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第11話 キャッスル・オブ・ザ・デッド 後編

 レフィアは壁沿いにただ真っすぐ歩いていた。

 瓦礫と木々が生い茂る変わり映えのしない風景に段々と嫌気が刺す。


「一人だもんなぁ」


 思わず溜め息とともに少し大きい独り言を呟く。

 ある程度進むと壁の終わりが見えてきた。

 本当にただ真っすぐ続いていた壁は、仕切り板のようにも感じる。

 更に日も落ちてきて辺りがより不気味に感じていた。

 壁の終わりはより暗く先が見えない。


「……もういいよね」


 レフィアが進んできた道を引き返そうとした時、何かの気配を暗闇の向こうから感じた。

 冒険者かグールか、それとも両方か……

 それはレフィアにとってはどうでもいいことなのだが。


「仕方ない、か。見に行きますよ行けばいいんでしょ……」


 トボトボと暗闇へ向かうレフィア。

 恐る恐る曲がり角から顔を覗かせると、そこには隔てる壁は無く開けた場所があった。

 その向こうから人影がこちらへ向かっているように見える。


「うわ、何か来た……! えと、冒険者の方ですかー?」


 とりあえず声をかけてみるが反応が無い。

 視界が悪くそれが人の形をした何か、である事しか分からなかったが、彼女は意を決して前へと進む。


「――――!!」


 声、のようなものは聞こえるのだが、それが何かが聞き取れない。

 それは徐々に大きくなる。


「たっ、たすけっ……」


 聞こえてきたその声は、弱々しいがまさしく人間の声であった。


「助けを求めてるってことはグールいるのよね……」


 彼女もまた素手での戦闘を得意としていたが、流石にグール相手では感染の恐れがある為、やりづらい。

 しかし、あまり人に知られたくはない能力が彼女には備わっていた。


「カイルも居ないし、まぁいいか」


 彼女は両手を広げて伸ばし力を込める。

 黒い球体のようなものが掌に集まり、それは次第に剣を形成した。

 魔族は種族毎に特殊な能力を所持している。

 ある意味では【能力者(ホルダー)】と同じであるのだが、厳密には別である。

 魔族のクオーターであるレフィアは、人間が本来扱う事の出来ない能力を有していた。


「【黒双剣】構築……よし」


「ひっ!」


 グールから逃げてきた冒険者だろうか。

 レフィアに気付いたがグールと思われたのか、逃げ足が止まり立ち尽くす。


「そのままこっち! 走って!」


「は、はい!」


 冒険者はレフィアの横を走り抜ける。

 数秒後に唸り声と共にグールの集団が向かってきた。

 とても一度では数え切れほどの群れ。

 よだれを垂らし、血走った眼をし、人とは思えないほどの速度で迫りくる。


「脚速すぎでしょ!」


 レフィアは慌てて両手に持った黒い剣で大木を切断した後、道を塞ぐように蹴り飛ばした。


「あんなの正面から相手にしてられないよ! カイル早く来て~!」


 叫びながら、来た道を全力で引き返していた。



 カイルはロディを置いたまま来た道をそのまま戻り、レフィアのいるであろう方向へ走っていた。

 後方からロディの声が聞こえるが、構っている余裕は無い。

 そのまま走っていると正面に人影が見える。


「誰だ!」

「ひゃっ! あ、あの私、冒険者の……」

「赤い髪で長身の女は見かけたか!?」

「は、はい! 私を逃がしてくれて……その……」


 女性の冒険者は震えながらしゃがみ込みながら逃げてきた方向を指さす。

 そこは暗闇に閉ざされており人の姿どころかグールすら目視が出来ない。


「ふぅ、いやぁ、追いつく事も出来なかったなー」


 思ったより早いロディの到着にカイルは心の中で関心したが、声をかける余裕はない。


「あれ、彼女は生存者? 他の仲間とかは……」

「はい……私一人だけです。他の方々は……カタガタ……カタ……」


 途中まで会話をしていた彼女に異変が起きた。

 眼が充血し始め肉体も変異を起こす。

 爪は硬く厚みを増し、犬歯は鋭く伸びる。

 急激な変化は負荷が大きく、至る所から出血していた。


「ガ……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァ!!!!!」


 先ほどまで怯えていた女性とは思えないくらいの俊敏な動きでロディに襲い掛かる。

 大きく口を広げ、左腕をロディ目掛けて振り下ろす。


「何だってんだよ、くそが!」


 腰に携えた剣で左腕を薙ぎ払い、切り返しで頭を切断する。

 グールの血を浴びないように後退するが、あまりの事態に動けないでいた。


「どうなってんだよ……こんな事ってあんのか?」


「確かに、こんな変化は不自然だ……」


 カイルが再び暗闇へと目を向けると、


「――ィル――カ――ル……カイルー!!」


 暗闇から現れた人影。

 大きな胸を揺らしながら走ってくる赤髪の女性――レフィアがこちらに向かって来る。

 大勢のグールを連れて。


「レフィア。無事だったか」

「無事に見える!? これ何とかして早く!」


 カイルは息を整えると【闘気(オーラ)】を展開する。

 両手に【闘気(オーラ)】を集約させそれを放つ。

 まるで大砲のように放つそれはグールの群れを壊滅させた。


「カイル……なにそれ」

「いや、やっぱすっげーよ! なぁ、うちのクランに来いよ、あんたならすぐAランクだぜ?」


「わーグールが一瞬で全滅ってどゆこと? 君何してくれてんですか?」


 不意に男の声が聞こえる。

 この場にはあまりにも不自然な壁はいつの間にか消えて無くなり場を包んでいた不気味な空気が晴れる。

 壁の向こうから聞こえた声の方を向くと、三人の男が立っていた。

 その内の一人を指さし、ロディが信じられないといった表情をしている。


「そんな……何であなたが……?」

「ロディさん、知ってる人ですか?」


 カイルは男たちを警戒しながらロディに問いかける。

 ロディは緊張か恐怖か、冷や汗を書きながら震えた声で答えた。


「【十王】の一人……【命王】フェレス・ファウスト――」



 ***



「ひまだねぇ」

「……暇」

「良い事ですよ。お姉さま、落ち着きましたか?」

「うん……だいぶ良くなった。ありがとね、シーラちゃん」

「それにしても静かですね……本当にグールなんているのでしょうか?」


 四人は馬車の中でぼーっとしていた。

 ユメリア城跡の外ではグールは一匹たりとも発見されていない。

 日は間も無く沈もうとしており、夕闇はどんどん夜の暗さに変わろうとしていた。


「グルルルル――」


 獣の唸り声のようなものが遠くから聞こえる。

 それはかつて人であったもの。

 ユメリア城跡を覆う壁が消えた事で、グールが外へと解き放たれたのだった。


「……キャミィ」

「うん、なんか不気味な空気が晴れたと思ったら嫌な気配するね」

「……様子見に行く」


 クリスティーナは不安げな表情を浮かべていた。


「お姉さまはわたくしがお守りします。ご安心ください」


「じゃあちょっと外見てくるね」


 馬車の外へ出るキャミィとアイリス。

  

「アイリス戦えるの?」

「……当然」


 自慢げに取り出したそれは、魔術書とお札だった。

 魔法はこの世界に存在しないというのは全種族共通の認識だった。

 キャミィは不思議そうな顔をしながらも意に介すことは無かった。


「じゃあ一度周囲の探索を……」


 ガサガサと、街道の両側にある木々から音がする。

 その音は徐々に大きく、そして幾つも重なって聞こえてきた。

 キャミィは現状を冷静に分析していた。

 音と気配から数は十以上、馬車はすぐに動けず中には非戦闘員。

 こちらは自分ともう一人……


「おっけー、先手必勝だね!アイリスは反対側よろしくぅ」


 キャミィは馬車の左側に向かって走る。

 狙ったのか偶然か、丁度グールが木々の隙間から出てきた瞬間に頭部目掛けて蹴りつける。

 その奥にも三体のグールを視認したキャミィは、少し後退し街道に出てくる瞬間を狙って破壊していった。


「……やりおる」


 それを冷静に眺めていたアイリス。

 右の林からグールが一体出てきたことに気付かないのか、背を向けたままでいた。


「――アイリス!」


 キャミィが叫んだのとほぼ同時にグールが焼け崩れ落ちていくのを見る。

 アイリスはグールに向けてお札を投げ付けてると、空気抵抗を無視してグールに張り付く。

 一度張り付いたお札には火が灯り、対象が消滅するまで燃え続けた。


「おぉ……」


 キャミィは五体のグールを始末しながらアイリスの特殊な能力に感心したのか、思わず唸った。


「……終わった」

「うん、もう大丈夫かな」


 ――グオオオオァァァァァ!!!


 二人が馬車に戻ろうとした時、ユメリア城跡からとても人とは思えない程の、まるで超大型魔物を彷彿とさせるような叫び声が聞こえてきた。


「ちょっ!今のなんですか!?」


 思わず馬車から出てくるシーラとクリスティーナ。


「カイルが危ない……」


 そう呟くと、クリスティーナは彼女たちが制止する間もなくユメリア城跡に向かい走り出していた。

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