小さな木の小屋と優しかった彼女
無意識に書いていたは長くなってしまいました。すみません
銃声は一発のみ。その後数分、私は身構えていたものの、何もなく過ぎた。
もしかしたらここは危ない世界なのではと少し緊張してしまっている。
神様助けて……!と、いうかどうやって戻るか聞いていないのだけれど
もしかしてはめられてた?それは少し困るな。
そういえば最後に行っていた言葉、ええとなんだっけ。
……………………。
思い出せない。どうしても思い出せない。……まあ、きっと思い出せないってことは別に大事なことでもないのだろう。
そう思い、私は砂利道を一歩、踏み出そうとすると、突然ポケットの中のナニカが振動した。
ポケットにいれていたもの。今、私の全体像は見えないけれど恐らくは制服、つまりはスマフォが入っているかと思 う。
何もいじられていなければ、だけれど……。
しかし、そもそもここでネットとか使えるのだろうか?Wi-fiはもちろん、LTEも無理であろう。
だったらだれであろう?もしかしたらここ、実は近未来的でここだけが田舎っぽいというだけなのだろうか。
それとも技術が近未来?いやそうだとしても別世界のWi-Fiなんて無理だとは思うし、でもたまたま?
まあ見てみないとわからないし見てみよう。
私はスカートのポケットに入っているスマフォを取り出し、電源を押した。
待受をベースに、時間と日付、そしてLimeの通知画面がでていた。
名前は神様。……神様?
そして、メッセージは
『やっほー』
はたして、神様などという中二病も良いところな名前、誰かにつけたであろうか。
母親とか?いや母親はどっちかというと悪魔とか
『この親不信』
本物の神様らしい。心を読んでやがる。
とりあえずは私は返信するべく、9つの数字パスワードを設定したものをうつ。
『どういうことですか』
すぐさま、タッチキーボードをうちながら、私はあるき始めた。
正直、歩きスマホというのはマナー違反だが、この際しょうがない気がする、お腹も空いてきてしまったし。
心地よい砂利を歩く音を聞きながらスマフォをじいっと見る
神様は打つのが遅いらしい。
まあ、GBAを今更やっている神様だしなあ。
『スマフォ、気絶しているうちに改造させてもらいました、テヘ。』
何勝手に改造してるんですか!?というかスマホなんていつ、どうやって取ったんだよ!?
『神様なんだし超能力くらい使えるよ』
ううん。神様ってそんなに便利なものなのか
『そりゃあ、まあ』
なんとなくだけど、神様がスマフォをいじっている姿を想像すると面白い
『残念。想像して、自動入力してる。というかこんな早く打てるわけ無いじゃん?』
さっきから、描写なしではあるが、なんとこの間、2分程度しかたっていないのだ。
『音声入力ならぬ、脳内入力だね』
そういえば、どうやって戻るんですか。
私は神様の言った特に上手くもない表現をスルーし、話しを変えた。
神様は確かに、はっきりと言った。簡単に戻れると。ならば、その方法を早急にでも教えて欲しい。そうすれば誰とも合わずに、あの木の小屋にも行かなくてすむから。
人と話すのは苦手だ。だからこそ、今から、早くにでも教えて欲しい。
『そう急かすなよ。教えてあげるから。』
私は、ごくりとつばをのむ。緊張感が全身にはしる
『それはね、死ぬことさ』
「え」
一陣の風が突然吹く。黄金色の小麦たちはそれにあわせて、静かな、穏やかな音を奏でる。
そう、きっとあっさりと。緊張感がきっと手に届くか届かないかくらいのところで、そう書いた。いや、思ったのだろう。
死ぬ、ってそれは……それは難しいことだろう……!
『難しい?本当に?だって必要なものはないんだよ?ずっとそこに座って、何もしなければ死ねるよ。簡単だろう?』
簡単ではあるけれど、たしかに、そうだけれど
『生憎と、私は人間ではないよ。人間の感性で話されたら困るね。私は神様なんだから』
神様──。
『人間は死ぬのを怖がる、それはなんでだろうね。別に死んだからといって、なにかあるわけではないさ。』
……。
『人間が考えている天国とか、地獄なんてのはないよ。』
私は、思わず立ち止まる。別に、天国や、地獄を信じていたわけではない。
ずうっと考えていた、簡単な方法が難しかったから、携帯だって落としそうになる。
『ちなみに、人間が死んだら妖力が高まるから、妖怪になるんだよ?』
そんなの、今はどうでもいい。
「ほ、他に方法はないの……?」
私はほぼ無意識に声を発してしまう。
『無いさ。これだけ。さぁ、どうする?』
どうする。死ぬ、しか無いのだろうか。でも、死ぬのは怖い。
何故怖いのか、私にわかりはしない。もしかしたら死んだ後のことを知っているからかもしれない
そんなことを思ったって何も変わりはしない。でも今は他のことをかんがえたい。そう思った。
だが、自分の思いとは反して脳は勝手に思考を進めていく。
どうやって死ぬか?何故死ぬのが怖いのか?死ぬしか無いのだろうか。
怖い。怖い。怖い。怖い。
恐ろしく、怖い。
自分はうずくまった。道の真中で、頭をかかえる。思わず笑いがもれる。
もし仮に死なずにここに残ったならば、私はどうなる?もしも誰とも会わずに、会ったとしても拒絶されたら?
それはきっと私の死を表すのだろう。餓死。孤独死。縊死。
……どっちにしろ結果は同じということであろう。
じゃあどうすれば
「やめろ!!やめてくれ!!」
考えることをやめない頭に私は叫んだ。頭をぐしゃぐしゃと掻く。
携帯が振動する。
『そんな悩むことかい。』
そりゃそうだろう。死ぬのは怖い。
『だから、何故?』
それは……それは──。
わからない。
『わからないのに怖い、ね。……いいや違うな、わからないから怖いんだ』
……。
『何にしても初めての挑戦っていうのは緊張するものだよね』
緊張だけじゃすまない。緊張を通り越してもう恐怖している。
『……考えるだけで埒が明かないね。悩みなよ。しょうがない、私はいつでも待ってあげるから。ほらたちなよ。人が来たら変人に思われるよ』
私は、それに従って、とりあえずは立った。確かに悩んだって埒が明かないのは確かだ。だって、結論はもうでているんだから。
でもその結論を、私は知らない。知ることを妨げてる。
『……あんがい立ち直り、早いね。まあいいや。さて、私は事務仕事があるから、もし何か用事があるならばこのLimeに連絡してね』
私の優しさに感謝してよね。そう最後に書いた。
神様なのに事務仕事……。
私は苦笑いをする。
最初の挑戦は緊張する。冷静に考えてみよう。とりあえずは、深呼吸をして落ち着こう。
さっきも言ったとおり、やはり埒があかないから、とりあえずはさっきまで目標にしていた木の小屋にでも言ってみよう。
私は、そっと、画面を閉じてポケットにスマフォを入れた。
とりあえずはこの道を歩いていけばあの木の小屋につく。
正直、お腹の空きがまじで限界だから少し小走りで道を歩く。疲れるならまだしもお腹の空きというのは限界がある。
だからすぐにでもつきたいとこ──
肩に、何かがぶつかった。
「うわっ」
ぶつかってきたのは人だった。肩と肩がすれ違ったといえばいいだろう。ぼうっとしていた所為か、人に気づかなかった。
その人の顔を私は見る。
女、だろうか?髪が異常に長く、目もおっとりしている。
「ごめんなさい」
そう謝ると、風の様に早く、私の反対の道を言ってしまった。なんだったんだろうか。
「待てーっ!」
そしてまた、さっきの人が来た道から焦った顔で手錠をもった刑事のような人が走ってくる。
「ああ、すみません。さっきのヤツを追っていまして」
二つ顎で、帽子をかぶっているを為、頭がどんなのかわからないが、耳近くまで髪が伸びている。
そして声が……
「さっきのヤツ、貧乏なのか、コンビニで食料を盗んだんです」
山寺○一さんみたいだった。
そして格好がまんま銭○警部だった。
「どうしましたか?」
「い、いええ。それより、あの方を追わないのですか?」
私は笑いをこらえながらも質問した。
頼むから早くここから去ってくれ……!
「ああ、大丈夫でしょ、恐らくあっちにある街に言ったんでしょう。あっちにはあっちの警察がいますからね。」
どうせ彼も捕まりますよ。と盛大に笑っている。
「それよりもあなた……その格好、」
格好?特に違和感のない格好だと思うのだけれど。強いていうならば靴が上履き。というとこだけなのだが
「あなた、異世界人ですね」
「……ぅ」
なんと、一発で見破られた。というか異世界とか信じるのね
「その服、なんて言いましたっけかなぁ。」
「……?」
普通ならば、異世界人を見たら、警戒心をむき出しにすると思うのに前の警察はなんとも愉快に笑って私の服を凝視している。
「どうしました?」
どうやら、ずっと無言なのに疑問に思ったのか、首を傾げてこちらを見る。
んん……気まずい。というか、仕草が銭○のソレだから、更に笑いそうだ。
助けて
「あ、ああこれ、セーラー服っていうんですよ?」
「セーラー?あれだよな?月にかわっておしよきよ!ってヤツ」
この世界の漫画は私がいた世界と同じなようだ
「ええ、そうそうそれ。その服がセーラー服なんですよ」
「ハッハー!そうなのか。私は見たこと無いんだがな?ガッハッハ」
よく笑う人だ。というかその笑った顔もにている。早くここから抜け出したい。
さっきまでめちゃくそ悩んでいたのが嘘みたいだ。
「すっ、すみません私急いでいるので」
と、警察の反対側へと行こうと、一歩ずつ歩き、ちょうど抜かしたところでちょっとまて。と肩を掴まれた
「そう急がなくてもいいだろう。それに」
私は後ろを振り向く
「その格好だと十中八九、殺されるぞ?」
真顔で、そう言った。
決して、冗談ではなかった。
マジで殺されるらしい。実際、異世界に来た人たちで、なにもせずに街に行った人は死刑になったらしい。
今でも隠れて生きている人はいるが、でも厳しいだろう、と。
だったら私はどうすればいいのか、聞けばあそこの小屋に行けばいいという。
あそこは異世界の人たちにいろいろしてくれるらしい。この世界にあった服、髪型、等。
お前はここにワープされてよかったな。なんて言い、じゃぁ。と笑いながら手をふって元いた場所へと戻っていった。
どうやら私はあの小屋に行くことにしていたが正解だったらしい。
そして数分。案外遠い道に少し疲れながらも、私は目の前にあるちんまりとした小屋のドアを叩いた。
「すみませーん」
「はーい」
すぐに反応があった。不在、ということは避けたらしい。
いなくて夕方まで待つなんてのは嫌である。
ふと、私は太陽を見た。ちょうど真ん中辺りに太陽はいた。
大体正午であることを確認し、私はまた木材のドアに向いた。
そしてドアが開く。ガチャリという音とともに中にいた人が見える。
そこにいたのは、女性だった。かわいらしい女性。少しボサボサなロングヘアーでエプロン姿。おっとりとした目は優しそうな人を連想させる。なんというか、すごく母親のような人だった。
「あら、その格好……。あなた、異世界人ね。さ、あがって。遠慮しないで」
そういうと、彼女は一歩引いて、私に入れと促した。
私は、何も言わない彼女に少しの疑問と、そんな気軽に入っていいものなのかという緊張で少し固まったがすぐに
お、おじゃまします。と緊玄関口にあがった。
靴──上履きを脱ぎつつ先へと進んだ。
外と同じ、ちんまりとした部屋が一室と、奥にひっそりとあるドアが一つ。ソレ以外の部屋はなさそうだ。
リビングはテレビとパソコン以外は木でできていた。キッチン、椅子、机。すべてがすべて、違う色で染色してある。
……センスは微妙である。
「まあ、ゆっくりしてよ。座って座って」
ピンク色の椅子に腰掛ける。ほのかに木の匂いがする。
彼女は木造の青色に染められたキッチンでその背景と似合わない銀色のやかんでお湯をわかしている。ふわふわと白い煙もでている
「それにしても久しぶりね。異世界人が来るなんて」
ふふふ、と頬に手をあててまるでかわいらしい我が子を見るような優しい笑顔で笑っている
「そう、なんですか……」
異世界ということもあってか、私は少し緊張してしまっている。彼女はこちらを見てくるが私は彼女を見ずに目を泳がせていた。
……目の行き場に困る。
「いいえ、違うかも。この近くに来るのが久しぶり、なのかもしれないわね。もしかしたら他の地に生まれているかもしれないものね?」
彼女は神様とは違う笑顔をずっと浮かべている。
「緊張しているのならば、緊張をといて頂戴な。私も話しづらいわ。まあ、初めてだから緊張するってのはわかるんだけどね。」
そもそもとして異世界にいくなんてこと、滅多にあるわけではないというより異世界に行くなんてこと完全に夢だと思っていた。
いや、夢にも思っていなかった。
私は、彼女にそう言われたがしかし、言われるがままにできるわけでもなく肩をかたく固まらせていた
「ふふ、あなたもそうなのねえ。皆そうなのよ。緊張を解いて、といっても誰もとかない……」
彼女が言っていることはきっと攻め言葉ではあるがしかしその口調は優しい母親そのものな為か、全然怖くない。どころか、もう親切な人にしか見えない。
「……ああいや、一人だけいたわね。緊張もせず、かといってチャラいというワケでもない。ずっと無表情で瞬きすらしない。あの人は、人だったのかしら……。」
人ではない人……。無表情で瞬きすらしない。それは人ではないと思う。人のカタチをした何か──。まあ、わたしがこんなこと考えたってしょうがない、か。
「随分珍しい人間だったんですね」
「人元……?それは、どういう意味かしら」
首をかしげた。
どうやらこちらでは人間というの言葉は馴染んでいないらしい。
「それは、えっと元人間とか、そういう意味……なのかしら?あらそしたらあなたの世界では旧人類と新人類がいるってことなの?」
彼女は勝手に考察を進め、いや・・・でも。それはぁ……なんてブツブツといいながら考えている。
こっちの世界では間を元と読むのか?いやいやまさか、いやここは異世界だぞ?ありえる……。
「あ、あのう、大変失礼なのかもしれないのですけれど、人間、と漢字で書いてもらってもよろしいですか?」
「わかったわ。でもあなたと私とでは世界が違うから、漢字ってのも違うかも」
「だ、大丈夫です。」
……多分。
そうすると、てっきり紙でかくのかと思った私は驚いた。実に近未来。私はここをてっきりファンタジーで古風な世界だと思っていた。
だがその思いとは裏腹に彼女はまるで腕時計を見るようにして手にはめてある何かを、別の手で押した。そうするとたちまち神様が使っていた近未来的な画面が何もない空中に浮かびだされた。
そしてそこから手でカキカキと、"人元"と書いた。
「私はこう思っていたのだけれど、あなたは……?」
「……ハッあ、ええと。」
とりあえずはスマホを取り出して、たまたまあった手帳アプリに"人間"と書いて差し出した。
「あら古いわね、それスマフォでしょう?あなたの世界ではソレが主流なの?」
ふふ、懐かしわぁ、と笑顔で言った。
「どうやら私の世界とあなたの世界は似ているようね……それで、漢字なんだけど、そう書くのね?ふうん。その漢字の意味、私達の世界だとあいだとか、そういう意味なんだけれどあなたの世界ではどういう意味なのかしら」
「一緒ですよ。間。そういう意味です」
「だったら」と、やかんを持ち上げる。
「何故間と書くの?そもそも、間をげんとは読まないと思うんだけど。それじゃあまるで、本当の人じゃないみたいね。"人"の"間"。人になれない人……いいや、生物って意味の方がいいかしら?」
ふふ、面白ねなんて笑いながら湯呑みにお茶を淹れている。湯呑みとやかんからほんわりと湯気がでている。
「ええと、曖昧なんですけど、確か人間、社会的な在り方とか、人格を中心をとらえたとか……」
なお、wiki参照。
「人格、んん、つまりは人の間をつなぐとかそういう意味かしら?」
「ううん?そうなの、ですかね」
案外身近につかっている言葉ではあるけど意味を知らない。改めて考えると本当にどういう意味なのだろうか。
気になってきた。
「まるでそれじゃあ……」
ふっと、笑顔が消える。横顔だけが静かにこちらを見ている。
「社会的な繋がりがないと、人じゃないみたいね」
なーんてね。そう、言った。
「ま、そんなことはどうでもいいわ。さ、飲んで」
いつの間にか、私のそばまで近づきそっと、実に和風な絵が描いてある湯呑みを前に差し出す。
私はそれに軽くお辞儀をして「いただきます」と少し熱い湯呑みを口につけた。
湯気からお茶のどこか優しい匂いをかぎながら少し熱さを舌で感じた後、濃厚で懐かしい雰囲気のする味が口の中でほんのりと広がった。おいしい。
「おいしいです。」
「それはよかったわ。あなたの世界にあるかわからないけれどそれ、お茶っていうのよ?古来からある伝統文化でね」
「ありますよ。他にも紅茶とかもあるんですよ?」
「こちらにも、あるわ」
自慢失敗。というか、ここの世界はほぼこちらの世界と一緒のようだ。違うところと言えば、世界観だけ、だろうか
「さて、お茶を飲んだトコロで、本題に入ろうかしらね?」
小分けにされているせんべいとクッキーがたくさんのっているお小さなお皿を机の真ん中に静かに置き、もう一杯お茶を持ってくると、私と反対側の席についた。
「さて、まずは自己紹介しましょう?」
笑顔で手を差し伸べるようにして前に出す。
そういえば、さっきから全然、一言さえも、自己紹介をしていなかった。
「あなたからどうぞ?」
思わず、立ち上がる。それに対し彼女は笑みを浮かべて、続けて。と言った。
恥ずかしい。耳の先端が暑い……。
まあ、ともかく自己紹介を私はした。
「稲荷 汐里です。あーあとは、好きなものはゲームとか、アニメとかです。」
いきなり自己紹介と、無茶振りではないけどただ何を紹介すれば良いのかというのを言われなかった為とりあえず好きなものを答えた次第だ。
指定されてはいないし別に大丈夫でしょう……。
「稲荷……さん?ちょ、ちょっとまっててくれるかしら?」
私の名字を呼ぶと何故か顎に手をあてて考え始めた。そう思うと考えてからすぐにさっき座った立ち上がり、机の隣りにあった小さな白いペンキで塗りたくられた木材の本棚へと向かっている。その中にはなにやら太い本がずらりと並んでいる。
歴史書っぽいとは思うのだが、でもやはりそれはなんだかわからない。
その本棚から、ひときわ分厚い本を取り出すと、パラパラとめくり始める。彼女は少し焦った顔をしている。
稲荷、という名前に何かあったのだろうか?因縁の恨みだったとかだろうか。
いやだなあ、それ。できればそうでない方がいい。でもあの焦り顔は聞いたことのある名字だな。といった感じのことを考えている焦りだった。最初に困惑気味に名前も読んだわけだし。
というか同じ名字なら千といる筈。たかがそれだけで焦り顔を浮かべるだろうか。それとも実はこの世界では名字のかぶりがないとか……。どんな異世界だよ。
そうにしたって私は異世界の人間なのだから困惑する理由はないはずだ。
もしかして異世界の人間の名字がそうだった、とか。そしてその人は死んでいた、とか。
やめて欲しいです。そんな不吉な運命を感じたくない!
「ねえ、あなた?少しお聞きしたいことがあるのですが……」
ずっと本をめくっていた彼女は、どうやら目的のものを見つけたのか本をめくるのをやめて私に話しかけてくる。その顔にはまだ汗がにじんでいる。
「どうぞ?」
「その、あなた、稲荷、汐里さんでよろしいんですよね……?一文字も、名前の間違いはありませんのね?」
「ええ、はい。」
実に妙なことを聞いてくるなと思いつつだが真実であるから私は頷く。
「あなた、もしかしてそ──いたっ!」
何か言いかけたその時、彼女は突然頭をおさえ、痛みを訴える。
「大丈夫……ですか!?」
おもわず慌ててしまい、突然立ち上がりそして心配の言葉をかけると思わず敬語でなくなってしまうがすぐに訂正する。
バレてない。バレてない。
そんな呑気なことを思っている中、彼女は相当痛いのかうずくまり、分厚い本も落としてしまう。
驚きで目を見開きながら彼女の側に行く。
「だ、大丈夫よ。ごめんなさい。歳ね……」
彼女は軽く私に笑いかけるようにしている。だがその笑顔ですら苦笑いで辛そうで、冷や汗もかいている。大丈夫とは到底も思えない。
百を超える単位の息切れを繰り返す一分ほど、彼女はやっと頭痛が治ったのか少しずつゆっくりと立ち上がる。
大丈夫だったでしょ?なんて笑顔を浮かべているが……私はまだ心配だ。
ちなみに私は彼女の後ろであたふたしているだけ。
改めてこういう自体になると何をしていいか慌てて、脳の整理がつかなくなってしまう。欠点だ。
「さ、さあ自己紹介の続きをしましょう?」
そういうとまたさっきの椅子に腰掛ける。そして私も。
「あの、聞きたかったことってなんですか」
「え、あー……」
と、木の天井を見上げる
「ごめん忘れちゃったわ」
と笑顔で言った。
ううむ。気になるけれど、忘れてしまったならしょうがない、か。
「それはともかくね。私の名前は紀乃千歳よ。好きなもの、というより趣味ね、歴史書を読むのが好きなの。昔の物語とか歴史とか、なんかロンチックじゃない?」
彼女──千歳さんは、目を星のように輝かせ、まるで神様を祈る宗教信仰者よろしく手をつきあわせている。
私は驚いた。日本語であることはもうすでに目の当たりにし、というよりかはさすがに神様もおなじ言語の国を選んでくれるであろうと思っていたがまさか名前まで日本風だとは。
驚きの至りだ
「……好きっていうのもあるんだけど実際はもうおばちゃんだからできないのよね」
と、付け足すようにどこか悲しげな表情で言う。
……おばあちゃん?ううんそうにも見えない。
千歳さんの顔にはシワひとつない。笑ったときに微妙にでるくらいでほかは見当たらない。肌だって透き通るような肌色である。
こんなんでおばちゃんなんてこと、あるのだろうか?見えたとしても三十代……いやもしかしたら25代ほどかもしれない。
「そんな、十分若そうに見えますが?」
本音を口にすると千歳さんはなぜか赤面して、満面の笑みでこちらを見る。
「や、やだそんなっ……こ、こんなおばちゃん口説いてもダメよ?もうちょっといい相手を見つけなさいなー」
もーからかわないでちょうだいよっ!なんて私の肩を思いっきし叩く
予想以上の痛みに私は少し顔を歪めるもなんとか顔を変えずに、千歳さんにいった
「と、とりあえず千歳さん」
「なんでしょう?」
機嫌があきらか良くなっている。笑顔はいつも以上に眩しくなり、私を見る目が完全に他人のソレから、友達の者になっている。
餌付けは簡単そうだな。なんて思う。
「その、さっきあった刑事さんにここで色々この世界に合わせてくれる、とか聞いたのですが」
「ええ、ええ!してあげますよも!ちょっとまってて?」
……正直言うとこの謎テンションは少し疲れる。だが溜息をして悪い雰囲気を作るのも憚れる。
雰囲気と自分。選ぶのはもちろん雰囲気です。
だが、限界はすぐ近い。
早くしてー。
千歳さんはおもむろに立ち上がると謎のドアの向こうに姿を消した。
溜息一つ漏らす。
私はあのドアの向こうはどうなっているのだろう、と少し気になりどんなものかと想像を広げようとしたときにポケットに入っているであろう携帯がはげしく振動した。
恐らく神様だ。
私は携帯を開くとメッセージを見た。
『やっほー。さっきの人優しそうな人だったねえ』
優しそう。ってなんでそんな憶測的なんだ?見てたんでしょ?
少し間が空いた後にピコン、と音がする。
『いったでしょ?事務仕事がある。ってだから実は全然見れてなかったり。でも見た目に騙されちゃだめだよ?』
優しそうでは合ったけど。と付け足す。
いいや、話していてわかったよ。あの人は優しいさ。
無意識的に笑顔になる。
『人ってのは裏が怖いんだよ』
うーん……あの人には裏が無さそうだけど……。
『そういう人こそ怪しいよ?』
確かに、言えている。あんな人がこんなことするわけない!と思っていても実はやっていた。なんて実例は少ないわけではない。
そもそもそれは自分が相手に対する勝手なイメージだ。つまりはただの押しつけであり、それに対して、ありえないとか言うのは筋違いというか間違いではある。
『人を疑うことを覚えたほうが良いよ。特に優しい人とかね』
随分疑わせたいんだね。
『別に、忠告だよ。この世界は君たちの世界みたいに甘くはないから』
甘くない?
『君らの世界でいうロシアとかアメリカを更にひどくしたみたいな感じ。特に夜とかは危ないよ。』
んん……つまり銃を所持している可能性がある……と?
『そんなところ』
実に曖昧な返事である。
『ま、忠告はしたからね』
ありがとう。
『それよりも、さ。あの中どうなっていると思う?』
あの中──、ドアの向こう。
普通に千歳さんの部屋なんじゃない?
『ええー!ソレ以外にも絶対あるって!』
ソレ以外、例えばタンスとか……?
『考えがつまんなすぎるよ』
バッサリと言われてしまった。
じゃあ、神様は何があると思う?
どうでもいいかもしれないが心で話す時、私は敬語でなくなっている。
『別に、敬語じゃなくてもいいよ』
軽く、そういった。
『というか敬語ってなんか他人って感じがしていやなんだよね。もし私に後輩がいたら絶対に敬語するなっていうね』
それはきっとダメなやつではある。
それでさっきもいったけど神様は何があると思うの?
『そうだね、人がはいるくらいの鍋とか、チェーンソーとかの武器、かな!』
神様、ここで言っておくけどチェーンソーは武器ではないよ。少なくとも私の世界では。
確かにゾンビ物とかの映画では使われてはいるけれどそもそもあれは武器ではない。危ないけど。
『そうか……じゃあナイフとか包丁とか?』
それも、武器ではない。
『じゃあ銃』
それは……武器ではあるけど……。
私は微妙に開いているドアをちらりと見る。
まさか、ありえない。
『さっきも言ったけれど人を見かけで判断しちゃいけないよ』
わかってるよ。
そう心に思ったところで扉がゆっくりと開かれた。
「ふふ、おいで?」
と手でまるで挑発するかのように誘い入れる。
私はそれに対し「はい」と椅子を立って携帯をポケットに入れるとパタパタと少し早歩きで千歳さんの方へいった。
その中、即ちドアの向こうには何があったのか。私の予想通り、武器でも、はたまた人がはいるくらいの鍋でもない。
リビングの様に様々な色を使っているわけではなく、壁も、そして床も木材の色、茶色であった。その大部分には白の何かの柄画書いてあるカーペットがキレイにしかれている。だが壁には木材をそのまま見れるようにしてある。
床が目立つほどに机や椅子などは少ない。というかどちらも一つずつしかなかった。
椅子に関してはあのおばあちゃんがよく上下揺らして編み物をしている光景が浮かびあがる椅子だ。
ちなみに机は至って普通の……いや、少し小さい、こじんまりとした机だ。
どちらも木材色だ。
その椅子や机と反してタンスや、本棚は多くまるで物置と図書館をあわせたような部屋だ。
図書館とおもわせる程にその部屋は広かった。
確かにこじんまりしていた家ではあったがどこか小さいなとは思ったがまさかここにほとんど使っていたとは。
部屋的には6:4でこの物置(仮名)の方がでかい。
もちろんその本棚やタンスも木材色だった。
その部屋に私は少し驚き、きょろきょろと顔を動かしていたが千歳さんが「こっち」と呼ばれると
我に変えったように私は千歳さんの方に向いた。
千歳さんの近くにはでかいタンスがある。着替えかなと思いつつてくてくとゆっくり歩いて行く。
上はそこまで広くはない。だが横の広さがすごい。
タンスと本棚ですごく威圧感のある部屋だった。
「ちょっとついてきて?」
どうやら、そのタンスのところでやるわけではないらしい。
そのタンスの取っ手、丸のカタチをしてでっぱっている取っ手を押した。
そうするとどうだろう、さっきまでカーペットがしかれていた床の一部が、ちょうどカーペットがかかっていないところが複雑そうな機械の動く音をたてながら、いうなれば地下ダンジョンの入り口のような階段が、たちまち現れた。
「どう?驚いた?」
驚きを越して倒れそうです。
その後、千歳さんはその階段の先にいこうと階段を下がろうとしていた。その中、私はというと……驚きでぼうっとしていた。
いやむしろこれみて驚かない人間がいるだろうか。これはもうロマンとしか言いようがない。もしかしたらこの世界はロマンの塊なのかもしれない!なんて考えているとまるで千歳さんはこの階段が当たり前かのように「いかないの?」なんて首を傾げていた。
ここでずっと驚いていたいがだがそうも行くまい。私は千歳さんに従うようにしてついていった。
特に会話もなく、ただただ進んでいく。思いの外階段は長く地下部屋までいくのに数分ほどかかってしまった。
ちなみにだがその階段はまさにダンジョンと言った感じであった。松明が同感覚に数本置いてあった。
それで、まあ地下部屋についたわけだけれど。
「……」
地下とは思えないほど床や壁が白。真っ白。
タンスはないが椅子が何個か鏡の前に置かれている。そしてベッドもまるで保健室のようにカーテンつきである。
はて、ここで何をするのだろうか。タンスもない、本棚もない。軽い物置ならあるけれどハサミとかそういうのしかない。
そして上の部屋では想像もつかない広さとドアが4つ程……
ううんよくわからないな。
「さて、寝てちょうだい」
とベッドをさす。
「何故……でしょうか」
「ふふ、あなたを異世界人みたく改造するからよ」
その笑顔は明かりの所為か不気味に見えた。
気の所為だろうと思い、私はその指示どおりに寝た……けれどまあ、そんなすぐに寝れるわけもない。
それを察してかそれとも予想してかはわからないが千歳さんは小さなパイを用意してくれていた。
「さすがに絵本はないんだけど、このパイ食べてまっていてちょうだい?いい本探してくるからさ」
と、パイを布団がかぶられている足の上に置くとまた、階段をあがっていってしまった。
そのパイは焼き立てであろう。湯気がでている。匂いは甘く、鼻をくすぶる。私は早速そのパイをフォークで刺し、口にいれる。
もぐもぐとしっかり味わう。
まるで口のなかでとろけてしまったかのようで、噛むことはできなかったが味はしっかりと舌に焼き付いていた。
甘く、そしてほのかにりんごの味がする。アップルパイであろうか?だがりんごなど切っても、中をみても見当たらない。そしてさっきとろけるようにしたということはリンゴははいっていない。
恐らくはカレーの隠し味のようにして入れたのであろう。実際、そのリンゴの味は、味というよりかは風味といった感じであった。
うん。うまい。きっとこのパイをいっぱい出されたのであれば「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」なんていってもう一口ほおばることであろう。とんだ孤独の異世界飯である。
孤独の異世界グルメ……うーん、売れるかなぁ?
まあパイは(残念なことに)一切れしかないため私は十分ほどで(一切れなら時間的には多いかもしれないが)味わいながら食し彼女が戻っていないことに疑問をもちつつもまた眠る準備をした。つまりは寝っ転がったのだ
適当に何か考えていれば寝れるだろうと思い私は目をつむった。
これからどうしよう。再即の溜息。
ここでずっと暮らしていく……という手もあるんだよな。でもきっと千歳さんには迷惑だろうし……。
それに今の私にとって帰る方法、つまりは死ぬことを目標としている。できるわけもないとは思っているものの、もし千歳さんのところにいるとしたら突然死んでいなくなるなど心配じゃすまないであろう。
それにこんなに良くしてもらっている今の状態にしたって千歳さんには迷惑はかけかられないだろう。
寝返り一つ。
だとしたらやはりこの家を出てそして、とりあえずは街へいくことだろう。
でも街……なんて近くに……あれ、思考が……段々……
ここで、意識は途切れた。
何分、いいや何時間かもしれない。私はいつまで寝ていたのだろうか。
意識がこちらに戻り、だが目はつむったままで考える。もしかしたらこれまでのことがすべて夢オチで実はここは教室でした、とか保健室でした。なんてことはないだろうか。だがすぐにその考えは自分の冷静な脳の判断によって否定される。
あまりにも長過ぎる。
理科室から神世界、そしてこの異世界まで何時間たってるとおもっているのだ。到底有り得る話ではない。
まあ、とにかく少しの希望をかけて目を開ける。さて、まず私は寝る前の光景と照らし合わようとした。
もしかしたら違う部屋にうつされているかもしれないなんて思いつつも半分起き上がり、周りを見回す。
どうやらそのまま地下室らしい。ムダに広いが、その割に家具が小さい。
いや、この場合は部屋が大きすぎるといったほうが良いのだろう。
非常に残念だが地上世界には戻っていなかった。
段々目も覚めてきて、ここで耳のあたりがスースーする感覚がする。私はミントでも塗られたのかなんて冗談交じりに思いながら左の手で左の耳を触──れなかった。
…………………………。
実はコレ、夢なのでは。
……耳がないなんてまさかそんなことあるわけがない。次は右耳を触ろうとしたがなかった。まるで何かつかもうとした手はひょいとかわされたようになにも掴まなかったのだ。
どういうこと……?
次にした行動は頬をつねることだった。少しもちもちとした頬を私はつまむことで生じる痛みで夢から覚まさせる方法。ごく一般的な方法。
だけれど目は覚めなかった。否。これは夢ではなかったのだ。
耳がないってことは今、何も聞こえないってことか?いやそもそも耳自体が必要ない……?この異世界人には?それとも失敗した?そういえば千歳さんには耳があったか?
千歳さんを思い浮かべる、が。
耳なんて見てないよ……。
ついていたような気もするしついていないような気もする。
過去の自分よ、ちゃんと耳を見るのだ。
淡い期待をしてもしかしたら違う部分に耳があるのかもと思いベッドを飛ぶようにして起きる。布団が中を舞い、少量のほこりも一緒に舞う
「……っ!?」
そして立った途端、頭痛が生じた。
私は突然の痛みに膝をつき頭部の頂点部分を撫でるようにしておさえた。
そうするとその横、左右どちらも何かがあった。モフモフしたなにか、先が微妙にとんがっている。どうやらそこにも神経が通っているらしい。
耳につけるもの?なんだそれ……?考えていてもしょうがない。頭の痛みはそんなにひどくないことを確認し、走り、椅子をとびこえ壁につけてある鏡をみた。
そこで私は目を見開いた
全体的にボサボサの髪。微妙にのびた後ろ髪はクビに隠れ見えない部分もある。止めてあった横髪は、細く、肩以上に伸びていた。
服は足のまでのびた長いカットワークノースリーブワンピースと肩に軽く掛けてあるだけなのになぜかしっかりと落ちないようになっているフードつきの白い上着がまるで羽織るようにして着てあった。
どうやらセーラー服は異世界にはあわないらしい。
そして、いつものところに耳はなかった。だが、そのかわりにあったものそれは……
──頭部の左右にあるキツネミミとシッポだった。
いや、きっと勘違いしていたんだと思う。これは鏡なんてものじゃない。きっと新キャラです。
実は地下にいっぱい部屋があってそこに住んでいた千歳さんの子供でしょう。しかし髪型はしっかりとしましょう?
……いやさすがに無理が、いいやいやいやいやきっとあれです私が眠っている間に帰省してきた子供です。
この異世界ではきっと子供は旅に出るということでしょう。しかし髪型はもうすこし丁寧にしましょう?
おっと、私は挨拶をするのを忘れていました。
ええと……こんにちは、ですかね?
……私は手をあげ、ふる。
だが挨拶はしない。理由は……。
な、なんてことでしょう。前の方も、しかも同時に、同じふうに返してくれたではありませんか、なんて優しい。
きっとこれがこっちの世界の挨拶なんでしょう。マネをするという……。
じゃあ、挨拶しま、しょうか
「こ、こんにちは」
もちろん前の人もまるで鏡の様に私とまったく同じのことをします。
「……っ!」
……もうやめましょう!認めます!認めます!これは私です!
私は鏡の前で膝をつく
今までしたことがすごく恥ずかしい……!誰か見ているならばきっと死んでいる。
そこでもしかしたらと思い、階段の方へと向く。
幸運なことに無人であった。私はため息をつき、笑顔になる。
もしこんなところを見られたら私は死ぬ。はれて異世界から抜けられる。
でも死因が恥ずか死になるのは避けたい
しかし、何故こんなかっこうに?というか耳に関しては魔改造されているのだけれど。
これが異世界スタイルというヤツなのか驚きだ。
髪は整えていないし服は、まあ良いとして耳、耳がすごい。
ケモミミだ。キツネミミだ。しかもしっぽつき。
そのミミとしっぽは黄色、というよりかは黄金色だ。まるであの小麦のような。だがミミの先端は黒く、しっぽは白い。
なんというか、漫画ど見たとおりだ。
しっぽはゆらゆらと上下に揺れている
でも、千歳さんにこんなミミはなかった。もちろんしっぽも。
うーむ……私にはコレがお似合い、とか……?いや、私としては万々歳なんだけど!
あ、ちなみに決してケモナーではない。……ほんとだよ。
さて私はどうするべきだろうか。また寝入ろうか。千歳さんも来てないし……もしここで一階にあがったとしてなにかしていたら……。
うん。やめておこう
とりあえず私はベッドに戻り、あんまし眠くないけれどとりあえず寝転がるだけでもしとこうと思い、飛び出した所為で乱雑になった布団を整理すると、そこで本が一冊、ものすごく分厚い本が地面に落ちているのに気づいた。
<歴史書>
古ぼけた表紙にはその一文だけが、でかでかと書いてある。逆に言えばそれしか書いていない。装飾もなければ、背景も黒。もしかしてこれを読もうとしたんではないだろうか、なんて思いながらベッドに座りその本を開く。
まさにファンタジー。まさに古風。
中の紙は黄色がかっており、ところどころが破られている。大体が文であり、画像は数ページに1、2枚ほど。
表紙からで察しはついていたがこれは古いものだろう。
適当にパラパラとめくってゆく。正直言ってこういう本は苦手だ。分厚くて持ちにくい。その上歴史に興味ある人以外にとっては邪魔な存在であるかもしれない。ちなみに私は邪魔だと思ってる。
まあ、それいったらラノベなどもそんな感じなのだろうけど。
ただ、この世界の歴史には少しばかり興味が湧いていた。何があったのか、とか。
軽くよみながらペラペラとめくっていく。どうやら言語も日本語でこちらと使い方は似ているようだ。
私は流し読みではあるけれど、その歴史書を見始めた。
「あら、その歴史書、よんでいたの?」
と、本のページが半分と少しまで到達した頃に、千歳さんは階段を降りてきた。
「はい、おきてひまだったもので」
「それ、寝れなかったら読むつもりだったのだけど、必要なかったな、と思って布団においておいたのだけれど……役に立ってよかったわ」
ふふ、と笑いこちらに向かう
「あなたの姿、見た?」
「……ええ、見ましたよ」
イタズラな笑みを浮かべながら私のあたまをぽん、とのせなではじめる。
「それが、あなたのチキュウスタイルよ!」
チキュウ。歴史書でも見たがこの世界は私がいた世界と同じ名前らしい。
「あ、あのその、このミミ……」
「ああ、それ?前までは普通のミミにしていたんだけどね。ただそれだと怪しまれる可能性もあるからってことで、この世界の獣人族と合わせてみたのよ。そうすれば怪しまれないなって思ってね!」
と、ウィンクをしながら。
なるほど。ソレで納得だ。
それも歴史書で見たものだった。この世界には……もっと詳しく言うと"人急激劇衰退時期"以降から様々な種族が見つかっており、その数は未だ解明されていないらしい。今、解明されているだけでも有に三十は超えている。
「似合ってるわよ~。」
なんて言いながら千歳さんは腕時計を確認している
「実はね、もう夜なのよ。だから、一夜だけ止まっていかない?正直今のままだと危険でしょう?だから夜ご飯の時に色々説明してあげるから。どう?」
あなたの意見を優先するわ。とまるで追記するかのように言った。
もう、夜なのかと時計の無い部屋を見ながら思う。なら泊まっておいた方が良いだろう。何があるかわからないしそれに説明も聞いておいて損はないだろう。あと気になることもあるし。
「はい。その言葉に甘えさせた頂きます」
「ふふ、じゃああそこの」
と真正面の扉をさす。
「部屋、使ってね。ベッドもあるから」
「ありがとうございます」
「夕食のときには呼ぶからね。それまで自由にしていいわよ」
「わかりました。……あの、この上の図書部屋?で本を読んでもいいですか」
その質問に千歳さんは眉一つ動かさずに、
「良いわよ。でも歴史書しかないわよ?」
と軽く認証した。
あの部屋、かなりの本があったがほとんどが歴史書なのか……?もしかしてこの人歴史を調べる人だったりするのだろうか。
それだったら異世界について理解があるのも頷ける。
「じゃあ。ゆっくりしてて」
というと、階段を上がっていってしまった。
私はというと、早速真正面のドアをあけ、部屋に入った。
その部屋はまるで子供部屋のようだった。
勉強机に回る椅子。本棚は小さく、本は一冊も無い。ベッドは少し古ぼけているがしっかりとしている。
布団とベッドの周りは支えるようにして幼児がクレヨンで書いたような落書きと、少し汚れている(何やらケチャップのような汚れがペタペタとついている)木が周りを囲っていた。
人形などはなく、まるで中古の家具を買って設置した新しい部屋のようだった。
その部屋を見ると私はその部屋には何もせずに、ドアを閉めて上を目指し、階段を上った。
歴史書に書いてあったことそれは驚きだった。
軽く流し読みしただけでも、そして歴史に一切の興味のない私でも目をひかれるものばかりだった。
まず今の年だが"2228年"私の時代とは違い、かなり進んでいるようだ。
211年進んでいる。
だが別にそこには驚きもせず、というよりかはあのなにもないところに突然と映し出された画面を見ると逆に納得だ。
さっきも言ったとおりこの世界には様々な種族がいる。
人族。獣人族。獣族。異人族……などなど。
まさに異世界といった感じだ。
その中で、悪魔人というのが強烈だった。
その名の通り悪魔の人だ。
悪魔に取り憑かれる、または悪魔との契約によってなり悪魔人となればたちまち人を襲い、殺し、喰うという恐ろし三原則をする。
普通のニンゲンならば太刀打できない。ただ、大体は生命力が人並みで、人を殺す方法……つまりは銃で撃つとか、ナイフで刺すとかすれば簡単に死ぬらしい。
恐ろしい話だ。
ちなみに契約した場合、治す方法はないらしい。自らで契約したのならばしょうがない。契約解除の条件は"死"らしい。
そして一番不思議だったこと、それは、"人類急激衰退時期"だ。
この歴史で一揆や改革といった様々なことがおきているわけだが、これについてはなぜだか興味を惹かれた
"人類急激衰退時期"
主に2018年~2028年までにおこった出来事で、詳しいことはわかっていないが急激に人が減った時期だ。
急激な減り方により一時は人類滅亡の危機になった、がまるでその時期にあわせたかのように様々な種族が生まれ危機は免れたそうだ。
そしてもうひとつ不思議なこと、それは人類急激衰退時期より前の歴史がその歴史書にはのっていなかったということだ。
……いや、千歳さんがご飯をつくっている間に見た本にも、なかった。
一切としてなかったのだ。切り取られたわけでもない。最初から無いのだ。
まるでその歴史を隠すように……いや、それとも千歳さんがその本をあつめていないだけ、なんてこともあるえるのだろうか。
だからこそ私は不思議に思い、気になった。そして図書部屋で調べようと思った次第だ。
まあ、その足取りは小指すらも見つからなかったわけだが。
もしかしたら歴史系の物を書いている人がこの時期にすべて死んでしまったなんてことはないかと考えたが、だがそんな都合の良いことがあるのかという考えにより望みは薄くなった。
それにどれだけ人が衰退したのかはわかっていないから断言はできないわけだが……。
そして"人類急激衰退時期"についてもう一つ興味を惹かれたのは……おそらくここまで読めばわかるだろうが、わかることが非的に少ないことだ。
わかっているのが衰退したこと、時期、別種族の誕生。のみである。何故おこったか、どんなことが、殺された、などわかっていないのだ。
すべてが全て、憶測と偏見な説がいっぱいあったがどれもその3つだけで否定できてしまうほどに甘い考えであった。
ご飯を作っている途中に話しかけてしまい、非常に申し訳ない気持ちになったが千歳さんに聞いてみても、知らないと答えるだけ。
ますます気になってきたのだ。
もうすでに200年前以上の出来事だけれど……。
だが、その願いは儚く、千歳さんの優しく暖かい声のご飯よ~という声により歴史探しは中断されてしまった。
お腹空いていたからしょうがないよね。
お腹が空いては戦はできぬ。
とりあえず私は重ねに重ねた本を一冊一冊戻すと、パタパタと色とりどりなリビングへと足を向かわせたのだった。
なんというか、豪華だった。
少し小さな机の上にはたくさんの料理が所狭しに置かれている。それぞれの料理からでる湯気は上空で一つになっている。
一品目の量は小さいものの、品目数が多い。見るからにおいしそうなからあげ、角のついた豆腐や油揚げがうかんでいる味噌汁、山盛りになったご飯。他にも様々な食事が置かれている
そして千歳さんはそれをみて、早く座ってと言わんばかりにこちらを見ている。
思えば私はこの小屋に来た目的の一つとしてお腹がすいたから、というのがあったというのにすっかり忘れ、雑談と昼寝に興じてしまった。案外お腹の空きは少ないのかもしれない。
私は昼頃に座ったところと同じところに腰掛けた。それを予想してかそこにお箸がキレイにおかれている。
「さ、いただきましょ。」
「はい」
そう言うと早速箸を持ち上げてからあげに手をつけた。すぐに口に頬張る。
少し熱くてク口の中でもごもごと弄ぶようにしていた。
歯ごたえは上々。かなりカリカリしている。味もしっかしと鳥の味と味付けの味がしっかりと、しかも両立しているため、これが完璧な唐揚げと思えるほどに美味しい。
さっきのパイでもそうだがまたも、「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」と言いそうだ。
「うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ」
「ん?何か言ったかしら」
「いえ、なんでも」
いってしまった。幸運にも千歳さんには聞こえていなかったようだ。
アブナイアブナイ
「それよりもこの唐揚げ、とても美味しいです!こんな美味しいのが作れるなんてすごいですね。」
「なっ、そ、そんなことないわよ、もう!」
何故か顔を赤らめて手を秒の速さで左右に揺らしている。
なんで赤らめてるんだろ……?
首を傾げ、だが私は特に気にせず次は味噌汁にてを出す。
まずは汁を一口。うん味噌の味がしっかりとしている。わんこそばみたいに何杯もいけそうな気がする
次は豆腐を箸で──おおっと、あまりの柔らかさに落としてしまった。だが半分お箸の上にのっている
口の中にいれると……なんと溶けてしまった!なんてことだ。だが味はしっかりと口に浸透している……!まるでさっきのパイのようだ。すごい、すごすぎる
だがまだだ。
ご飯を頬張る。
……っ!!完敗だッ!これはもう私の語彙ではあらわせないッ!クソ……負けた……負けてしまったァッ……(からあげを頬張りながら)
「あ、あの?聞いてる?」
とそこで私は我にかえる。千歳さんがすごい困惑気味にこちらを見ていた。
どうやら私は自分の世界に入ってしまっていたようだ。そのうちに何か話していたらしいが……本当にすまないことをしてしまった。
もしもここで声が聞こえなければすべての料理を吟味し、頬張り、食レポ(笑)を続けたことだろう。
感謝だ、土下座をして「ありがとうございますッ(号泣)」と言いたい。
「あ、す、すみません……。ちょっとご飯が美味しすぎて」
まあ、言いませんけどね。
もちろん土下座もしていません
本当ですよ?
「うれしい事言うわね……ま、それはともかくとしてこれからのことよ。言ったでしょう?話すって」
「ああ、言っていましたね。すみません」
「そんな謝らないで」
と苦笑いし話を続ける
「この小屋から北に街があるの。まずはそこに向かうことをおすすめするわ」
街なんてあっただろうか周りを見ただけではあるが少なくともスポーン地点からは街のまの字も見えなかったのだが。
「少し遠いんだけど頑張ってちょうだい」
まるでこころをよんだかのような返答
「あとは、街の人に異世界人とバレないでほしいってことかしらね。殺されちゃうから」
それは刑事さんが言っていたことと同じだった。
「いや、違うわね。警察にバレないように、かしら。別に一般市民ならある程度の融通は聞くと思うわ。でも警察となると困難ね。それに、一般市民なら異世界人を良しとする人は多いだろうしね」
刑事さんは冗談交じりに言っていたが千歳さんは笑顔を消し、真剣な顔つきで言っている。
マジなんだろうさしかし、こんなファンタジー見たいな世界でも警察はいるのか。てっきり憲兵とかだと思っていたが
「まあ、その耳があるから大丈夫だと思うけど...。」
その言葉とは裏腹に、心配そうである。
「大丈夫ですよ。」
安心させるために苦手な笑顔を全面に引き出した。
顔がひきつっているかも、と思ったが千歳さんは苦笑いではあったが笑ってくれた。
「あとは宿ね。あのバッグ。あなた用に準備したんだけど、1週間分の食料とお金、暇つぶしの本が入っているわ。あ、もちろん歴史書ではないわよ?」
指を指している先を見ると、そこには小さなバッグが置かれていた。肩にかけるタイプの。
……………??
目をこする。そしてもう1度、バッグを見る。
やはり小さい。どう見たって1週間分の食料が入っているようには見えない。
「あの、食料って...?」
「ああ、あの中に小さな箱が入っているのよ。そこに収納されているわ。箱開いたら色々出てくるから」
少し気になったが、今はそれより。
「お金って……もらって良いのですか?」
簡単にもらっていいものではないだろう。
「いいのよ。別に使わないし」
使わない……。
「すみません。」
「いいえ、別にいいのよ。本当」
「ん?」
「どうしたの?」
ここで何故か既視感を覚える。
デジャヴのような何か。でもデジャヴでないような、そんな気がする。
このあと─確か……
"あの街は、昼は平和なのよ。でも夜は危険なのよ"
と──
「……?まあいいわ。それよりね、あの街、昼は平和なの。でも……その、夜は危険なのよ。」
大体あっていた。
まあ、これくらいならデジャヴだろう。
その後は曖昧で思い出せはしない。
「だから。」
千歳さんは気まずそうに、目を逸らしている
「ナイフが、あるわ」
「人を、殺せと?」
「この世界の法律は珍しくてね。"ワルモノ"は殺しても犯罪にはならないの。自分が襲われそうになった時、強盗、殺し屋、スパイ、密売屋。」
「それでも人を殺すなんて──。」
ん?珍しい?この世界に元から住んでいるならば、珍しいと思うのだろうか?
「最終手段よ。怪我させるだけでもいいんだから、貴方の世界では正当防衛ってあるでしょう」
「……。」
「まあ、夜に出歩かなければいいんだからね。それだけのことよ」
確かにそうではあるが……。
「ごめんなさいね、こんな話してしまって。話といた方がいいかな、と思ってね」
「……そうですね。もし話なしでバッグを見て、ナイフがあったら困惑しますから」
苦笑いをもらした。
話はそれだけと言わんばかりに、箸を持った千歳さん
本当に話は終わり、雑談に興じたのだった。
雑談の内容は主に私の世界の話だった。
その話を聞いて、千歳さんは物珍しいと思っていたわけでもなく、だからといってつまらなさそうに聞いていたわけでもない、ただ何故か知っているような頷きをしているのが少し気になった。
ともかく、私はご飯を綺麗に完食すると千歳さんに案内され台所に行き歯磨きをした(なんと新品の歯磨きが数え切れないほどあった。少し引いた)
部屋に戻ると軽くバッグの中身を確認し、そして今、寝るためにベッドに寝転がったのだが……。
「ねれねえー!」
と言ったのだった
いやまあ、少なくとも7時間くらい寝た後に寝ろという方が無理なのだ。
あと、何故か寝てはいけないような気がする。
ただの女の勘だ。
当たった試しがないし、気にしなくて良いであろう。
マンガみたいに当たればなあ……。
なんて思いながら、暗闇の部屋で火のついたろうそくをガラスが覆っている──つまりはランプを隣において歴史書を流し読みしている。
……飽きた。
バッグに歴史書以外の本があると言っていたが、今読むのはきっと楽しみを減らすだろう。だから歴史書を読んでいる。それにもしかしたら眠くなるかもと思っているだが……。
ため息を漏らす
眠くはならない。縦読みしたって真剣に読んだって睡魔はやってこない。
どうしたものか……。
木目がいっぱいある天井を見ながら悩んでいるとガチャリとドアの方から恐らくはドアノブを回す音が聞こえた。
驚き、思わず寝たふりをしてしまう。
ヒタヒタと足音がする。
千歳さんかな、とも思った。
まあ、千歳さんならと思ってそのまま寝たふりを続行。あわよくばここで寝れれば──。
「異世界人「寝ている?「ランプがついてる「消し忘れ?」
同じ声なのにまるで重なっているように聞こえる声。
私は憎悪を感じ飛ぶようにして起きて声のする方に向く。バッグからナイフを取り出しながら。
「起きた「何故「寝たふり?「わかっていた?「まあいい「殺す」
殺す──?
声の主は千歳さんだった。
母親のような優しい顔。すらりとした体。普通な三肢、これ"だけ"は普通の千歳さんだ。
……不気味な声、真っ黒で、不気味でグロイ、悪魔のような左手を除けば。
「ひっ」
尻もちをついた。
冷や汗がドバドバとでてくる。
こわい。死ぬ。殺される。
逃げなければ。足を動かして……。
あ、れ?
「……っ!」
逃げようとしても足が動かない。助けも呼べない。
無情にも千歳さんは──千歳さんのようなナニカはこちらに近づいてくる。笑いながら。薄気味悪い笑顔を浮かべながら。
「殺して「食べる「久しぶりのご飯」
殺して──食う。それじゃあまるで……!
考えている途中でもお構い無しに怪物は近づいてくる
だがそれでも足は動かない。
動け……!動いてくれよ……!
怪物の左手は私に向かっていた。
そしてある程度近づいてきた時に、手を出した。襲ってきたのだ。
「いやあ!」
脊髄反射で横に避ける。
「外した「クソ」
怪物の左手は床を貫通していた。
あんなのに攻撃されたらたまったもんじゃない!
1発で死ぬ!
攻撃しなくちゃ。
周りを見て近くにある投げれるものを探す。なんでもいい!
「……!」
ランプがちょうど手の届く範囲にあった。
左手を引き抜こうとした時、私はランプを持って投げた。
「ぐっ……!」
見事命中。ランプは怪物の頭に当たると、ガラス部分が音を立てて割れた。ろうそくが床に落ちる。
怪物は頭にあたったせいか手で抑えている。
「クソ野郎「殺す「痛めつける」
私はその隙に立ち、走った。
逃げられる──と思っていた。
怪物はもう復活していた。
「馬鹿め」
「くっ!」
走る私目掛けて左手を出す。
だが、すらりと私は避けた。
「これでもっくらえ!」
そして前に出された左腕に思いっきり力をいれてナイフをさした。
「グゥあああああああああああああ!!!!!!」
大声で叫ぶ。
まだだ。
刺したナイフを追い討ちをかけるように抜く。
血が噴水のように吹き出る。
その色は紫色であった。
「本当に……悪魔見たいだ!」
見たいじゃない。悪魔だ。悪魔人だ。
千歳さんは、悪魔人なんだ。
あの後、つまりは怪物が苦しんでいる間に横を通り部屋を出て1階へと向かった。
リビングにでれば逃げられると思ったのだがしかし図書部屋からリビングに出るドアは開かず、壊そうとしても壊せず、だが怪物はドアを壊して1階へと上がってこようとしているのが音でわかった。
今思えばヒタヒタという、人間離れしている足音からしておかしかったのだ。気づけば……いや、気づいても変わらなかっただろう。
悔やんだってしょうがない。まずはこの状態を打破しなければ。
今いるのは図書部屋の隅にあった少し横に伸びているタンスの中に体育座りをして震えている。
おそらくいずれバレるだろうし、ずっと隠れていたら餓死とかで死んでしまう。
助けて欲しい。
……神様。
そうだ神様にlimeをすれば。
私はポケットに入っているスマフォ(寝ている時にもポケットに入っていた)を取り出し、初めて神様にメッセージを送った。
いてくれと願う前に返信があった
『状況はわかっているよ』
大変だね。とまるで呑気に送ってきた。
だが、今それを突っ込んでいる場合ではなかった。
何か助かる方法はないかな……。
『あるよ。』
本当に!?
思わず立ちそうになる。
『でもここで死ねば元いた世界に戻れるよ』
……。
確かにそうだが、でも……。
考えた。
だけども
私の友達も異世界に行ったんでしょ
それだったら戻る意味は無いよ……。
『君の友達は、君の全てなのかい。』
それは……。
『母親も父親も、君の戻る意味だろう』
母親も、父親も……いないよ。
母親は刺され、父親は自殺。
私は実家に一人暮らしだった。
だから……だから友達が全てなんだ。
『……ふうん。聞きたいことはあるけど今聞くのはアレだね。でも元いた世界の方が住みやすいんじゃないか?家もあって、学校に行って、仕送りを毎回送ってもらい、バイトは大変かもね』
確かにそうかもしれない。
……あれ?仕送りのことやバイトのこと言ったっけ。
『私は神様だよ』
あっさり、説明はついた。
でも学校はもういいことはないし、仕送りだってもう送られてこない。送ってくれてるばあちゃんが入院したんだ。バイトだって一緒にしている人とは不仲だし、近所付き合いだって良くない。
それなら、こっちの世界でやり直したい。
そうだ。
戻りたいなんて思った。いや、最初から思っていないそれが普通だと思い、自分を騙していただけ……なのかもしれない。
もし戻りたくなったらしぬから、よろしく。
『わかった』
反対もせずにあっさりと、神様は書いた。
ありがとう。
『それじゃあなんとしてでも今の状況を打破しなくてはね』
『作戦はある。待ってて』
私は高鳴る心臓を深呼吸をして抑える。
『作戦:まずナイフと、木の枝を用意して。あるかな?』
ナイフはある。ずっと力強く握っている。先端が紫の血がついているが。
木の枝は──。
『考えて。君が今いるところはすべて木だろ?』
木。つまり。
私は床を思いっきりナイフで刺した。
木の割れる音と共に木の破片が飛び上がる。
床に落ちた破片はいびつだが尖っている。
持つのは少し危なそうだが、我慢するしかない。緊急事態なんだから。
『用意できたね。』
突然、外から思いっきり何かが壊れる音がした。
肩がびくりとはねた。
『恐らく、彼女がたんすや本棚を壊しているんだろうね。相当イラついてるよあれ。』
怖い。
『落ち着いて。次だ。次は彼女がらここに来るまで待って。……私が合図するから』
「これでいいかな?」
がたん。私ははねた
「いっ……」
横は少しばかりでかいが、縦はそれほどでかくはないそしてその「声」にびっくりしてはねた時に頭を強打してしまった。
そしてその声は、神様だった。
頭に直接きている感じ。
耳を済まして聞いてみれば右からも左からも聞こえる声。
透き通る声。
「何してんの?」
と笑っている。
「ともかく、どうやら聞こえたようだね」
聞こえます。大丈夫です
「これで合図するよ。私がゴーと言ったらここからでる。そして彼女に突進して、さっきみたいに避け、また左手にナイフを刺して抜く。それだけじゃすぐ回復すると思うからその木の枝でまた刺す」
……。
えぐい。
「それ、君が言えることじゃない。」
ごもっとも。
「それまで待ってて、静かにね。」
そう言うとぷつり。と電話をきるような音がした。
その後、神様は喋らなかった。
私は深呼吸をする。
何回も。
目を瞑り、また高鳴っている心臓をおさえ。
時が来るのを待つ。
「彼女さ、あっさりし過ぎじゃない?」
そう言うのは私。神様だ。
地球のどこかの国の屋上で落下防止用の柵の上で足を組んで下を見ているよ。
「彼女とは誰だ。」
蛇神。通称蛇(私しか呼んでない)
屋上のドアで手を組んでいる。
かっこつけかなあ?
「さっききた女の子だよ。可愛かったでしょ」
「ああ。」
「興味無さげだね」
「か弱い人なぞ、興味はない」
あら、ひどいわ。
「確かにか弱いね。でも面白いじゃない。自分の身を、地球の寿命を削って、どうせ死んだら水の泡になるのに何かを成し遂げようとしているのよ」
ここから、通る人を見るだけで様々な表情をしている
喜んでいる顔。疲れている顔。怒っている顔。悲しそうな顔。
「ふん。どうでもいい」
蛇の心は掴めなかった。ギャルゲーならば一番攻略が難しいキャラだろうね。
「そもそも"私たちを作ったのは人"だ。少しは感謝とか、興味を持ったら?」
「感謝は、まあしているが興味はない。必ずしも子が親に興味を持つ訳では無いだろ?」
「さあ」といい笑いながら「どうだろうね」と適当に返した。
「でも不思議じゃない?どの時間軸でも必ず人が地球を支配しているんだ。」
「あー、あー、すごいな驚きだあ」
棒読み。
ふくれっ面をするもそれをもあっさりとかわされてしまう。
相変わらず冷たいやつだ
ため息をして話題展開
「話を戻すけど彼女はあっさりしすぎだよ。だって神世界に来たってすぐ受け入れられた。大体の人は驚いていたんだよ?気絶する人だっていた」
「たしかに不思議だな。私を見たって驚きはしていたが何も言わなかったし」
「でしょう?それに別時間軸に行って、帰るのにはしぬのが必要と聞いて焦りはしたが落ち着いてと言ったらあっさり落ち着き、次には普通に別の人と話している」
わらいをこらえながらだよ?明らかにおかしい。
「彼女は人か?」
蛇はかためをあける
「人だ。体的にも精神的にもね」
「……なるほどだから君は彼女をずっと監視して、メッセージを送っているのか」
どうやら納得したようです。
「あながち、間違ってはいないよ。何故か彼女は死んではいけない。殺してはいけない気がするんだ。」
神様の勘ではあるのだけど。
「だからといって禁法を犯すのは間違いだぞ」
「わかってるけれど……。」
通常時、死んだ生き物を蘇生させるのは禁じられている。
だから彼女が別時間軸で死に、通常世界に行かせることは、蘇生させるのと同じなんだ。
彼女にかまをかけ、言ってみたが、まさかドンピシャで怪しいとは。
「まあ、要観察だよね。」
「ああ」
蛇もまた、あっさりと言った。
「さて、そろそろ。」
プツリ、私は彼女の頭に声を繋いだ。
「生きてるー?」
陽気な声。
神様だ。
生きていますよ。でも
もう近くに怪物がいる。音が次第に大きくなっている「生きているなら安心だー。さて、そろそろだ」
真剣な声に変わる。
私もまた、深呼吸をする。
ゆっくりと。
ナイフを構える。
私ならできる。
行ける。
手に全集中力をかけるんだ。
手に力が入る。
「いくよ」
「3」
私は負けない。
「2」
行ける。いや、行かなくちゃいけない。
「1」
生きるんだ。
「ゴー」
真剣味のあるゴーサインと共に私はドアを蹴破る。
そして目の前に怪物が──千歳さんがいた。
左手は僅かに治っているが未だに深い傷があった。
だがそれを気にしてはいなかった
「いた「 自分から出てきた「馬鹿め「アホめ」
笑い、そして左手を強く、前に出した。
突進してくる。
「今だ!」
私も左手に向かって突進するナイフを持ち、ほぼスレスレまで近づく。
「……っ」
腕めがけてナイフを突き立て、両手で強く握り刺す。
叫びそして──刺せなかった。
避けたのだ。
左手を下げ、一歩下がり。
「同じ手にひっかがるかよ?」
「クソッ!」
「いいこと教える「彼女は「千歳は「自ら」 「悪魔に」
────「願った」
笑いながら、にやけながら、嘲笑しながら千歳さんは、悪魔は言った。
「うっ、嘘だそんなわけっ!」
「本当」
「でも……。」
「すぐに信じる「だから「アホなんだよ」
ナイフを下ろしたすきに千歳さんは突進した。
だが私は動かない。
何故、千歳さんは自分から……?優しかったのに?
親切にしてくれたのに?
「なんで……」
近づく悪魔の手。
そして私は思い出す。神様が言ったことを
「なんでだよっ!!!」
瞬間。
私は、左腕にナイフをさした。
下から。避けて。
前の傷口から貫通する。
「あっ……?」
訳が分からない。千歳さんはそんな顔をしていた。
素早く引き抜き、ポケットにはいっていた棒をその傷口に刺した。
千歳さんは倒れ、叫び、悶えている。
「い、いたっ「引き抜きたい「助け、」
私は走る。
「……地下室に向かって、そして左の部屋に行くんだ」
又、地下室──?
何故?
「彼女は回復する。まだ、リビングには行けないんだリビングに出るには……左の部屋に行くんだ。」
淡々とそう言った。
それに従い私は地下の、左の部屋に躊躇なく入った。
何故かみぎの、つまりは私の部屋からパチパチと音が聞こえたが気にせず、というよりかはそれどころではないので左の部屋のドアを閉じて座り、ため息をついたのだった。
「……ついたよ。だけど疲れたし、まったく神様の忠告を無視してしまっていたよ
「ああ、だが悔やんでいる場合じゃない」
「……うん」
「すぐそこにスイッチがある。つけて。」
「まだ疑問があるんだ」
「うん?」
「千歳さんは本当に自ら願ったのかなって」
私はドアの前にぺたりと座る。
「それは、無いだろうね」
「なんで?」
「だって君に殺されがたっているから」
「えっ」
ちょうど私の後ろにスイッチがあったのか、パチリと音がすると電気がついた。
その部屋は にあったのは壁一面に飾られるようにして立てかけられている銃。
アサルトライフル、サブマシンガン、スナイパーライフル。様々な銃があった
そして真ん中にあるこじんまりとした机には銃弾とアタッチメントがところ狭しに置かれており、隅には小さなランプがある。
「千歳さんを殺すなんて」
小声で呟く。だけど驚きは少ない。
どこかで気づいていたんだ。
違和感はあったんだ。
「悪魔人にしては足が遅い。それに歴史書を見ればわかると思う。悪魔は」
悪魔は
「『通常の人では太刀打できない。武器が必要だ。』」
考えと神様の声がハモる
「分からない。なんで私なの」
「ほかの人だってできた!自分から警察にいえばよったんだよ……なんで。」
「なんて言うのさ?」
そりゃ、あくまがとりついた!死にたいっ「死にたい?」
笑いながら言葉を遮る
「死ぬのは怖いことだろう?」
私を真似たのか。だが真似る気のない皮肉な言い方。
「それは君が言ったことじゃないか。発言に責任を持てよ。じゃないと死ぬよ?」
死ぬを強調して言うのだ。ユカイに笑いながら。
「……あ」
上から木の割れる音が地下室中に響く。
そして何かを言おうとした私を遮った。
肩がはね、千歳さんが復活したのがわかる。もうじかんはのこされてはいないのだろう。
「決断するんだ。死ぬか、殺すか」
「……。」
「彼女に死ぬ気はなくとも、殺すしか生きる道はない。」
私は無言でサブマシンガン──形状的にMP7だろう。それを壁掛けから外し構えた。
サバゲーならばやったことはあるため、構え方はわかる、が……。
「大丈夫。技術は進歩している。だから銃の軽量化、撃ちやすさは保証するよ」
もしも、それでも使えなかったら。
「試しうちしてみれば」
弾を持ち、装填。そしてドアを撃った
なんと五月蝿さはなく、つんざくような音はだが、銃の音はそのまま。まるでボリュームが下がった銃声って感じだ。
撃ちやすさも凄く、サバゲー以上に撃ちやすい。反動はほぼないといっていい。
重さも同じ。むしろ軽すぎるくらいだ。
「……考えがあるんです。」
「うん?」
「悪魔人は悪魔と契約、または悪魔が勝手に取り憑く……。ならば、悪魔と人は別々なはずなんです。」
その書物があっているならば。なのだが
「確かに、それがわかって何が変わるんだい」
「せめて……せめて千歳さんの有無を聞きたいんだ。」
「どうやるんだい」
「……。」
「言葉で説得なんてできないよ。悪魔は精神までも根絶やしにするんだから」
「一つ聞きたいんだけどさ」
私は口を開ける。静かに。
「悪魔は、太陽に当てると引っ込むんでしょ?」
「ああ、そうだけど弱い光じゃあ……」
「それだけでいいんだ。ありがとう」
それを言うともう、神様は黙ったのだった。
思いっきり銃を握り、拳を作る。
こちらに近づくのが段々大きくなる足音でわかった。
そして、もうこの地下に来ていることも。
私は手にいっぱいのアタッチメントと銃弾を持ち、机の下に隠れる。
アイアンサイト──つまりは最初のスコープでは見えづらいという理由から、ホロサイトに付け替える。
かちりと心地よい音がする。
銃弾はセットされている。
そして考える暇もなく、考えることも無く、ただただぼうっとしていた私がいる部屋に扉を粉々に粉砕して現れた千歳さんはにやりと笑った。
「わかってる「匂いがする「バカ」
その声に私は立ち上がり、机を前に銃を構える
標準を千歳さんの頭にすると、引き金に手をつけた。
「銃……」
驚き、目を見開いたがすぐに戻り高らかに笑う。どす黒い笑い。
声以外は何も音はない。沈黙があればなにも音のしない空間になるだろう
「撃ったら「千歳は「死ぬ「それでも」
心臓がうるさい。
「……死にたいんですか。千歳さん」
静かに語る口調で話しかける。
「バカ「言うな」
だが千歳さんは近づかない。
「お前じゃない。私は、千歳さんに聞いている。悪魔には聞いていない!」
私は怒鳴り、叫んだ。
「はあ?」
呆れた顔をするが私は続ける。
「私達の仲は短いけど!もっと仲良くしたい!」
「バカバカしい……なっ!」
阿呆ずらをし、油断している隙に電気を浴びせる。
顔に当てられた千歳さんは、目を瞑り手で抑える
太陽があれば戻せるならば、多少の光で少しくらい自我を戻せるんじゃないだろうか?
数時間の仲で、しかも私の浅はかな言葉で自我が戻るなど、毛ほども思ってはいない。
だから感動的でない実用的重視な方法を。
これで戻らなければ──
「あっ、ああー。もどってしま──」
顔を抑え、悶えている。微妙にだがあくまの手が綺麗な薄肌色になってゆく。
戻っているのだ。
だが笑顔にはなれない。
銃も下ろさない。
「ねえ、千歳さん。死にたいですか。」
なるべくと、感情を出さないように言う。
千歳さんは凄く苦しそうな表情を浮かべて口をぱくぱくさせている。
「わたし……は」
物音一つしないこの部屋でさえ、耳を澄まさなければ聞こえない小さな声。
微妙な光を浴びせたせいで悪魔と千歳さんが抵抗しているのが顔のヤツレ具合でわかる。
こんな千歳さんは見たくはなかった。
目を瞑りたい。でも瞑ってはいけない。
「わたしは……しにたい」
そう。言った。彼女は。千歳さんは。
自分自身でそう思ったんだろう。
私は引き金を引き、千歳さんの頭めがけ銃弾を放った。
銃声が1発、響き渡る。
聞いたことのあるような音。あれは確か──
「ガハッ」
頭から血が吹き出し、口から血を吐き出す。
銃弾外れることなく命中した。
段々と倒れ込み、だが笑顔を浮かべながら。
瞬きした時にはもう、ばたりと倒れ込んでいた。
銃の構えをやめ腕を落とす。
静かに、足音を立てずに千歳さんに近付く
「あ……りが……とう」
涙が頬をつたう。
お礼をいったんだ。殺されたのに。
千歳さんはもう目を瞑り、幸せそうな笑顔を連れて息を引き取った。そっと首を触っても、脈は動いていなかった。
最後に私は伝えられなかったのか。
鼻をすすり、涙をふいて、一礼する。
そして。
「ごめんなさい……ありがとう……さようなら」
震えた声は、消えてゆく。
あの後、私は私の部屋へと向かった。
バッグをとっていなかったのだ。
そして部屋に入った時に、部屋の半分は燃えていた。すぐに何が原因かはわかった。投げたランプのろうそくだ。
その部屋を、バッグを持ちながら出てゆく。
火葬代わり。
そう言ったら失礼だが、この死体を放っては言けない。正直いって都合がよかった。
そう思った私は、罪悪感で押し潰れそうになった。
一階に行き、リビングのドアを開けようとすると、まるで開かなかったことが嘘かのように、非常に容易く少し引いただけで開いた。
家を出る前、机に[日記帳]と[メモ帳の切れ端]がおいてあった。
切れ端には、[稲荷さんへ。日記帳、見てください]とかわいい丸々とした字で書いてあり、まるで死を予測していたようで、また涙が出た。
かくして、私は家を出てまた一礼。
外は真夜中。満月が綺麗だ。
まるで私達を、嘲笑っているようだ。
1話/2話が「、」が多いので修正したいのですがパソコン使えずスマホで書いているからできない悲しみ