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第二十六話

隣に控えるノエルにも伝わってしまいそうなほどの緊張感を持ちながら私の身長の何倍もありそうな扉をノックする。


両端に控えていた使用人が私の顔を見ると両開きの扉をゆっくりと開いていった。








陛下はまだ食卓にはついていないものの、アレクシス、王妃様、それにセシリア嬢が揃っていた。アレクシスは無反応、王妃様は社交辞令として少し微笑んでくれた。

ちなみにセシリア嬢は言わずもがな、少し睨んだあと、品のいい笑を浮かべている。


アレクシスの隣の席に誘導されたので、そこに座り、陛下を待つ。少しすると、セシリアがニヤニヤと笑い始め、私はついに頭が可笑しくなってしまったのか、と訝しげに見つめる。


「セシリア様?どうやらお疲れのようね。やつれてます。お可哀想に。」


「いいえ、ロザリー様。あなたの隈ほど酷くはありませんもので。お気づかいなく。」


そのセシリアの言葉に隣のアレクシスが肩を震わせていたのでテーブルの下でアレクシスの膝を私の膝で小突いておいた。


「ロザリー様ってば、水臭いわ。……ふふ。」


正直、はあ?って思った。

いくら嫌いあっているとはいえ、私を面と向かって悪く言ってくる数少ない知り合い。少しばかりの情はあるので、良い医者を紹介した方がいいかもしれない。


すこしすると、扉が開き陛下が堂々とした振る舞いでいらっしゃったおかげで、この話はこれでおしまいとなった。








食事を済ませ、場が和んだ頃、陛下が徐ろに話し出す。


「ロザリー嬢よ。私は貴女の素養を認め、我が息子の婚約者とした訳だが、貴女はその信頼を裏切った。これについて何か弁明はあるか?」


その言葉に、アレクシスは私の方を見て力強く頷いた。


「はい、陛下。私は不幸にも濡れ衣を着せられているのです。」


「考えを聞かせてみなさい。」



「はい。私はアリエス嬢が亡くなった時、アレクシス様と料理を楽しんでいました。それ以前としても、アレクシス様やティモシー様とノエルと共にいました。」


「アリバイがあるということかね?しかし、ノエルはクローディア家に仕える執事だ。黙らせることなんて簡単なことだろう?」


「いいえ。ノエルは恐れ多くも王家からいただいた執事であり、ノエルは王家に不利な事はしないでしょう。」


「では、アレクシスはどうだ。ロザリー嬢の婚約者なのだし、魅了することだって……」


「それは有り得ないです、陛下。」


アレクシスが若干被せ気味で否定した。いや、確かにそうなんだけど、何だろうか、その言葉に腹が立った。


「えー、まあそれはありません。」


「ティモシー殿はどうだ。噂が広まっているようだが。」


「ティモシー様は、確かに私の旧友であり、信頼のおける方ですが、私に翻弄されて自らの婚約者を殺めるような方ではありません。むしろ、私を諭そうとするでしょう。」


「…………。」


「なるほど。貴女には立派なアリバイがあり、共にいた者も加担するような者ではなかった、と。では、誰がアリエス嬢を殺めたというのか?」


「それは、セシリア嬢が怪しいかと。」


「な!!?」


そこで反応したのは、ずっと黙秘を続けてきたセシリア嬢だった。当たり前だ。彼女は今宵の晩餐をを私の断罪をする場であり、高みの見物を決め込むつもりだったのだから。


「陛下!この女の戯れ言を信じてはいけません!」


「あら。この女、だなんて傷つきましたわ。あまり騒がしくするのは行儀が悪いわよ。」


「申し訳ありません。ついものの本質が見えてしまいまして。」


私たちが騒ぎ立てていると、王妃様が徐ろにこちらを向き、鶴の一声を放った。


「親の仲が宜しくないとこうも子供も醜く争うのかしらね。」


その一声に私たち2人はしーん、と静まった。


アレクシスが、ひとつため息をつくと、後は俺が説明する、と言い出した。


「セシリア嬢につきましては、婚約発表の際に会場にいて他のものとの談笑を交わしていました。」


アレクシスの言葉にホッとしたような顔をしたあと、私に勝ち誇った顔を向けた。


「しかし、それ以前に彼女が何者かと接触していたことが彼女の生家、アメレール付きの執事から報告されています。しかもその相手は我々とは縁のないような者だと。」


「そ、そんな汚らしい者は知りません!そのことなら、彼女にだって可能ですわ。」


セシリア嬢は慌てたように弁明した。確かに、私でも他のものを雇ってアリエス嬢を殺害することは可能だ。金欲しさに群がる連中なんて腐るほどいる。それを非難するつもりはないけれど。


「確かに、確かに!しかしながら、彼女に付いているノエルから報告もなく、また彼女はアリエス嬢の重要性も理解している。」


そうだ。アリエス嬢の生家の持つ領土は辺境にあれども、そこが崩壊すれば我が国が危ないと噂されている場所。そこの令嬢と中心部の貴族が婚姻を結ぶのは辺境伯に寝返りをさせないための手段として有効だ。

それが引いては将来王妃になる私にとっての利点になる。


「かの昔、王が因縁のある相手を辺境に送ったら、敵国の軍隊を入れ込み、王を処刑し、国を乗っ取ったという。辺境を守る者は厳選しなくてはいけない。」


「そ、それは……。でも、私にはアリエス嬢を殺す動機がありませんわ!」


その言葉に、いきなり頭に浮かんできたのは、私に絡んでくるセシリア嬢の姿だった。


「もしかして、貴女、ティム………ティモシーに懸想して……?」


彼女が私に初めに絡んできた茶会ではティモシーもいて、幼馴染であるが故にエスコートを頼んでいた。


私のその言葉に彼女の顔に火がついたようにカッと赤くなった。


「まあ、そういうことだな。また、セシリア嬢は失言をした。」


「あ………『汚らしい者』……?」


「そうだ。我々と縁のないもの、と言われて多くの貴族は乞食などの者を想像しない。彼らを同じ人間だとは思ってないからだ。むしろ、王家に反発してくる厄介者、聖職者を思い浮かべるだろう。」


聖職者、朝から晩まで規律を守り、質素に生活し、神に祈りを捧げる者たち。中には金に目が眩んで王家を助ける者がいるが、大多数は豪華に暮らす王侯貴族が嫌いだ。質素に暮らす聖職者と豪華なものが好きな王侯貴族は相容れないものだ。


「あ……。」


アレクシスの言葉を聞いて、徐々に顔面蒼白になっていっている。

そして、冷静になった頭では、此度の晩餐会に自分が呼ばれたのは断罪のためだったと理解したのだろう。鬼のような形相で私を睨みつけた。


それを察したのかアレクシスが従者に彼女を取り押さえるよう指示する。



















「悪かった。疑うふりをしなければいけなかったんだ。」


陛下が自分に謝ってくるのを慌てて止める。王家の方に謝れるなんて恐れ多いことだ。


「ロザリー嬢、送っていくよ。では。」


「ありがとうございます。」


アレクシスが紳士風に私をエスコートして今晩寝る部屋に着いた。


「じゃ、また明日。寝坊しないでね。」


それだけ言い残すと、そのまま扉を閉めて、すこし早足で去ってしまった。


セシリア嬢は自宅軟禁に落ち着いたらしい、と風の噂で知った。

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