第五話
ゴトン、ゴトンと馬車が揺れながら目的地へと向かう。私にとっては魔の道へ引きずり込まれるかのような気分だ。
横のカーテンをめくって、外をチラリと見ると、なるほど、確かに中世ヨーロッパ風だ。
建物などはまさに中世という感じだけど、道はある程度整備されていて、清潔感がある。そんな矛盾を見てしまうと、本当にゲームの世界なんだなぁと実感させられる。
目の前に座っているノエルを覗き込むと、寝ているのかどうかは知らないけど、目を伏せている。
お城までは、まだまだ時間が掛かりそうだ。
今のうちに、ゲームの詳細を思い出そうとしなければ。
エンディングは1人につき3通り。バッドエンドとハッピーエンド、さらにトゥルーエンドがあり、その「バッド」と「ハッピー」の判断が難しい。
廃人状態、愛人になったり、人形にされたり……エトセトラ、これでもハッピーエンドだった。
ちなみに、ハッピーエンドでも、心中するキャラクターもいる。
「え!?死んじゃった?」
とバッドエンドを覚悟していると画面上に現れるハッピーエンドの文字。
ハッピーって何だっけ、と絶望を感じた。
多分これからお会いする第二王子、アレクシス様が1番にえぐいと信じている。なんて言ったって、ハッピーエンドで秘密裏に恋人を殺害し、悦に入るような、トチ狂った野郎だ。これならバッドエンドがましかと言うと、そうでもない。バッドエンドは死にはしないのだ、死には。
しかし、永遠と自分の持つ感情の名前を知らずに、切りつけたり、脅したりする。画面を隔てて見るぶんには苦悩する(初恋を拗らせすぎた)王子を眺めるだけだったのだ。実際に会うのとはまた別である。
「素晴らしい……。君の体にも俺と同じような血が流れていると。背筋に痺れがくるほどに興奮する。」
などと、ブツブツ呟きながら切りつけてくる第二王子は、もはやヤンデレではない。ヤンデル。だからこそのバッドエンドなのだろう。
というか、主人公だって人なのだから血くらい流れてるだろう、当たり前だ。
ちなみにこんな王子でも、トゥルーエンドは割と少女漫画のような展開だ。ある葛藤を(主人公に関係はないものを頼りきりにするのもどうかと思うが、)主人公と共に解決し、幸せな結末を迎える。
他の攻略対象もトゥルーエンドだけは、心が救われるのだ。
しかし、エンディングでもう胃もたれがするレベルで拗らせてるのに、途中までは病んでる気配を完璧に隠す攻略対象まで居るのがまた怖い。まあ、ゲームのコンセプト的にヤンデレだって分かってはいたけどね。
さて、ここで問題があるのだ。
エンディングに対しては此処まで詳しく思い出せたというのに、攻略対象はアレクシス様と、目の前のノエルしか思い出せない。
1番重要だと言うのに。
だが、私が1番警戒するべきなのは、直接的に私の元の世界に帰るという最終点を邪魔するノエルだ。こいつなのだ、悪役令嬢を殺すのは。
仮にも主人の娘に手をあげるのはどうなのか。
そのほかのヤンデレとは……大体のヤンデレとは関わりを持たなければ会わない。
それか、どうせ会うのならば、私に情でも抱いてくれるならばなお良い。憐憫の情を。
そんなことを考えてる間にも、ヤンデレのアレクシス様が巣食うお城もあと少しで着く。
接触不可避ならば仕方ない。会ってやろうじゃないの!
まだ主人公は現れていないのだから、ヤンデレが先天性出ないことを願っているしかない。
お城についたらしく、一際大きく揺れて馬車は止まった。実は寝ていたわけではないらしいノエルは目を開け、先にドアから降りて待っている。
私があまりにやる気に満ちていたのか、目をギョッと開いて驚いている。その顔にしてやったり、と思いながら、ノエルの手を借りて降りた。