プロローグ2.
神様は、考えている。怪訝な顔をして。
そして、答えが出せたのか、こちらをむいてまた、にこりと笑った。
「ダメです」
まあ、予想の範疇ではあった。
「……というか、いなりんが異世界に行きたいからここにきたんでしょう?」
いなりんて。
「いや、そういうわけでは、というかそういう人しかこないのですか」
私の異世界にいくイメージとはやはり、落ちこぼれとか、突然死で女神に会うとか。そこらへんなのだが。
とりあえず私は何故ここに来たのか、かいつまんで説明をした。
その間、神様はつまんなさそうに画面を動かしながら、でもうまく相槌をうちながら聞いていた
「ふうん」
約五分ほど話したその感想は、その一言だけなのだろうか。
「なーるほどね?ロリコンちゃん」
にやり、とイタズラな笑みを浮かべながらこちらを見る
「ロリコンでは断じて無い!」
敬語を忘れ、慌ただしく私は否定した。
「でもここに来る人って"ソウイウ人"ってことでしょう?」
「私は女だ!」
「でも女でもいるのでしょう?ええとなんっていったけ……ホモ?」
「れずです!」
と、私はほぼ脊髄反射で答えてしまう。
「ほら、いやーもうやばいねー引くねー!」
この野郎。しれっと心の中をよみやがって。
違う。違うんだ。
「それで、まあ、いやいやきたって感じなの?」
いやいや──ではない。
「違うよ。誘われたから、きた。いやいやじゃない」
そういうと神様はくるり、とさっきまで画面を見ていた体をこちらに向ける
「……ふうん?でも人のせいにするのはよくないね。」
そういって、石をも粉々にしそうな目で私を見る。
それに私は気圧され、思わず目をそらしてしまう。
人を殺せそうな目だった。
何故、そんな目をしたのか、私にはまったくわからなかった。
「まあ、わかったよ。うん、というか恐らくその三人もきっと異世界にいっていると思うけどね」
憶測でいっているようであった
「神様が管理しているわけでは、ないのですか?」
「んん。私だけだと時間がかかりすぎるからね、他の神にも対応してもらっているんだ」
もうすでに画面に目を向けている
「そう、なのですか。」
「それで、どこの世界に行きたい?」
どうやら、もう戻ることはできないらしい。少し残念ではあるが、しょうがないのだろう。
もしかしたら科学部部員に会えるかもしれない。
「それは、ないね」
「なぜ、ですか。」
「もしかして異世界って一つだけとか思っていない?」
思っていないといえば嘘になる。
だって、私達の世界だって、他の世界からすれば異世界なのだから
そう思うと、神様は頷いている。
「そうそう、しかも異世界ってのは何兆とあるんだよ。つまり、会える確率は、非常に少ないね。」
非常に、を強調して言う。
それは──それはつまり年齢は変わらず、新しい世界でやり直す、ということなのだろうか。
「そうだよ。そうに決まっているじゃん」
気軽に、そういった。
「……」
人生をやり直す。聞こえは良いかもしれないが、これは重大なことだ。
確かに私は、正直言って、この人生が嫌だ。友達がいるけれども、それでもリセットできるならしたいと思っている。
だけれど──
「それなら、いいじゃん」
さっきと同じように、実に気軽に言う神様。
いいや、これはリセットではない。ただの世界を移動するだけだ。
「難しいね。私にはよくわからない。神様は関係なんてあんまし気にしないからかな。そんな難しいこと考えていても、どうせ戻れないんだからさ、諦めなよ」
戻る方法は、ないのだろうか。
「ないよ」
さらりと。
それでもなにか──!
「だから、ないって」
鬱陶しく。
神様、なのに。
「キミ、神様がなんでもできるとか思っているんじゃないでしょうね。」
語尾を少し荒げながら、神様はこちらをにらめつける。さっきの、人を殺しそうな目ではなかった。けれど怖いのは一緒だった。
「確かになんでもできる神様はいるけれど、それは極少数だよ。惑星に一つくらい」
惑星──?
「ああ、行っていなかったっけ、神様って他の惑星とかにもいるんだ。というかどこにでもいるよ。……と、いうか異世界うんたらって言っているのにそんなのも察しつかないわけ?にぶいねえ」
うるせえ。
「それで?どうするのさ」
……諦めるしかないのだろうか?
「ああ、もうわかった、わかったよ本当にしつこいね、さっさと諦めればいいのに」
そういって、神様はこちらへと、近づくようにして私を見る
「正直言って、この方法はあんまし紹介したくないんだけどね。戻る方法はあるんだ」
「ほ、ほんとうですか!」
私は驚いて、恐らく顔を近づかせた。
「しかも簡単なんだよね。私、人間になると嫉妬深いからさぁー。いやーもう嫉妬してる、殺しちゃいそう」
「こわい!!」
「まあ、それで、その方法は一回異世界にいかなくちゃいけないんだよねー」
えらく、都合がいいな、と思いつつ、私は恐らく顔を引っ込めた
「ふうん。簡単なのですか」
「そうそう。それだったら問題ないでしょ」
「……ううん。まあ文句はない」
じゃあ、と言いながら手をパン、と叩いた。
「じゃあ、改めて。どんな異世界がいい?要望は聞くよ」
聞くだけかもだけどねー。となんとも愉快に笑う
それはそれで困るのだが……。
はてさて、やはり定番といえばファンタジーな世界、魔法だとか、昔のような集落みたいなのがいっぱいあるような世界だろう。
私もそんなのに憧れるし、チート級の力手に入れてはちゃめちゃしたい。
具体的に言うなれば女の子にあんなことやこんなことしたい。
「やっぱりれずじゃない」
失言。
「あと、キミ程度の力だとチート級の力なんて手に入れられはしないよ。もうちょっと妖力高くなくてはね」
どうやら、チート級なハーレムは作れないようだ
「あははー」
ううん。だったらどうしよう。それだったら昔の世界に行きたいとは思わないな。
いや、でも魔法は使ってみたいな。でも魔法ってやっぱり妖力に左右されそうだし……。
もしそれで上手く使えないとなると完全に落ちぶれてしまう。
異世界に行くのだから、家なし、メシなし。さらに能力なしなんて嫌だ!!
ああ、どうすれば!どうすればいいんだ!生き残りたい!
せんせいきのこりたい!待てよ?
すぐ戻るんだからそんな考えなくていいじゃん。
「近未来で」
「さっきの考えから到底理解できないね」
確かに。
そう聞くと、神様はまた、別画面を突然とだして空中に浮く透明色なキーボードをうっている。
音は一切しない。
「まあ、それでいいならいいんだけどね。じゃあ、ちょっと用意するから待っててくれる?」
どうやら、さっきからずうっとパソコン(?)をいじっていたのはどうやら、異世界へ転送する準備だったらしい。
てっきり、DBみたいに、瞬間移動するのかと思った。
「そんなことあるわけないじゃん。それより私、暇だからさぁ、ちょっと話そうよ」
「話しですか」
「そうそう、いやぁーここにくるヤツって大体コミュ障だったりとかで話さないやつが多くてさぁ本当困るんだよね。でもキミは普通に話してくれそうだし」
特に咲く話しもなさそうなのだが。というか神様ってどんな話しが通じるんだろう。
私が話せる内容と言えば……ゲーム、アニメ、漫画?小説、は微妙だな。
「あ、ゲームゲーム。最近良くやってるんだー。いやーあのゲームはすごいね。」
「ゲームですか。家庭用ゲームです?」
「うんそうだよー。」
「確かに今の家庭ゲームはすごいですよね。グラフィックとか、あんなすごい描写のできるモノがあのような小さいのにまとめられてるのはすこし驚きですよね」
「グラフィック?でもあのドット程度ならいけそうだけど……」
「ん、ドット?」
ドット、ということは喋るshove● Knig●tかな。いやでもあれは3D●だった気がする……。もしかしてWi● Uにもあるんだろうか。それならば一度やってみたいものだ。パソコンではやっているのだが、やはり家庭用ゲームとでは少し違うだろう。
「あれは確かドラゴンクエス●だったかな?」
「ファミ●ンだったのね!?」
てっきりWi● Uかとおもった。
だが、そのツッコミにも乗じず、ずうっと笑顔のままで淡々とキーボードを打っている。
「冒険の書1が何回も消えるのは少し問題だと思ったけどね」
「トラウマを掘り返すのはやめて!」
「でも父であるパパスが死ぬ時のぬわーっ!はネタにされているけれどなんだか、感動できるとこではあるよね」
「それは天空の●嫁だし、ぬわーっ!なんて生優しいものじゃない!ぬわーーっっ!!だ!!間違えるな」
「細かいことは気にするな。それワカチコワカチコー」
「ネタが古いよ!」
どうやら、この神様はどこか、昔に住んでいるらしい。
古風まではいかなくても、古くはあるようだ。
「てか、本当にファ…‥FCは古くないですか」
「なんで言い変えたの」
色々まずいからだよ!!
「ほらよく言わない?神様と人間との時の流れは違うって」
「確かにイイますね」
神様の時間は早くて、人間は遅いとか……。
「そうそう、まあ、ファミ●ンは冗談としても、ゲームボーイくらいならやったことあるよ」
……だからその名前は!
「どっちにしろ古いですね。もう十年以上前ですよ」
「そんなバカな!!今の人間はゲームボ●イで、マリ●3とか、カービ●とかやってるんじゃないの!!?」
「今はもっぱら、リアルな風景の中、ドンパチしたり、四角い世界で家建てたりするのが普通ですよ」
名前を出したらダメ。
「ああ、しってるしってるマイ●ラとか、GT●とかでしょ?」
……ワザとか…ワザトなのか。
「心読めるし」
また忘れていました。
「はあーまじかあ、通りで他のやつと話が通じないわけだよ」
溜息をもらす
「通じない、とは?」
「私が、あの太陽マジトラウマだよねーって言うと、」
神様はギャルのような口調だ。
「トラウマ?ううん、まあ確かに。でも眩しいだけじゃない?って」
……なるほど、もうこの時点で話が通じていないことがわかる。
ちなみに、神様が言っているのは、マリ●3の2ステージにいる太陽で、その話し相手のは恐らくB●4だ。
「いいや、眩しくはないよ~だって、あれ不規則に動くだけじゃん~といったらさぁ……それバグ?って」
「ジェネレーションギャップ、ですか」
「でもやっぱり私は昔のゲームがいいんだよねー」
今のゲームは、なんか合わないんだよね。と言った。
「……っと。終わったよ。」
恐らくはエンターキーを強く、タァンという音をたててうつと、こちらを向いた。
「早かったですね」
にこりと笑って、神様は立ち上がった。
しかしこの神様はいろんな笑い方をするものだ。
さっきからずっと見ているが、同じ笑顔をしていない。私はその笑顔を見て、飽きないと感じた。
じゃあ、さっそく、とつぶやいて、
「目を、つむって」
真剣な顔で、そういった。笑顔とは程遠い顔で。
私は神世界に行く前のことを思い出す。
皆と、談笑して、雑談して、そして──
「そういえばさ、」
私は目を瞑っていたから、どんな顔をしているかはわからないけれど、神様はいつもの、愉快な、まるで人を小馬鹿にしているような口調ではなかった。
「もしも、戻ったとして、キミはどうするの?」
どうする……それはもちろん、戻って友達と──。
「友達も異世界に行っているんだよ?それなのに?」
それは、それは……
「また一人になるの?」
また、またってそれは
「それってどういう」
「じゃあ、またねしおちゃん」
そういうと、突然と、目をつむっているのに、何故か真っ白になって、意識を失った。
あっというますぎて、考える暇のなかったのだ。
でも、あの呼び方は──
何分か、それとも何秒か経った後、私は意識をなんとなく戻した。
本当に戻っているのか、正直怪しいものではあったが、だが事実、私は目を開けた。
もしかしたら、また暗い世界なのかと疑ったが、だが私は目を開けた時の痛さと、眩しさで暗い世界ではないと直感した。
砂利道。私は砂利道のど真ん中に立っていた。下を見て、私は灰色の砂利と、高校の上履きと足を見た。
どうやら、普通に姿が見えるらしい。
それにしても、この世界はどこなのだろうか。見たところ、近未来というワケではなさそうだ。
砂利道もそうだが、左右には黄金色の小麦が、奥が見えない程に植えてあった。もう成熟して、今収穫すればきっとおいしいパンができると思う。
他にも、その中にある風車や、木の小屋が見える。
「まずは、人探しだな」
私は一歩、踏み出してとりあえずは木の小屋を目指そうとしたとき──
耳を劈くような銃声が、一面の小麦と砂利道に響いた。