パワーは私の方が上なのよ!!」


 神経を研ぎ澄ませたエレンの動きはもはや人間のレベルを超えていた。

 しかしそれはあくまでも人間のレベルである。

 渾身の一撃がカイルの顔に炸裂した……が、カイルは微動だにしない。


「まぁ、こんなものか」

「うそ……だって、さっきは……」

「省エネを心がけてるんだ。この技は燃費が悪くてさ」


 顔に打ち付けられたままの右腕を掴むと、無造作に放り投げる。

 どこまで行ったか肉眼で確認出来なかったが、あの肉体と能力なら死ぬことはないだろう。

 そう判断して視線を外し、カイルはフェレスと向かい合う。


「あっあっあー……不殺の心? っていうの?

 きぃんもちわりぃぃぃなぁぁあおい!! ですね」


「焦ってるのか? 部下もお得意のグールも通用しなくて」


 ころころと表情も声のトーンも変わるフェレスだったが、眼だけは見開かれたままだった。


「あいあい、分かりましたよ。多分あなたには私の能力も通じないんでしょうね。もうお手上げ~♪ってね。 でもね、あなたじゃなければ? 問題なっしんぐ??」


 にやぁ、と口を歪ませながらカイルの方向を指差す。

 正確には、カイルの後ろにいるクリスティーナを指差していた。


「おまえおまえおまえはグールの仲間入りぃぃいい!!!」


 それは見えない何かであったが、確実にクリスティーナに向かっていた。


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