第六話
私はうっかりしていたようだ。
よくよく考えたら、第二王子であるアレクシス様に王都についてすぐに会えるわけではない。
まず、謁見室に行き、立派なお髭を蓄えた王様に挨拶をし、次に城の騎士による城内の案内、最後にお妃様のご機嫌伺いに行けば、日はとうに暮れた。
これから、私が泊まる部屋に案内され、ドレスを着替えてディナーにて初対面だ。
せっかく燃やした闘志も情けなく萎んでしまった。
しかも、これまたコルセットを絞める、絞める。
女性の力ではダメなのか、ノエルが参上してくる始末だ。
「ノ、エル! これ、こんなに絞めるの!?」
「すみません、お嬢様。やはり王宮での食事ですので。」
そう答えるノエルの顔は、いつもに増して輝いている。……こいつ、わざとこんなに力を入れてるんじゃないだろうか。
そんな苦労もあって、出来上がりはまあまあ見れる程度にはなった、と思う。
アレクシス様には変な女と思われてはいけないのだ。だって、それ死亡フラグ。
きっと淑女らしく振る舞えば、それなりに好感は持ってもらえるはず。
歩きやすさというのを完全に無視しきったドレスで廊下をヒールの音を鳴らしながら闊歩した。
周りは朝の私の奇行を見たものばかりなので、多少驚きはすれど、動揺はしなかった。
後ろに控えてるノエルが何か言いたげに見てくるだけである。
私の身長の何倍もありそうなどデカイ門に圧倒されながらも、格式高い名家の令嬢らしく優雅にドレスの裾を掴み礼をする。すでにテーブルには王様、お妃様、アレクシス様が揃っていたが、一応、客人としてきているので、咎められることはなかった。
むしろ、この場合は客人が遅れてくる方が礼儀というものなのかもしれない。
「よくいらっしゃいました。貴女の事を歓迎します。」
とお妃様は口元に笑みを浮かべながら、凛とした声で歓迎を示された。
おお、流石お妃様。女性の鑑のような出で立ち!
私も負けじと笑みを浮かべ、ノエルに椅子を引かれて座る。どうやらアレクシス様の隣だ。
机は長方形の形をしているが、所々に水を模したような凝った造形をしていて、椅子もそれに揃えられて、背もたれには彫刻がされていた。
向かい側に王様、お妃様が座り、こちら側にアレクシス様と私だ。
さっそくという感じで、王様にいくつか質問をされ、それに対して必死に返答をしていたので、アレクシス様とはあまり接触はできない。
でも、親からの信頼って大切だからね! 私、淑女です、を前面にアピールしてくよ!
結局、王様からの質問攻めで幕を閉じたディナーは、あまりアレクシス様の情報は聞き出せなかった。
しかし、お妃様からのお茶会のお誘いにはちゃっかり乗ってしまった。美味しいお茶とお菓子を用意するわ、なんて、乗らないわけがなかった。
先ほどの部屋に戻り、ディナー中、終始私を苦しめたコルセットをすぐに外し、ベッドに向かってぶん投げる。ちょっとスッキリした。
明日の10時からお茶会を始めるらしい。3時か4時のイメージがあったんだけどな。