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先生、俺のこと好きですよね  作者: 久川梓紗
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後輩登場

「俺が言うのも何だが…無理するなよ?」




 八ツ矢サイダーを飲んで一息吐いてから駆をみたら、顔色を少し変えてラーメンを食べている彼の姿があった。




「大丈夫」




 駆はそれだけをいうと一気にスープを飲みほくした。




「……ありがとう」


「ぅん?何かいったか?」




 駆は手元にあったお冷やを一気に飲みほぐしてから聞き返してきた。




「いや、何でもない」


「そうか」




 駆はそう言うと背伸びをした。




「あっ!葉山先輩!!」




 聞き覚えのない声が後ろから聞こえてきた。


 誰だ?


 気になって後ろを見て見たらそこにはピョコピョコと嬉しそうに跳ねながら、元気いっぱいの笑みで駆に手を降っている一年の姿があった。




桐谷きりたに。久しぶりだな。元気にしてたか?」


 駆が背伸びしていた腕をおろして、少し身を乗り出した。




「それはもちろんっ!あっ先輩。水瀬みなせもここの学校なんスよ!あいつ今図書室にいて今、ここにはいないスけど」


「水瀬みなせのやつ相変わらずの読書家だな」




 駆が優しい笑みを桐谷と言うやつに向けた。


 どうやら中学の後輩らしい。




「冬葵。こいつは中学の頃部活の後輩だった桐谷新きりたにあらただ」


「宜しくお願いします!えっと……」


「西園寺冬葵だ。宜しく」




 桐谷は俺に視線を合わせて「こちらこそ宜しくお願いします!」と屈託のない笑顔で言ってきた。




 その笑顔に押し負け、「あ、あぁ」としか言えなくなる。




「西園寺先輩ってもしかしてあの噂の西園寺先輩ですか!?」


「噂?」


 桐谷が元気な声で俺の名を言うものだから聞き変えてしまった。




「葉山先輩が中学生の時先輩しょっちゅう言ってたんスよ。近くの私立中学に凄いプレーをする奴がいるって」


「へぇ」




 駆からそんなこと聞いたことがなかった。


 駆は前から知っていたのだろうか。


 西園寺冬葵と言う存在を。




 自分と出会う前から。




 "西園寺"この名はどのくらい俺を縛りつければ気が済むのだろう。




「隠してた訳では無いからな!?」




 なぁ。なんでそんな慌てて否定するんだ?




 駆。お前も、あいつらと同じなのか?




 お前が俺に話しかけてくれたのも俺に西園寺と言う家柄があったからか?




 なかったらお前は今俺の前にいないのか?




 冬葵の頭の中が真っ白になり、一言、頭の中に浮かんだのは"裏切り”。




 それだけだった。




 それ以外考えようとしても何も浮かばず、耳にも入ってこなかった。




「俺、教室戻るわ」




 冬葵はそれだけ言い残して二人を置いていった。




 そんな彼の姿を見て駆の後ろにいた一人が不気味に笑っていたことを誰も知らない。


















「冬葵……」




 彼の背がとても寂しい。


 さっきまで駆に向けていた眼は、冷酷な、冷笑さえ出来ないほど人を恐れたような瞳をしていた。




 また、前の冬葵に戻ってしまったかもしれない。


 人を誰よりも恐れるあまり自分を誤魔化し続け、完璧を目指す彼に……。




「先輩?どうしたんスか?」




 桐谷が駆に話しかけてくる。


 駆がふと桐谷の顔を見た時、勝ち誇ったような、どこか嬉しそうな表情をしていた。




 どう言うことだ?




「俺、冬葵を追いかけてくる」




 席から立ち上がって彼の背を追いかけようとした時、身体か少し後ろに倒れた。


 手の温もりを感じる腕をみると桐谷に引っ張られていたようだ。




「……桐谷?」


「先輩。食器は片付けないとダメですよ?」




 いつも聞かないような声音にはっと駆は彼を見た。


 桐谷の目が笑っていた。


 その笑は駆をゾッとさせた。










 ここの図書館は本が充分なほどに充実していた。


 何百年も前の本もある。


 何週間か前に発売されたばかりの本までが揃っている。




 学校説明会の時、ここの学校の図書館を見て正解だった。


 ここの学校はどこの図書館よりもとても規模が大きい。


 本好きな奴にとってはここが宝庫だと言っても過言ではないと思う。




 二階から一階を見下ろしていると静かな図書室に女子たちが何人か集まって一気に入ってきた。


 何事かと気になって見てみると、女子たちの行き先には芹澤先生が静かに本を読んでいた。




「あの先生も大変ですね」


 右手に本を持って左手でメガネの位置を直す。




 女子たちの大群は芹澤先生の後ろできゃっきゃっとじゃれ合っているようにも見える。


 そしてその景色を見るのも数秒のことで、図書委員人が注意をし、大群は図書室を後にすることになった。




「水瀬。見つけた」




 聞きたきた声が図書室に響く。




「はぁ。桐谷くん、図書室では静かにしてください」


「えー。これでも静かだよ?」


「どこが静かなんですか。図書室にあなたの声が響いています」


「えへへ。ありがと」


「褒めてません。」




 水瀬渚みなせなぎは肩を落とした。


 中学時代から桐谷を知っているとは言え、彼とか話が噛み合わない。




 たまに、なぜ一緒に行動しているのか不思議に思ったりもする。




「水瀬はまた難しい本読んでるの?」




 桐谷は渚が持っていた本を取り上げ、タイトルを読み上げる。




「人の言葉と感情が違うわけ?なにこれ」


「桐谷の考えがわかるかと思いまして」


「え?僕のため?えーでも僕、桐谷には興味ないなー」


「貴方に興味を持ってもらいたくもありません。持ちたくもありませんが……。ですが貴方の"二重人格”のようなものには興味が多少あります」


「えー。僕が二重人格?ないない」




 やはりどこが話が噛み合わない。


 噛み合っているのかもしれないが、どこが他の人と話す時とは違う。




「僕と話す理由は葉山先輩との縁を繋ぐ一つの理由と思えますが?」


「まぁ、そうだよね。じゃなきゃ頭のお硬い水瀬とは話さないと思うよ」




 他人事のように言われると腹が立ってしまう。


 彼は中学時代から葉山先輩に憧れている……それ以上に好意を抱いている。


 それは友情にも尊敬にも収まらず、違う形で彼の感情になった。




 桐谷は手段を選ばない。


 彼は外見のスポーツ少年を思わせる美貌を生かして上っ面は元気のいい好青年を演じ、内面はとても好青年とは無縁の腹黒少年だ。




「これ返すよ」




 桐谷が乱暴に本を投げ渡した。


 水瀬は本をしっかりとキャッチし、紙にシワないか、折れている箇所はないか丁寧に見てから大切そうに本を閉じた。




「意味わかんない。なんで自分の物でもない物を大切そうにする?」




 桐谷の眼は冷たい。


 彼の眼には水瀬がした行動に疑問を抱いているのかもしれないが、それ以上に感じさせるものがあった。




 馬鹿らしい。


 冷ややかな眼でそう笑っていた。




「お前には分からないかもしれない。けど、この本は何十人と言う人が丹精込めて作っている。そんな本を僕は乱暴に扱うことなんか出来ません」




 あっそ。


 それだけ彼は言うと水瀬に背を向けてスタスタと歩いて行った。




 天使のような綺麗な笑顔を一瞬作ってから悪魔のような悪巧みの笑みを一瞬作った。




 普通の人ならそんな瞬時に表情を変えることはできない。しかし、桐谷はそれが容易に出来た。


 それは何のために身につけたものなのか、それもと彼を何かがそうさせたのかは水瀬にはわからない。




 もし桐谷にどんな不幸な過去があったとしても水瀬は、本を雑に扱うかう彼のことを許すことはなかった。




 彼だけではなく、本を大切に扱わない人を許すということは水瀬には困難で、あり得ないものだった。




 それほど彼は本を敬愛していて、誰よりも大切にしている証拠だった。





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