男の名前
窓から差し込む朝日で目が覚める。陽気な天気だ。布団から出ようとしたところであることに気づかされた。床に映る大きな影に。
「うわぁ!?って……オレのチン◯コかよ……」
昨日の晩は朝起きたら、なにもかもが戻っているかもしれないと、思っていたが現実に戻された。
そう昨日、オレのチン◯コが聖剣になってしまったのだ。なってしまった、というよりは、なっていたが適切だろう。自分の意思ではどうにも出来ないことであったのだから、しょうが無い。
そう自分の中で折り目をつけた。
部屋に備えられている洗面台で顔を洗い、服を着替える、白い布の服、この国『カマーセルト』で採用されている衛兵の服だ。
今日から正式に城の衛兵として働くことになったのだ。そう考えると、楽しみでもあるが一方で不安もある、主にシャプナーのことでだ。
昨晩の風呂では襲われそうになるという恐ろしい事件が起きそうになった、そのため、より一層警戒心を高めなければならなくなったのだ。
少しの間待つと、王様が言っていた通り朝食の呼び出しがあった。メイドの人についていき、朝食の場所についた。オレは下っ端なので端っこの方に座れとのこと。
しっかりとした格付がなされているようだな。
朝食はバイキング形式、好きな物を採れる素晴らしいシステムだ。適当に食事を盛り付け、空いている席を探す。
キョロキョロと辺りを見回すと、オレに向かって手を振る姿を見つけた。昨日、ネタばらしをしてくれた男だった。男の名前を知らないので男としか形容の仕方がないが、髪の毛が黒い少し怖面の男だ。
昨日の様子をみるに、シャプナーとも仲が良いのかもしれない。
せっかくの朝食のお誘いであったことだし、話に乗ることにした。一応、先輩ということもあり無下にはできない。
オレは自分のトレイをもって男の元へ向かった。
◇◆◇
「やあ、おはよう」
「おはようございます!ええ…っと」
挨拶は日常生活の上で一番大切だと母ちゃんに教え込まれている。挨拶も出来ない奴はロクでもない奴らばかりだと、怒っていた気がする。
「おお、名前を教えていなかったな。ホーネット・クロコダイルだ、よろしく頼むぞアーサー君。先程、王様から通達が来てな、君は今日から僕の部に配属することになった。君には僕の右腕としてビシバシ頑張ってもらうからそのつもりでいろ!!」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いします!右腕なんてまだまだ無理だとは思いますが、下っ端として精一杯頑張ります!それと、昨日は驚きましたよ」
オレの挨拶を聞いたホーネットさん、いやホーネット先輩はガッハッハと、大声で笑っていた。
「その事についてなんだがな、ふむ、まあ後でいいだろう。今は朝食を食べるのに専念するぞ、いただきます!!」
「はいっ!いただきます!」
オレの朝食はご飯、鮭の塩焼き、卵焼き、味噌汁といつもの朝ご飯を呈して盛り付けた。対して、ホーネット先輩の朝食はというと、トマト、キャベツ、キュウリと、外見に反してカラフルな色合いだった。
「実のところ僕は、ベジタリアンで、肉は食えないんだ。意外だろ?」
「いや、そんなことは無いと思いますけど…」
「いや、いいんだ」
オレの様子を見てか、ホーネット先輩は自らベジタリアンだということを告白した。本人はそのことを恥ずかしく思っているらしい。
「いいんだ、気を遣うことはない。お前は肉を食えよ、強くなりたいんだったらな」
「はいっ!」
「ガハハ、いい返事だ」
この人に褒められるのは気持ちがいい。なんだろう、認められている気がするからか?
そのままオレはホーネット先輩と朝食を楽しみ、食堂を後にした。
別れる時に「後で、203号室に来い。そこで仕事の説明をする」と言われた。
◇◆◇
オレの部屋は416号室にあるので、203号室までは階を一つ挟む。階段を降りて、203号室の扉を三度ノックする。「入れ」と言われたので、ドアノブを回した。
「失礼します」
「おお、アーサー君か、グッドタイミングだ。時間指定していなかったから来ないかと思ったぞ」
「いやいや、行きますって……それに、仕事の説明があるんでしょう?」
「そうだ、では早速説明を始めるとするか」
ホーネット先輩は間を開け、机に手をついて大きく宣言した。
「簡単に言うぞ、ここは民の悩みを解決する部署だッ!!君と僕しかいないが、頑張って行こうッ!!」
「えっ……?ホーネット先輩とオレだけですか?」
「うむ!アーサー君と僕だけだッ!」
「……………」
「アーサー君と僕だけだッ!」
大きな声で二回言うが聞こえている。
しかし……
「いやいやっ!おかしいでしょう!?他の部署はもっと沢山いるじゃないですか!?騎士団とか、経理部とか!行政部とかっ!」
これなのだ。他の部署は沢山の人数で仕事を回し、大きな仕事をもこなしてみせる。それが衛兵の仕事、冒険者とは違うのだ。
それが、オレとホーネット先輩だけだって!?信じられない。
「うーむ、そうは言ってもアーサー君には、戦闘能力もないみたいだし」
「うっ……」
「頭も大して強くなさそうだし、駆け引きとかも上手くないだろうし」
「うっ、うっ……」
「それに、チン◯コが聖剣になっているし」
「うっ、うわああん!!」
実に痛いところを付かれてしまった。確かに、オレには戦闘能力もないし、頭もよくないし、チン◯コが聖剣だけども!!
「君に選択肢は無いんだ…」
三つ目が一番ネックな問題かもしれない。
チン◯コが聖剣の人なんかにオレだったら近づきたくもない。
「ようは窓際族なんだよ、ここは」
「………」
「でも、凄く大切な場所でもあるんだ。色んな人と交流できて楽しいし、ありきたりな言葉かもしれないけど、『ありがとう』って言われた時はやりがいを感じる。僕にとっての話だけど」
先輩にとって大事な場所を失わせたりはしない。
ホーネット先輩は拳を前に突き出す。
それに合わせてオレは―――
「だから…頑張ろうぜ!」
「はいっ!頑張りましょう!」
―――拳を突き合わせたのだった。
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