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完全なる魔導と不完全な平和論  作者: アルケニア
7/8

答え

あと、4章くらいはありますね。

すみません、長くなります。


追記しました。

次の話をする必要があるだろう。最初は、エンゲルスの話をしなければならないだろう、エンゲルスという物語を。

エンゲルスは、常にある考えを中心に生きていた。その考えは誰もが頭に描く、非常に普遍的でかつ致命的な人生の問題であった。


人生は退屈だ。


 エンゲルスは若くして天才的な才能を持った人間であった。そんな彼が社会思想という魔境に足を踏み入れるのは必然だったといえるのではないだろうか。この物語はエンゲルスの大学時代の物語であり、エンゲルスとカールの大学時代の物語である。


大学に入学して間もないエンゲルスという人間は、既に思想家になることを決めていた。入学してから一年間は、多くの時間を本に費やす、それでも交友関係がないわけではない。勘違いしてはならないが、エンゲルスは一年の多くを思想に費やす人間ではあるものの、社交性のない人間ではなかった。一定の期間で友とあっては、会話を楽しむ、自分の考えた理屈、思想、野望を語り合う時間も自分に必要な時間だとなんとなく思っていた。


カールに会うまでは。


エンゲルスがカールと出会ったのは、知人にカールを紹介されたためだった。カフェでエンゲルス、カール、その友人の3人で軽く談笑した後、用があるということでその友人は席をたった。その様子を見送るとカールはエンゲルスをじっと見ながら、言った。


「突然ですが、学生と社会人の人間関係の違いはなんだと思います?」


「いやに、突然な質問だな、カール。おれを試しているのか」

「試してはいませんよ。最近、その話を友人に教えられて誰かに話したくてウズウズしているだけです」

「そうかい、・・・・簡単に思いつくのは時間のなさか」

「そうですね、では時間のない社会人と時間のある学生では人間関係にどのような違いが生じると思います」

「うーん」

「時間がない時、それでもやらなければならないことがあるときに人はどう対処します?」

「優先順位をつける」

「そうです、優先順位をつける。学生の自分は時間も精神的な余裕もある。そういうときは、自分に合わない人間に対しても関わることができる。さらに言えば、有り余る時間を、暇を潰してくれる訳ですから多少、合わなくても受け入れることができる」

「なるほど、社会人になることで、そうした余裕はなくなる。可哀想に、学生の間、当たり前に築いてきたような人間関係の形成や維持はできなくなる」

「いやな言い方をすれば、社会人の人間関係は、学生の頃よりも遙かにシビアな世界なんだそうです」

「社会にでていない、俺にはまだ分からないな」

「えげつないと思いませんか。学生の間は、友達が多いことがある種のステータスであるとされる。でも、学生の間に、そういう形で作ってきた友人の多くは友人でさえなかったことを理解する」

「面白いな」

「分かります、やっぱりあなたは私の想像通りの人だ。私は、その話を聞いたとき笑ってしまいました。滑稽でしょう。正しいと、何も考えず盲信する愚者が現実に蹂躙される」

「はははは。我々が導かなくてはな」

「本当に分かっていてうれしいです。ここでただ笑うだけでは傲慢なだけな人間です。我々は導かなければならない。我々は傲慢な人間で構わない。そもそも、人を導く行為、そのものがある種の傲慢さからくる行為ですからね」

「大した傲慢さだな。お前は何を導くつもりだ」


「当然、世界ですよ」


「祖国でさえないのか」

「夢は大きい方がいいと思っているので」

「社会人になっても、お前と友達でありたいよ」



社会システムを考える上で、人を知ることは当然必要になる。それは、どのような社会というシステムを考える人間にとっても必要な考えだ。しかし、人は目の前の人間一人でさえ理解することはできない。相手が何を考えているかが仮に理解することができたとしても、それは相手の理解にはつながらない。膨大で莫大な、相手の人生を知って初めて相手を理解する作業が始まるのだ。では、そうした人間が織りなす社会というシステムを理解することは、当然、それ以上に難しくなる。


「社会システムは、人を理想的なものとして考えます。まあ、人が作ることのできるシステムの限界と考えれば当然ですね」

「だが、理想的な人間などいない、だからこそ、社会システムそのものは可能な限り人に理想を求めることになる」

「そうして、社会の多くの人間が勝手に人としてあるべき姿を押しつけられることになる」

「よくも分からず、押しつけられる理想の人間像、酷い話だ。そもそも、社会は答えだけを教え、その答えへの道筋は教えてくれない。せいぜい、勉強すればいい、友達が多ければいい、金があればいい」

「まったくですね。金があればいいわけではない。金は確かに人生を豊かにしてくれるでしょう。しかし、それは金の管理の仕方を分かっていればという話です」

「全くだ。・・そういえば、泡銭はすぐになくなる。それは汗水流した金でないからっていう話はどう思う」

「私は、本質を違えていると思っています。そもそも、苦労して働いた者でも散財するものは多くいます。重要なのは、金を管理することを学んでいるか、どうかです」


「強者には強者の責任があるというような話を聞きますが、強者に必要なのは自分の強大な力を管理する能力です」


「フィクションの世界では、大した努力をせずに強大な力を持つ者がいますが、そうした者は現実世界では破滅します。幸せを勝ち取るために必要なのは自分の力を管理する能力です」


 エンゲルスは出会ってしまった。天才と呼んでいい人間に、独創的な考え、柔軟な思考、自分の考えの偏りを簡単に直すことのできる圧倒的な正しさへの渇望、その全てを持っている人間に出会ってしまった。


 エンゲルスは常に答えを求めていた。疑問に次ぐ、疑問、あふれてくる些細な、時に甚大な疑問の数々、それらを時に本に、時に人にその答えを求める。答えは常に与えられることはない。本を読んでも納得できない。人から話を聞いても、その疑問に答えを与えられることは少なかった。


 カールは違った。当たり前だが、カールは全知ではない。知らないことはあるし、知らないことは知らないといった。カールが、エンゲルスが出会った答えを聞いた人間と違ったのは、単純にカールがエンゲルスの答え探しを納得いくまで手伝ったことだった。


 知ることは、答えを知ることは簡単です。人に聞けばいい、答えの書かれた本を読めばいい。しかし、それが許されるのは最先端までの道のりだけです。最先端から先にある道の全てでは、そうした方法が通じなくなります。そこから先で役に立つのは、自分が如何に正しく概念を、考え方を理解しているかです。それしかありません。_せんせい


二人は戦場でゆっくりと前進を始めた。互いに相手の顔を視界から外すことなく、前進を始めた。

 

トマスは大きく目の前の空間を振り払った。火を、炎を、紅蓮を持って立ちはだかる一切の障害を消し去る。おおいなる生物の偉大なる頂点を己が力とするために。

「竜の降臨(コンティヌアール・アドビエンタ)

 トマスの前進に合わせるように姿を現したドラゴンは空を滑空してトマスをその背中に乗せる。

 トマスは大きく、世界を飲み込まんとするように大きく両手を広げる。

「多大なる複製の狂演(ゴースアティヒ・レプロデトゥン・フェスト)

 飛行する竜を覆うような形で魔方陣が現れた。現れた魔方陣に竜は飲み込まれるがすぐに、竜は魔方陣から姿を現す。その後、多大な数の魔方陣が空を覆い、その魔方陣の一つ一つから、竜がその姿を現す。現れた竜は群れになり、トマスを乗せた竜を中心にエンゲルスに向かっていく。

『翻弄のマント(ディ・グラーデ・ディス・マンティス)』

「竜はいつ見ても、いやな者だな。『神体強靱(シャー・ディ・ジュー)』」

エンゲルスの目の前に魔方陣が現れる。その魔方陣からマントを取り出し、それをエンゲルスが纏うとエンゲルスの姿は見えなくなった。

「正々堂々とはいかないか」

トマスは、竜に指示を出し、いくつかのグループに分けるとそれぞれがめまぐるしい速度で飛行しながら炎を吐き始める。その炎の高温は、強烈な熱と白い光を発生させた。高速での竜の飛行と白い炎が相まって、稲妻が移動しているかのように見える。


「この世の光景には見えないな、だがおかげで強くなれそうだな。」

そういうと、どこからか、拳が鳴る音がする。

鎧化(トレス・トン)

その声とともに竜の吐いていた炎に纏わり付くように魔方陣が発生し、魔方陣に炎は飲み込まれていく。炎は白い鎧の姿になり、その鎧をまとったエンゲルスが姿を現す。それとともにマントが燃えかすとなって宙にまった。燃え尽きたマントの燃えかすが地面につく前にエンゲルスは走り出す。

『変質の刀剣(ぺベティエイト・シェアード)

エンゲルスは魔方陣から一本の刀剣をとりだした。刀剣も鎧と同じように白くなっていった。その剣はうねる波のように形を変えて次々と竜を飲み込んでいく、竜たちは跡形もなくその姿を失っていく。

 その様子を見て、トマスは竜に止まるように指示を出す。

「そうだな、そういうもんだな、世界は。いつだって、本当の答えを教えてくれるのは現実だな」

「答えは、これから俺たちが作っていくものさ、トマス」


「いうなあ、お前たちのようなもの達は、それなりに見てきた。世界を変えたい、正しいな。世界は変えるものだ。だがな、世界はお前達の友達ごっこに付き合うつもりはないんだ」


「友達ごっこ?」

「友達ごっこを続けるために、世界を巻き込むなと言ってるんだ」

「何がいいたい」

「カールが、お前の人生に必要な人間であることはわかるが、その関係を保つために、お前は世界を壊すのかと言っている」

「勘違いも甚だしいな・・・。私は、カールの意見に賛同しているだけだ。お前の言う友達ごっこではないな」

 そう言いながらエンゲルスは走っていた。竜の大群の中、それを剣でかき分け、

トマスに向かっていく。それをトマスは、竜の速度を利用しながら、一定の距離を置きながら確認する。その移動に合わせてエンゲルスの剣が形を変え、まるで触手のようにトマスの動きを追いかける。しかし、その動きは、竜の圧倒的な速度をとらえきれない。

「自分の声を聴いてくれるものに賛同したいのは分かる。確かに、それは仲間かもしれない。確かに、それは味方かもしれない。だが、運命の相手ではない」

「議論は無駄だな」

エンゲルスの剣は、まるで網のような形状で広がっていく。それは、まるで吹き荒れる風のように広がっていく、それはトマスだけでなく他の竜も追いかけ始める。しかし、それも竜の速さには通用しない。一定の距離をおいて、竜は剣の様子を眺めている。

「お前の声を聴く者も、お前と話をする者も。限られた人間だけではない。世界は、そんなに酷いものではない」



  誰かに愛されたいと望むことは、間違いではないですね。ただ、大抵の場合、この人を愛せるのは自分だけだとか。自分を愛せるのは、この人だけという志向は多くのものを破綻させますね。世の中は、そんな狭いものではないですよ_せんせい


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