初任務
「うむ、それで話は戻るんだがアーサー隊員には任務がある。―――それも、君にしか出来ない、大切な依頼の遂行だ」
「なんでありますか!隊長!」
「うむうむ、その依頼は―――君のお母さんからだッ!!」
「任せてくださいでありま―――」
「どうした?アーサー隊員、そんな今にも口から鳩が飛び出しそうな顔をして」
「えっ…?ちょっと待って下さい、オレの母ちゃんからですか!?それと、口から鳩が飛び出しそうな顔ってなんですか!?」
突然すぎて驚きがツッコミを追い抜いてしまった。正しくは鳩が豆鉄砲を食らったような、だ。
それにしても、オレの母ちゃんは何を依頼してんだ!?
「さあ、今から我々に課せられる最重要任務の内容を発表する!心して聞けいッ!」
「オレの母ちゃんからの依頼が最重要ってどんだけ依頼ないんですか!?うちの部署!?」
「うるさいぞ、アーサー隊員」
オレのせいなのか!?そうなのか!?
「ゴホン、その内容とは『息子が出て行って寂しいから、息子を呼んできて欲しい』という、まあ、ありきたりな内容だ。確かに内容としては普通であるから、うちの部署の人気のなさが伺えるな」
「いやいやっ!そこじゃないでしょ!ええっ……母ちゃんなにやってんの……」
「まあ、という訳だから、アーサー隊員にしか出来ない最重要任務を与える。初日から最重要任務とは中々やるなアーサー隊員!」
「はあ……行きますけど」
「うむ、では俺も別の仕事に行くからな、一人で頑張るように」
「ホーネット先輩の仕事内容は?孤児院の建物の修理だ」
そっちがよかったッ!!とは言えないのでしぶしぶ、オレは自宅へ向かうことにした。仕事で家に向かうとは新鮮な感じというか、不思議な感じというか。言葉にしにくいモヤモヤした気持ちであることは確かだった。
◇◆◇
道中、沢山の人から見られた。オレがイケメンで二度見されてしまうような事なら大歓迎だが、実際はオレの股間を二度見、いや三度、四度見ぐらいされた。知り合いに会わないように祈る憂鬱な時間ももう終わり、この角を左に曲がればオレの家につく。今までに何度も通った道だ。ちなみに、ここを右に曲がればミオンのギルド『メイドリ』がある。ご近所さんなのだ。
あまり気が乗らない中、うちの扉をノックする。
「はーい、今でるわよー!」
「依頼を受けてきましたー」
棒読みだが致し方ない、何分初めてだしね。しょうがないね。
「わあ!?アーサーじゃない!どうしたの?」
「母ちゃんだろ?オレに会いたいって依頼だしたの、白々しい嘘をつくなよ、まったく」
「ああ……あぁっ!そう、そうだったわね!!忘れてなんかいないわよ!ねえ、ミオンちゃん!」
え?ミオンもいるのか?てっきり母ちゃんだけかと思っていた。
「ミオンちゃんはね?たまたま、偶然遊びに来ていたのよ?ホントに偶然よ……ねえ?」
「はい、偶然です。ちょ、ちょうどそこで出会いました。た、たまたまです」
嚙み嚙みだが、なにかあったのだろうか?
ほんのすこーしだけ、母ちゃんと一緒にオレのことを待っていたのかな?と期待したのだが、そんなことはないらしい。悲しい。
「そうか、でオレは家に帰ってきた訳だが、他に用事があるのか?まさか、会うだけってことはないよな?」
「う、うーん。そ、そうねえ……あ、あるわある!」
「今考えてんじゃねえか!?」
ただ会うのが目的の仕事が最重要なんて、自分の部署の行く末を案じた。
「あんたが今履いてるズボン、それの代金は払ったんだけど。他にミオンちゃんにお礼をしようかと考えていたの!」
「ふーん、なるほどね」
ようはチップのようなモノだな。ミオンには、嫌々オレの採寸もしてくれたり、魔法の鞘なんてものもくれた。そう考えると、特別報酬があって当然だな。
「で、お礼ではなにをするつもりなんだ?」
「ミオンちゃんが食事のスキルを上げたいって言っていたから、それを食べるってのはどうかしら?あ、でも家には食材がないわねぇ……困ったわ。誰かが買ってきてくれるといいんだけど……」
母ちゃんがチラチラとこちらを見てくる。
これはオレに買いに行け、ということだな。把握した。
「しゃあない、行ってくるよ」
「あら!本当?助かったわね」
こうなるように誘導させたのは母ちゃんだというのに。
母ちゃんは演技が下手だ。
オレはそのまま家をでた。
◇◆◇
「なんでミオンまで来てるんだ?」
「それは、アーサーが一人で行ってしまわれたからです。どんな食材を買うのかを知っていたのですか?」
「あー」
「まったく、アーサーはこういう所が抜けているんですから、私がいないとだめですね」
まるで、オレが失敗したことを嬉しく思っているような、そんな表情にドキリとさせられた。
自分の頬が熱くなってくるのを感じたので、別の話題を持ちかける。
「オレと一緒にいたら良くない評判が立つぞ?ほら…オレの股間は……」
「それもアーサーの個性ですから」
個性と言われればそれまでだが、個性ではカバー出来ない見た目をしているんだけどな。まあ、ミオンが良いならいいか、とオレは一人で納得した。
「な、なにを買うつもりでいるんだ?」
「はい、ハンバーグを作ろうかと、ハンバーグ好きでしたよね?」
「大好きだ!」
オレの好物を覚えていたことに、若干驚きつつ返事をした。
「そうですか、良かったです」
またもや、この表情にドキリとさせられる。話題が変わっていたようで、変わっていなかったか…。
ミオン・クリスタという人間は、普段は堅苦しい言葉でクールな奴かと判断されちだが、実際ただの女の子に過ぎなのだ。時折魅せる姿は、大変魅力的で大人の色気を感じさせる。
「ハンバーグに必要な食材ってどんなのだ?」
「そんなことも知らないのですか!?ますますこれは、私がいないと駄目ですね。いいですか?挽き肉と玉ねぎを買います、他に必要なものは家にありましたので」
「へー、ハンバーグってよく食べるけど、よく考えると作り方とかも知らないな」
またもや、ミオンは驚いたという様子をみせた。今日は感情変化が激しいな。
「いいですか?まず、玉ねぎを炒めます。それも黄金色になるまでです。その後、挽き肉に玉ねぎ、パン粉、溶き卵、塩、こしょうをいれ、よく混ぜ合わせるのです。この時に牛乳を入れてもいいですね」
「ほー、オレにも作れそうな気がするな」
それぐらいなら、レシピを見ながら作れる気がする。
「いえいえ、ここからが難しいのです。混ぜ合わせた挽き肉をいくつかのブロックに分けて、肉の中の空気を抜きます。この過程で初心者は躓きますね」
「へー、じゃあオレには出来ないかもな。ミオンがオレの代わりに作ってくれよ」
「はい、もちろんですっ!」
こんなにいい笑顔のミオンの前で『もろちん』と思ってしまったオレはヤバいのかもしれない。
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