プロローグ
「先生、俺のこと好きでしょ」
唐突に言われた言葉に何を言おうか考える暇もなく
「は?」
間抜けな声を自分でも出したとは思うが、出てしまったのだからしょうがない。
「だから、先生俺のこと好きでしょ?」
俺の目の前に立つ一人の“男子生徒”が苛立ったように言葉に力をいれ再度聴いてくる。
「何?俺に不満でもあるの」
自分に勝ち誇ったような絶対的自信を持つ少年は俺より少し低い背を伸ばすように目を上に向け言い放う。
「不満?さぁ……どうだろうね」
俺は、少年に不適切な笑みを向ける。
その時の表情が彼の予想を超えた顔だったのか、少しだけゆがんだ顔を見せた。
いつもの性格からからには見えない彼のこの崩れた表情が面白い。一度見せられたのだからもっと見てみたくなる。
……その固まった性格にヒビをいれて、崩してしまいたい。
これまで特にこの生徒に特別意識を持っていたわけでもない。それでも彼にはそう思えたのだから何処かを誤ったのだろう。けれどそのおかげで少しだけ楽しみをみつけられた。感謝をするとしよう。
今日のようなことを除けば教師と言う職業は面倒だ。神経を使う。
何回教え子から告白をされなくてはいけないのだろうか。
世の中の教師はどのようにこの職業を乗り越えているのだろうか。聴いてみたいものだ。
……それともこんなに生徒に告白される教師が稀まれにいないのかもしれないな。