ホモとの出会い
てっきりシャプナーとオレだけかと思っていたが、他の衛兵達もいるようだった。
よかったよかった、二人きりだと間違いが起こるかもしれない。起きて欲しくは一切ないが。
準備運動をしていると、金髪のシャプナーに話しかけられた。 うわっ、最悪だ。これが番外戦術というやつか。
「僕と夜の円舞曲を踊ってくれないか?」
「は?」
シャプナーは突然妙な事を言い出した。開いた口が塞がらないとはまさにこういうことなのかと、気づかされるはめになった。聞きたくないが、聞かねばならぬ、オレは恐る恐る聞くことにした。
「つかぬことをお聞きしますが、夜の円舞曲とは…?」
「もろちん!【S〇X】のことさ!」
無駄にイケボでドキッと……するわけないだろっ!?気持ち悪いだけだ。ドキッとよりは、ゾクッとした。
なんだよ……、『もろちん!』の時点でおかしいよ。思わず、自主規制を入れてしまった。
「踊ってくれないのかい?夜の―――」
「嫌ですっ!お断りさせて頂きますっ!!」
すぐさま断った。もろちん断った。うっ……、感染している……?
「そうかい……残念だ。君とは最高のパフォーマンスが出来たというのに……、もったいないけど本当にいいのかい?もう、誘うことはないかもしれないよ?」
「いえ、もう誘わなくて結構ですっ!!」
今だけの期間限定品のような言い方でオレを誘惑してくる。
人間は『期間限定!』『次回入荷未定!』という言葉に弱い、その心理を突いた的確なシャプナーの作戦だった。
ホモならすぐさま話にのっていただろうが。危ない危ない、オレがホモじゃなくてよかったぁ。
「うっ……そんなに嫌がらなくてもいいじゃないかっ!全く、失礼な奴だな!俺は先輩だぞら今回はテストだから見逃してやるが、本番は覚悟しておけよ!」
「本番?なんだそれ?」
オレの質問に答える間もなく、シャプナーが木刀を抜いた。
それに合わせて、こちらも腰に提げた木刀に手をかける。
「では、尋常に勝負っ!!」
「始めッ!!」
審判のスタートの合図と同時にシャプナーが駆け出す。
そのまま、オレの下まで走り込み、素早いステップを組んでオレの細やかな抵抗を受け流す。
そして―――
バチッ!
練習場に鋭い音が鳴り響く。
「かっ……はッ…!なにすんだッ…!!!」
もちろん、攻撃を受けたのはオレだ。
最後の動きはまったくと言って良いほど見えなかった。いや、見えなかった、というよりも、見せて貰えなかったというのが正解だろう。
オレの貧弱な攻撃を受け流したシャプナーがステップを組み、そのまま後ろへ回り込んだのだろう。
「いやいや、あまりにも言い良いケツをしていたものだから、つい叩いてしまったよ。すまないねぇ…スパンキングは初めてかい?」
「ひっ……!」
やべえ奴だった。思わず嬌声的な声が漏れてしまった……これがシャプナーの興奮を加速させる。加速させてはならない物を加速させてしまった。
「いいねぇ…いいねぇッ…!!僕が初めてかい、それは嬉しい事だねぇ、次は優しくしてあげるよ?さあ続きをしようか?」
「し、審判ッ!!棄権、棄権しますッ!!」
審判はただ顔を横に振るだけ。なんで棄権させてくれないんだ!?おかしい、おかしいぞ!?
この時、オレの頭にふと恐ろしい考えが浮かんだ。
それは、この場にいる人全てホモであり、歓迎と称してオレを強姦する気なのではないだろうか?というものだ。
マズいっ!ここから逃げ出さなければッ!!
オレは必死になって、扉の方へと駆け出す。しかし、それは一般人と訓練された戦士の違い、数秒経たぬうちに、あっという間に回り込まれてしまった。
「ほら、怯えなくてもいいんだよ……?天井の染みの数を数えていればすぐさ!」
心なしか、観客席にいた人もニヤけている気がする。これは本格的にマズいのでは?そう思った時だった。
パンッパンッ!
手を叩いた乾いた音が聞こえた。
「ほら、もうここまででいいだろ?シャプナー」
誰かも分からぬ見知らぬ衛兵だった。
オレが口を開けて呆けていると、男はオレに謝ってきた。
「すまないな、これは危機管理能力を診るテストだったんだ」
「危機管理能力?」
「ああ、君は今、危険だと思ったから白旗を挙げて逃げだそうとしたんだろ?これは衛兵にとって大事な能力なんだ、君はそれを兼ね備えていることが証明されたんだ」
「ああ……」
あまりの驚きに言葉が出てこない。つまりは、シャプナーのホモの演技も嘘で、オレを試すためだということか?
「いや、シャプナーは正真正銘の同性愛者だ」
「え」
「しかし、彼は無理矢理男を犯そうとなんて、絶対にしない。双方の合意の上で行う奴だ、そうだよな?シャプナー?」
「ああ、そうとも無理矢理なんて僕の美学に反するんでね」
これは良かったと言っていいのか、悪いのか。判断に困るところだった。
「これは毎年行われてるんだが、皆同じ反応を見せるよ」
男の声に周囲の衛兵たちも頷いた。彼らもまた、このテストを受けたことがあるのだろう。そうでなければ、あんな遠い目をしてないはずだからな。
「しかし、君はあれだな……その腰の剣は使わないのか?そんな立派なものを持っているのに、木刀ではなく、そちらを使えば良かっただろうに」
「いやいや、僕もそれなりのモノは持ってるけど自由には動かせないから、アーサー君もそうなんだろう?ましてや、僕らのモノとは比較できない」
なにやら勝手に話が進んでいるようだが、聖剣を使おうという発想がなかっただけだ。『それなりのモノ』と不気味な言葉が聞こえたが聞こえなかったことにする。
「それにしても、すっかり日が落ちてしまったな。よし!アーサー、テストで疲れたろう?さあ、風呂に入ってこい!体調管理も仕事の内だぞ」
「あ…はい」
こうして、オレ、アーサー・ベクタの濃い一日が終わろうとしていた。
読んで頂きありがとう御座いますm(_ _)m。
このあと、番外編も投稿しようと思います。
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