第十五話
「今後とも、どうぞ宜しくお願い致します。」
その台詞を最後に、会場に集まった名だたる貴族達の拍手が起こる。私達が退場すれば、後は其々が話し、食事をする、普通の立食パーティーのような物が始まった。
「ね、あんたは何食べたい?」
肉って美味しいよね……とか思いながらも、将来の花嫁が、しかも名家の令嬢であるので「肉!」などと叫ぶこともできない。口の端を引き上げ目を薄めて笑う。
「スイーツがとても美味しそうですね。」
とか、ハッキリ言えよ、と思いそうなくらいに遠回しに言ってみる。アレクシスは私の顔をじっと見た後、何故かスイーツの方には行かずに肉が置いてある方へ向かった。
そこで、料理を持ってきて私に持たせると、去り際に
「肉が良いならそう言いなよね。笑い方下手すぎ。」
と呟いた。イラっときてしまった。
やっぱりこんな所にある肉は美味いな、と半ば感動しながら頬張っていると、何処からか婦女子の甲高い悲鳴が聞こえてきた。
ザワザワとする会場に国王様の凜としたお声が響き渡った。
「申し訳ないが、この我が子の婚姻を発表する会をお開きにしようと思う。しかし、此処から出てはならない。知っての通り、悲しい事件が起こってしまった。」
……事件?私、まだ何もしてないんだけど。
国王様は最後に私に目配せをしてからステージ袖にはけて行った。
国王様などの主催者室の扉を開くと、私の父母、ティムと彼のご家族、王家が揃っていた。下級貴族が見たら卒倒しそうな面子である。
「ああ、ロザリー。よく来てくれた。最後は君だよ。」
と言いながら私に座るよう促すのは国王様だ。
多分事件についてだが、生憎と私はそれを知らない。
頭に疑問を浮かべながらアレクシスの隣に座る。
「悲しいことに、彼、ティモシー君の婚約者が亡くなってしまった。今日という良い日にだ。自殺とは考えにくいが……ティモシー君、何か心当たりは。」
そこで初めて知る事件に、一瞬思考が止まってしまった。……なんだって?
「……知りません。化粧直しに部屋にメイドと入り、その後、メイドだけ出て来ました。しかし、その時点で彼女は生きていました。女性の化粧直しは時間がかかる物ですから、その時話しかけて来た紳士と話し込み、隣の部屋に入りました。」
「紳士、ですか。」
国王様は苦々しい顔をして口を開いた。
「すまないが、ロザリー。今容疑者には君も挙がっているんだよ。」
国王様がそう言った後、全員の視線がこちらに向いた。すぐに抗議しようとすると、それよりも先に口を開いたのはティムだった。
「それはあり得ません!ローズ……彼女は少々気が強いですが、殺人に手を染めるようなことはしません。何より、今日の彼女にはアレクシス様がついておられます。」
いつも扱いが雑だとは思っていたけれど、まさかこんな風に思ってくれていたとは。
驚きのあまり、声が出なくなったじゃないか。
「否定してばかりだが、貴族の中でも噂になっていたロザリー嬢とティモシー君の仲を考えるとね、今日の婚約は衝撃だっただろう。その中でティモシー君の婚約者が殺害となると……ロザリー嬢が、疑われてしまうんだ。」
「は……。」
いや、今のがさっきより驚いてる。
ティモシーも少し面食らった顔してる。アレクシスは無表情だったので、何を考えてるのかはわからないけど。
まあ、流石にハッキリとした証拠もないので、その場はお開きになった。
自分の部屋に戻ることになり、アレクシスに連れて行かれ、廊下に出る。
「で?あんたは何で抗議しないわけ。」
「いや、驚きすぎて声も出ない。噂は一人歩きするもんね。」
と会話したきり、お互いに話さなかったが、私の部屋の扉に着いたとき、小さなこえでボソッと
「火のない所に煙は立たない、って昔から言うけどね。」
と呟いた。聞き返す間もなく、颯爽と去る背中を見ながら、私には疑問が増えるばかりだ。