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第四話

ぎ、ぎゃあああああああああ!!



清々しい朝。

由緒正しき優雅で高貴なクローディア家に、似つかわしくない奇怪な叫び声が響いた。


その正体は、端麗との噂であるロザリー嬢である。


この状況を見ていない奴……いや、見た奴でも、あのロザリー嬢がそんな可笑しな声をあげる訳がないと思うだろう。


当たり前だ。私はロザリー・クローディアではない。


ごく平凡な、日本人だった。由緒なんてない平凡な家だったはずだ。父が休日はテレビの前から離れない様な、だらし無い人だったはず。


私の容姿だって平々凡々な黒髪黒目。

自分の髪を鷲掴みにして何度見ても輝く金髪だ。しかも、綺麗にウェーブしている。

元の髪はウェーブしていても、それは寝癖というやつだ。








落ち着いて、ノエルの持っていた婚約者となるアレクシス様の写真を見る。



「ど、どう見ても……あの、トラウマ……。」


「はぁ?」


思わず呟くと、ノエルが怪訝な顔でこちらを見る。「はぁ?」はないだろう、「はぁ?」は。仮にも令嬢だぞ。


いや、ロザリー嬢の立場でいうと1番怖いのはお前だよ、ノエル!


その乙女ゲームは、まぁいわゆるヤンデレゲーム。攻略対象が揃いも揃ってヤンデレという、トチ狂った設定だ。詳しい設定は思い出せないが、私の中の謎のヤンデレブームにストライクしたらしく、萌え転がってベッドから落ち、頭を打ったのは良い思い出だ。


「お嬢様、そろそろご準備を。」


行きたくない。


そんな事を言えば、流石に病院送りだろうか。只でさえ、さっきからの私の態度に引かれてるのに、これ以上やばい奴に思われるわけには行かない。

頷かないわけにはいかないのだ。






「良いです。大丈夫です。1人で出来ますからぁぁ!!」



早速の困難。


そうだ、ロザリー嬢は自分で着替えたりなんかしない。でも、私は別だ。昨日までして貰っていたと言えど、気恥ずかしい。

私も女なので恥じらいの気持ちはある。



「お嬢様?」


メイドも不思議そうな目で見てくる。


「わ、私がやると言っているのだから、大人しく出て行ってくださる?」


ごめんなさい、すみません!

でも、こういう事を言っていた気がするんだ、ロザリー嬢は。


「も、申し訳ありません。」


メイドさんは少し震えながら、部屋を後にした。その姿を見て、余計に罪悪感が芽生えてくる。

ああ、可愛らしい女の子だったのに。







「お嬢様、ようやく用意ができましたか。では、出発しますよ。」


ドレスって何であんな着づらい構造しているんだろう。やっと形にはなったと思って時計をみたら、出発時間の5分前だ。遅れるなんて事があれば、ノエルからどんな言葉をかけられるか、考えたくもない。危なかった。


「では、お手を。」


というノエルの言葉通りに手を借りて、凛々しい顔をした馬が引く馬車に乗る。


さっき、私の婚約者として見せられたアレクシス様は、ゲームの中に出てくる時は、よく言えば、寡黙でミステリアス、まぁ言っちゃうと気力がないキャラだった。


まだ幼少のはずだけど、この歳でそんな気力がなかったら、お姉さん、ちょっと心配になっちゃうよ。


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