秋の決意
キンモクセイの香る季節。
彼女は1人ブランコに揺られていた。
いつもはそんなことに気が付かないのに今日は妙に気になった。
黒髪にショートカット、白い肌が強調されて人形のような印象を受ける。
そんな彼女が寂しそうに物憂げそうにブランコに揺られていたのだ。
僕は社交的な人間ではないし、積極的な方でもない。だが、彼女の瞳から涙が零れ落ちた時、さすがに無視できなかった。
「あの! 大丈夫ですか!?」
僕が声をかけると一瞬びくっとして、静止した。
それからゆっくりと顔を上げ、僕の顔を覗いた。
「……どなた……でしょうか?」
涙で潤んだ瞳が困惑をたたえている。
その姿が綺麗で無視できなかった理由になる。
「この、近ジョに、住ム者でス!」
緊張で声が裏返ってしまった。
「あぁ……」
そう反応すると彼女は納得したようだった。
「この近くにね、私、住んでたの」
彼女は語りだした。
「その頃、一緒に住んでいた人がいたの」
「なるほど」
その頃を思い出して泣いていた?でも生きていたらそんなこと考えないわけじゃないけど、彼はやっぱり……
「やはり、彼は亡くなったのですか?」
「正解」
すぅと息を吸うと彼女は言う。
「生きていた時にね、この紅葉を見に行こうって彼が言ってたの。 でも次の紅葉を見る前に別れちゃって」
「理由はお互い忙しくなっちゃって些細なケンカを繰り返した。それで私から別れてって」
でも彼は大事なことを言わなかった。彼には病気というとてつもない悪魔がとりついていてそれに抗うために生きていたのよね。
それに気付かず優しい彼は私の言うことを聞いて別れてしまった。
今思えば取り返すことだってできたかもしれない。
だけどその頃の私は自分のことでいっぱいいっぱいで……
「じゃあ、この落ち葉を持って謝りにいきましょう」
「へ?」
僕は提案する。
「彼の家へ」
そして僕らが彼と彼女が住んでいた家に行くと明かりがついていたのでインターホンを押してみた。
「はい」
困惑した妙齢の女性の声がした。
「あの、ここに住んでた……」
彼女がしゃべり出すと
「りほさん!」
「はい、りほです」
「久しぶりね、入って!」
開けると、彼の母親だった。
どうやら遺品の整理をしているようだった。
「りほさんに会いたかったの」
母親はにっこり笑った。
「タダシは、りほさんのこと最後まで心配してたわ」
「タダシって……」
僕が聞くと「恋人の名前」と、りほさんに言われた。
「りほさん、あなたは何があっても生きて、生き抜いて頂戴。絶対よ。生きられるためなら何だってしてもいいから。タダシの分も……ね」
「タダシは最後まで生きたがってたわ。それをムダにしないで欲しい。新しい恋人を作ってもいいから。楽しく生きてね」
母親はにっこり笑うと、仏壇のタダシさんを見やった。
「線香をあげていって。タダシも喜ぶわ」
「タダシさん、ごめんなさい。また来るね」
りほさんは微笑んで言った。
その後、タダシさんの家を後にして、りほさんは言った。
「私、ここで泣いてらんない。これからもタダシさんに胸張って生きられるように生きる!」
僕の目からも会った時の悲壮感はなく、未来に希望を持った目をしていた。
「りほさんなら、きっと大丈夫」
りほさんの人生はここから始まるのだ。




