第十四話
「ふーん、まぁ、俺の隣にいてもいいかな、うん。」
と小憎らしい言葉を吐いたのは我が婚約者、アレクシスだ。
その言葉は嫌味なのか、隠れてプライドの高いアレクシスなりの褒め言葉なのか……。
そのまま手を私に差し出して歩き出そうとした、どうやら答えを出す気はないアレクシスを見て、私はポジティブに考えなければやっていけないと考え直す。
何せ、もうすぐ悪役令嬢がこの貴族社会から姿を消す頃なのだ。例え悪役令嬢だろうと、何もイベントが無いのにノエルに唐突に刺されるか毒を飲まされるかして、はい死にましたー、では味気なさすぎるだろう。
つまり、私のこのイベントでの目標は穏便に!問題を起こし!殺されずに追放されること!である。
私としては此処で運良く事が運んでこの貴族社会から永久追放されたい。あわよくば、このままこの世界には戻らないで田舎でスローライフを送りたい。
ここは私の演技力が試されるのよ!ロザリー!
手に力が入りながらもアレクシスの手に私のそれを乗せた。
キラキラと中央の光を分散するように散りばめた宝石のシャンデリア、一流のシェフが作り上げた、今日限りのスイーツ達。
豪華、それでいて上品さを感じる会場設備はやはり王家直々の開催だからだろうか。すこし気後れをしてしまった。
「どうしたの。あんたの家も中々なんだから珍しくはないんじゃない?」
(いやいやいや、私の外見はそうであっても中身は平々凡々な日本の女子高生!こんなの慣れてるわけない!)
「あ、ああ、そうね、うん。ちょっと……婚約するんだなぁって思ってね。」
と取り繕うとしてもやはり動揺は隠しきれてないようで、ふーん、と憐憫の目で見られてしまった。
「婚約だけだからね。結婚式じゃあるまいし、もっと気楽にいれば。」
「そ、そうだねー。」
(婚約もしたことありません!)
本音と建て前を繰り返しながらステージの袖に隠れている。ティムとアリエスさんから発表するようだ。つまり、私達はトリに残されているってことで……。
(やばい。緊張で縦に揺れる。やっぱり元々チキンの私には大役だったんだよ!)
「ちょっと……大丈夫?あんた、すごい揺れてるけど。」
やはり、アレクシスさえ気になるほどの揺れだったらしい。流石に声をかけてくれるようだ。
「俺、所謂王子様だよね。」
(なに?いきなりそんな今更な確認を……。)
つい淑女にあるまじき睨みでアレクシスを見てしまった。
「やっぱり、そういう立場って重荷でさ。あんたも一度は思ったこと、あるでしょ?」
(女子高生としての私はそんな事、あまりないけど、もしかしたらロザリーならそんな事もあったかもしれない。)
ロザリーだって地位の高い御令嬢だ。周りの期待も並々ではなかったかもしれない、と思いつつ、なんだかシリアスな流れだったので、とりあえず睨むのはやめた。
「小さい頃は逃げ出してたよ、よく。その時の連れ戻しに来る人って必ず兄さんだったんだ。もう、そんなの召使いに任せればいいのにさ。」
(でも、アレクシスのお兄さんって、確かゲームの中では……。)
そこで話を切ったアレクシスは、さっきまで目を伏せていたのを、少し見開き、私をチラリと見た。
それからバツの悪そうな顔をして私の頭を髪型が崩れない程度に掴み下へ向かせた。
「……なに。そんな真剣な顔して。あんた、もしかして俺に同情してんの?やめてよね。」
「は!?……もう! 行くよ!」
まさか、アレクシスがあんな事を私に話すなんて。
アレクシスが歪んだ要因の1つを、この悪役令嬢のロザリーに話すなんて。
正直、今の私の顔はアレクシスに下を向かせられて良かったと言わざるを得ないだろう。