第八話
「あんたさ、さっきも会ったでしょ? 忘れたの。」
その言葉で、お茶会に向かう途中ですれ違いざまに挨拶したのに、無視した奴を思い出した。
あれ、あんたかい!
そんな事を思いはしたが、何といっても、こいつは第二王子。私がそんな口を聞けるわけない。
もっと言うなら、アレクシス様だって、私にタメ口を聞ける立場ではないのだけど、そこは黙っておいたほうがよさそうだ。
「アレクシス様でしたか。挨拶は返したほうが良いのでは? 今後のためにも。」
だがしかし、無視されて傷ついたのは事実だ。しっかり嫌味も添えておこう。
第一王子が帰ってきたら、継承権でゴタゴタがありそうだ。巻き込まれたくないので、それまでに如何にかしなくては。
「あんたも、相手の顔はきちんと見たほうがいいんじゃない。……まあ、あんたを持て成すのも俺の役割に入ってるんだよね。何がしたい?」
「城の案内……表の庭はお妃様と見たので、城内をお願いします。」
前半の言葉は、正論すぎて何も言えなかったから、サラッと流しておく。
「せっかく、俺の部屋の前にいるから、お茶でもしたほうが親睦は深まると思うよ。」
「じゃあ、それで。」
思っていたより、気力がないわけではないぞ? と油断した頃にそんな気力なし要素をだしてくるなんて、そこそこ強者だ。
というか、持て成すと言って、何をするか聞いたのに反映されないってどういう事なんだ。
「飲んで。」
カチャ、とティーカップを机に乗せる音が響いた。
仮にも王族なのに、部屋はシンプル……いや、生活感がないと言ったほうが正しい。
何処か見覚えのある部屋だけど、何だったかな……。
その中で一輪挿しの花が一際目立ってたので聞いてみる。
「部屋は何もな……いや、シンプルなのに、あの一輪の花は飾ってあるんですね。」
「ああ、あれね、兄さん……第一王子が俺にくれた花だよ。たまに送ってくるんだよね。」
そう答えたアレクシス様の顔に影が見えた気がした。
あ、これあかんやつや。
察した私は違う話に持っていこうと必死だ。
庭の話か、昨日の話か、または婚約についてか。やはり、ここは本来の目的である婚約についてか?
「アレクシス様、私達はこれから婚約することになると思います。」
「ああ、なるだろうね。父上とか、あんたの親族は俺たちが仲良くなるのを望んでる。だったら、ある程度はこれからも接触はあると思う。」
「アレクシス、と呼んだほうが?」
「お互いにタメ口でも良いと思うよ。正式な場以外は。」
何とも突飛な提案をしてくる方だな、アレクシス様。
まあ、私は年齢そのものだけど、よく考えたら、私とアレクシス様は8歳だ。8歳にこんな大人の都合とか、婚約とか考えられない。単純に仲良くなる方法を考えよう。
「仲良くなる手始めに、庭でも一緒に散歩しない?」
「いきなり何で散歩なの?」
「前に本で読んだ事がある。仲良くなる為にはお互いを知る事が大切なんだって。散歩しながらなら、話してる内容はそこまで聞かれないわ。」
これで、嫌そうな顔したら引きさがろう。嫌われたくはないのだ。多分無理だろう。
「そう。いいよ。」
「やっぱり駄目よね。……ってえ!? いいの?」
まさかの返事だ。
あまり乗り気な顔ではないけど、了承した。
あのアレクシス様が!
約束を取り付け、部屋に戻るとノエルがちゃっかり私の部屋に待機していた。
「お嬢様、何処へ行っていたのですか?」
「アレクシス様の所。今度、散歩する約束をしたわ。」
その事を報告すると、ノエルは余程驚いたのか、目を見開き、滅多に聞くことの出来ない大声で
「あの友達いないお嬢様が!?散歩!?」
と言いやがったのだ。友達はいるよ!家柄目当ての友達だけどね……。……泣いてないわ。