第三話
真っ白なこの部屋には、私の部屋にある様な豪華絢爛なインテリアはない。ただ、生活に必要な最低限のものが所狭しと存在するだけだ。
もともと、小さい部屋であるのに、ベッド、テーブル、椅子等のインテリアを置いたために、さらに開放感がない部屋となっている。
その隅にいるモノは、私が気まぐれに拾った男|(正確には9歳くらいのあまり歳の変わらない男の子)だ。
馬車の中で暇になり、ふと窓から外を見たら目に付いた。ただ、それだけである。大した理由はない。
人の形状はしているが、それは階級の1番下、乞食であった。それ位の身分だと、大抵の子への教育としては「その他」で済まされる存在だ。あまり、公にはしたくないのだ。
然し、どういう事か、私には拠り所となっていた。命名までして、足繁く通ってる。今日だって、食事を届けるという名目のもと|(それは何日かは食べなくても済む)こんな手間のかかる部屋に来ている。
端的に言うと、犬や猫への扱いなのだ。
物理的ではなく、権利的に訴える事ができないので、何でも話す事ができる。嫌なこと、腹が立ったこと、聞いた昔話、神話、余計なことまで、ついつい話してしまう。
それは、私を見つけるやいなや、パアッと明るくなり、話しかけてきた。
「ロザリー嬢、お嬢様。僕に会いに来てくれたのですね!」
ここまで言葉を理解させるのに、時間はそれ程かからなかった。素が頭がいいのだ。敬語は最近勉強をしているので、未だ拙い部分は見受けられる。
「食事よ。明日が早いから、すぐに戻るわ。」
「ありがとうございます!」
ノエルより、よっぽど従順な分、可愛げがある。
「明日は何か用事があるのですか。」
「あら。意外と踏み込んでくるのね。……特別よ、明日はね、婚約者様と顔合わせの予定なの。」
「……そうなのですか。お幸せに。」
「やだ、気が早いわよ。結婚はまだ先だわ。」
帰ろうとする私を寂しげな視線を送っている。正に、犬や猫と同じだ。
明日のためにも、今日は早めに休み、婚約者様への対応を考えなければならない。
少し惜しいが、部屋にはそろそろ戻らなくては。
「おや、お嬢様。お帰りなさいませ。ご就寝の支度は整っておりますよ。」
ノエルが相変わらずの笑みを張り付けながら、望む言葉を口にした。
「貴方は優秀ではあるけれど、主人に気に入られるような愛想はないのね。」
「何をおっしゃいます、お嬢様。私はいつも丁寧かつ迅速に対応しておりますが。」
「……そうね、言い方を間違えたわ。愛想ではなく、可愛げがないのよ。」
「こんなに真摯に仕えていますのですがねぇ。」
「……。」
次の言葉が思いつかず、黙り込むと、勝利を確信した顔が、
「では、お休みなさい。良い夢を。」
とのたまうのだ。
アレクシス様とは、話をしながら、彼方の狙いを推測しよう。彼方も、世間話だけでは退屈であろうから。
なるべくなら、粗暴な方は嫌だわ。
なんて考えながら、ふかふかの1人で寝るには大きすぎるベッドへ横になった。