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第二十二話

ピチピチ、と雀が鳴く良い朝だった。


優秀なノエルはいつもぴったりの時間にカーテンを開け、私を起こしにかかる。朝日に照らされ、優雅に紅茶を飲んで私の一日は始まるはずだった。


しかし、お菓子を黙って食べていたのがバレた私は嫌がれせのように朝日だけでなく、ノエルが持ってきた明かりに照らされたのだ。……いい加減不敬だと思うのだが。


「おはようございます、お嬢様。良い朝ですね。」


そんな声かけをするノエルへ恨みがましい視線を送る。


「ところで、お嬢様?本日は前夜祭という事でお嬢様は特別に晩餐会にお呼ばれしてます。今のうちから活動はした方がいいかと。」


「……は?前夜祭?」


ノエルは嫌味なほど綺麗に微笑みながら、聞いた事もない予定を告げて来た。


「はい。お嬢様はめでたくも、明日に準成人を迎えます。そうなれば、アレクシス様とのご婚約は決まったも同然です。そのお祝いでしょう。私も有難いことに給仕に参ることになりました。」


え、つまり、晩餐会までに私の無実を証明して、犯人を突きだせ、と。


それが出来なければ、晩餐会で辛い目にあう、と。


「期限が……短くなってる……。」


「お手伝いはしましょう。」


明らかに駄目だと思っているのか、憐れみの目で見てくるノエルは、それでもやはり、口元だけでも完璧に微笑んでいるのだ。


死刑宣告の気分。

いや、仮にも公爵令嬢。しかも第二王子婚約者。死刑はないかもしれない。

せいぜい、国王主催の会を台無しにした事で問い詰められるだけだろう。

公爵令嬢が(力をつけて来たとはいえ)辺境伯の令嬢の殺害について問われることはない。……理不尽だな。


因みに、それだけ言ってノエルはさっさと部屋を出て行った。紅茶の準備だろうか。


「おはようございます。……よく眠れましたか?」


入れ替わりにアゼルが隣の部屋から入ってくる。こんな朝だというのに彼は服をしっかりと着込んでいた。


そういえば、昨日の夜、アゼルの部屋からずっと話し声が聞こえていたが、誰かと連絡を取り合っていたのか?

外国には元の世界でいう電話が普及しているからそれかもしれない。我が国も貴族には持っている人が多いが、平民以下になると聞いたことがない。


「はい。アゼル様は昨晩どなたかとお話になられました?声が聞こえたので。」


「……いえ。誰とも。寝ていましたから。」


無表情で淡々としていると、こちらも掘り下げにくい。忠告だけにしておこう。


「そうですか。しかし、今は先日の事故の事で騒ついています。あまり疑われるような行為は控えますよう。」


「……はあ。ありがとうございます……。」


そんな話をしているとノエルが紅茶を運んで来た。やはり、私の好みぴったりに紅茶を淹れるノエルは、ムカついても優秀な執事だ。

主人の好みを把握するのも勿論仕事のうちだからではあるが、最初から好きな味だけを出してくるのは考えてみれば、とても凄いことなのでは、と思うのだ。


その淹れ方をアゼルはマジマジと見ている。


「……如何しました?アゼル様。」


ノエルも不思議に思ったのか(いや、あれは鬱陶しがっている。)アゼルに聞いていた。


「いや……俺にも淹れ方を教えて欲しいと思いまして……。」


その言葉を聞き、少しばかりだが、自分の執事が褒められたようで得意げになる。王家からの借り物とはいえ、やはり自分のものが認められるのは嬉しかった。


そんな私の様子を見て、それからアゼルの顔を見直したノエルは、にこ、と効果音がつきそうなくらいに笑い、


「申し訳ありません。お教えできません。」


なんと、断ったのだ!


これには私も驚愕し、勢いよくノエルをみたのだが、その結論が変わる気配はなさそうだ。


「……そう、ですか。」


断られてしまったアゼルも、少し驚いたらしい。おそらく主人である私の誇らしい様子から、誇りを持ち教えると思ったのだろう。私も思った。


「それから、お嬢様はまだ朝の支度中でございます。殿方の出入れはご遠慮ください。」


そう言いながらアゼルを追い出して行く。


いや、ノエルも殿方でしょうが。私は今までノエルの性別を勘違いしていたのかな?貴方は実は淑女だったのかな?……淑女ノエル、想像しなければ良かった。


ノエルの態度がダイレクトに私の評価に繋がるって知ってるよね?なにこれ、遠回しの嫌がらせ?


そんな事を思いながらノエルを睨み付けると、とびきりの笑顔で返された。


やはり、性格が最悪じゃないか。

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