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完全なる魔導と不完全な平和論  作者: アルケニア
5/8

えらく間が空きましたが、まだまだ続きますので、宜しければ見ていってください。

それでは、今度はイエニィーの番だろう。彼女とカールがどう出会い、今に至るのかを語る必要があるだろう。愛は世界を救うのだから。

物語は、イエニィーが大学に入学したころから始まる。イエニィーは優秀な生徒であり、独特な目線で物事を見る人物であった。彼女が大学に入って、強烈に感じた違和感は、トモダチであった。トモダチは彼女の知るそれではなかった。トモダチは、互いの人間関係を確認する作業であった。大して仲が良いというわけでもない人たちと、とりあえず、テンションを上げて、バカ騒ぎをする。話し合い、語り合う、それが彼女の友達であり、彼女はトモダチを理解できなかった。彼女の同級生の多くは、トモダチを作っていたため、彼女はマイノリティの中に入ることになる。そこでも、彼女は友達を作ることができずに、仕方なくトモダチを作ることになった。


その日も彼女は、少数のトモダチと大学を歩いていた。そこに男は現れた。カールである。彼女のカールに対する第一印象は、変わった男だった。カールは、基本的に一人で、ベンチに座りながら本を読みながら、ぶつぶつと話している男だった。

「見た目はいいんだけどね」

「確かにね」

そんなことをいいながら、イエニィーはトモダチとカールを見ていた。


ある日、イエニィーは一人で大学を歩いていた。すると、カールが見たことのない男と話している姿を見た。


「君の考え方は、素晴らしい。君ならば、世界を変えられる」

「ありがとうございます。確かに、世界は、もう少し幸福であるべきだと思います」


イエニィーは、二人の、そんな会話を聞いていた。その場面では、彼女は、そこを通り過ぎるだけであった。


人生は退屈である。劇的である、何かなど起こりようがない。イエニィーは、気づいていないだろう。冒険のない世界は信じられないほど退屈なのだということを、彼女は答えを知っていたのかもしれない。しかし、残念ながら彼女は答えを知っていただけだった。彼女は理論を知らず、知るために多くの人間がトモダチを作っていることを知らなかった。本を読んでいるだけでは、幸せになりようがないことを知ろうとすることさえ、彼女はしない。


はずだった。


イエニィーは、それから何度かカールと見たことのない男の会話を聞くことになる。その理屈が、彼女が感覚的に知っていた『答え』のことを言っていることに、彼女が、気が付くのに時間はかからなかった。


 彼女にとって、人生は退屈だった。『答え』から遠い現実を前に、彼女は何もできない。いや、しないのだ。現実に対して抗うという行為を、彼女は知らない。それが不幸であることを、彼女は知っているが、『答え』だけを知っている性で彼女は動けずにいた。


 その日、なんとなしに彼女とトモダチは、カールの近くのベンチで昼ご飯を食べていた。カールもいつも通り、男と話をしていた。その話をイエニィーは、なんとなく聞いていた。

「・・・。不幸であることを認識して、なお、そのままであるというのは考えられないな」

「ほう、カール、お前なら不幸にどう抗う」

「世界を変える、不幸のない世界に」


 そこから先、イエニィーは、その日に何が起きたのか覚えていない。ただ、それは衝撃であり、少なくとも彼女の退屈は吹き飛ぶことになる。


次の日、イエニィーは、カールに話を聞こうとしていた。カールは、いつも通り、一人でベンチで本を読んでいた。

「カール、あなた、世界を変えるんですって」

「うん、変えるよ」

「・・・からかいに来たと思った?」

「思っていないよ、なんで」

「いや、世界を変えるなんて」

「馬鹿げてる」

「そうね。最高にいかれてるわ」

「でも、僕はそれをできると思うし、世界は変わると思っている」

「なんで、そこまで自分を信じられるの」

「簡単なことさ。僕は正しい『答え』を知っているからだよ」



 それから、しばらくしてイエニィーは、カールと付き合い、結婚した。


これは、ハッピーエンドの物語ではない。彼女は『答え』によって、自由を奪われたからこそ、カールしか選べなかったからだ。それは、典型的なラブストーリーならば、バッドエンドなのかもしれない。しかし、彼女に、『この物語はバッドエンドですか』と聞けば、彼女はゆっくりとこういうのだ。


「私たちは正しい」



話をイエニィーとラマヌジャンの戦いに戻すことにする。二人は、二人の世界に入ることになる。戦いは、ただの主張である。戦いは、SEXである。戦いは、泥臭い。しかし、恐らくは歴史がどれほど変わろうと、変化なくあり続ける至高の快楽である。


 ラマヌジャンはゆっくりと世界を抱き上げる。ただただ、悠然と世界に栄華を与えんとする偉大なる象と語り合うために。

「栄華の神の降臨マヒ・マカ・パラミーシュエル

 ラマヌジャンに抱き上げられるように、ラマヌジャンの5倍はあるだろう象の顔を持つ大男が現れた。


 イエニィーは、ゆっくりとまるでクローゼットからお気に入りの服を選ぶかのように唱える。

「強化の制服コン・フォセ・レビリーツェモン

 イエニィーは、シックな服に身を包むと走り出した。それに答えるように象顔の栄華の神は走り出した。栄華の神の手には独特の形をした槍に握られている。栄華の神は、2本の槍を、それが独立した生物かのように振り回した。そして、それぞれの槍は、まるで雷が落ちたような爆音と破壊をもたらした。イエニィーは、その槍による神災をかわしながら、まるでファッションショーのようにラマヌジャンへと歩いていく。


 決して、姿勢を変えず、意思を変えず、胸をはりイエニィーは、ラマヌジャンに近づくと、イエニィーは、まるで靴棚を開け、ブーツを取り出すように唱えた。

「速進のフォーマ・デビ・ツェ

 イエニィーは、足をその光るブーツに包まれた、ブーツは彼女の足の付け根まで巻き付くように包み込んだ。その光景をラマヌジャンが視認した瞬間には、ラマヌジャンの体は宙を飛んでいた。すぐに、それに反応した栄華の神がラマヌジャンを抱きかかえる。しかし、イエニィーは、栄華の神ごとラマヌジャンを蹴り飛ばした。まるで弾丸のように栄華の神とラマヌジャンは弾き飛ばされた。

「つまらない。それが、あんたの力か、ラマヌジャン。あんたじゃ、世界を守れはしないようね」

 ラマヌジャンはゆっくりと体についた砂を払いながら起き上がる。

「世界は、いつから守らなきゃならないものになったのだ、イエニィー」

「まだ、余裕はありそうね。世界は、汚れてしまっている。何年もの間、世界に巣食う者たちによって、世界はやり直す時期にきている」

「世界は、正しく。それは正しい考えだ。だが、そんな妄言を語っていいのは子供の間だけでいい」

「ふふ、まるで、私たちは子供で、あなたは大人だといいたいようね」

「その通りだ。君たちは正しいだけだ。そこには、多くの人を救おうという意思が感じられない」

「どういうことよ」

 そういいながら、イエニィーは、ラマヌジャンに向かい、弾丸のような速さで近づいていく。

「頼む、栄華の神よ」

イエニィーの急接近に反応したように、栄華の神が、その動きを捉える。振り下ろされる槍がイエニィーを直撃した。栄華の神の一撃は地面ごとイエニィーの体にまるで隕石の衝突のような衝撃を与える。そして、その一撃によりできた隙に、栄華の神は更なる追撃を加える。追撃が、追撃を呼び、巨大なクレーターとまき上げられる砂ぼこりのみが辺りを包み込む。

「正しいというのは、強者の理屈でしかない。弱者にとって、押し付けられる正しさは、単なる人災だ」



 クレーターの中から、イエニィーがゆっくりと姿を現す。体はボロボロだが確かに強い闘志が残っている。

「弱者のことは、考えている。彼らへのケアも」

 イエニィーは、まるでズボンを履くような動作を行った。

「規律の制服デスモント・デ・ピツェン

 イエニィーの下半身に来ていた服が消え去り、代わりに白く輝くタイトなズボンが身に付けられていた。そして、ゆっくりとイエニィーは、栄華の神に向かい走っていく、すぐに常人の目がついていかない領域に達するとイエニィーの右足が栄華の神を捉える。しかし、栄華の神は槍で、その攻撃を受け流す。イエニィーの攻撃の衝撃波が強烈に砂を巻き上げ、土石流のような勢いでラマヌジャンの視界を砂のみに変える。

 すぐさま、栄華の神の反撃がイエニィーを襲うが、それをかろうじてイエニィーは、足で受ける。地鳴りのような轟音があたりを襲い、地面には巨大なクレーターが出来るが、イエニィーはそれに耐える。

「ふう、流石に神はきついわね。でも、そろそろきつくなるでしょう」

 そういうと、イエニィーは栄華の神を無視して、ラマヌジャンに襲い掛かる。栄華の神も後を追うが、間に合わない。ラマヌジャンは蹴り飛ばされ、地平を舞った。前であれば、栄華の神のフォローが間に合っていたが、明らかに栄華の神が対応できていない。その後も、ラマヌジャンにイエニィーは、執拗に攻撃したが、栄華の神が追い付かない。明らかに、栄華の神の速度が遅くなっている。ようやく、栄華の神がラマヌジャンの守りに入った。

「速度を下げる魔法か。きついな。あの方の力を借りるか」

 イエニィーの攻撃によってボロボロになりながらも、ラマヌジャンは唱える。保つこと、守ること、人々が求め、愛し、望むであろう。神の眼を呼ぶために。

「維持の神の起床ラクラカ・パンデ・フォン

 その呪文が唱えられたと同時に空を覆うような巨大な魔方陣が現れ、そこから巨大な眼が現れた。しかし、その眼は開いてはおらず、閉じたままであった。


「なんだ、これは」

イエニィーは、栄華の神への警戒を行いながらも、多くの集中を突然現れた眼に持っていく。しかし、眼はなんら、変化しない。眼は閉じたままである。

 しばらく、様子をみていたイエニィーは、しびれを切らした。

「何がしたいか、分からないわね。まあ、いいわ。終わらせればいいだけ」

 イエニィーは、まるで、指輪をつけるように、指に手をやり、そして唱える。始まりとともに、戦いとともに、気高き意思とともに、常にあらんとする大女帝になるために。

「原初の妻の転生リプーゾ・オリジナ

 イエニィーの体を覆い隠すように、魔方陣が通り過ぎて行った。先ほどまで服であったものは大量の蛇となり、イエニィーの体に巻き付いていた。イエニィーは恍惚な表情で、栄華の神を見た。その瞬間、大量の蛇たちが栄華の神に襲い掛かる。栄華の神は、それを避けようとするが尋常ならざる蛇の移動速度からは逃げられず、追い付かれる。蛇たちは、栄華の神の体に巻き付く。栄華の神は何度も槍を使って蛇を攻撃する。地面にクレーターを作る一撃を何度も蛇は受けるが、びくともしない。次第に、蛇たちの巻き付く力は強くなり、栄華の神は体中から、血を流し、ただの肉塊となった。

「ラマヌジャン、あなたは私たちを『子ども』と表現したけれど、あなたは本当に大人なのかしら」

「どういうことだ」

「そのままの意味よ。まるで、ままごとのような生活を送っているそうじゃない」

「嫉妬しているのか」

「まさか、愛というのはね。互いが互いを心の底から敬愛し、求めることで始まるの。あなた達のようなままごとは大人の愛ではないわ」

「そうかもしれないな」

「あら、素直ね」

「大人であろうとなかろうと、大切なのは互いが、その愛を保とうとすることだろう」

「何、そんなのあたり前じゃない」

「そうだな、あたり前だ。愛は水のようなものだ。与えすぎれば枯れるし、与えなさ過ぎても枯れる」

「そうね」

「でも、人によって必要な愛の量は違うし、中には際限のないものすらいる。その上、その必要量すら傍からは分からない」

「何が言いたい」

「シンプルだ。自分に必要な愛を知りさえすれば、満たされぬ愛から解放されるのだ、イエニィー」

「・・・・」


「満たされないからといって他者や世界を救うよりも、己の愛を眺めるべきだ、イエニィー」


「何様だ、ラマヌジャン」

 その声の瞬間、ラマヌジャンに大量の蛇たちが巻き付く。何かがきしむような音が静かに辺りに流れていく。


その瞬間だった。突然、先ほどまで何も変化のなかったラマヌジャンがだした巨大な目が開けれ、そこから何かが落ちて、ラマヌジャンにあたった。それと共に、ラマヌジャンに巻き付いていた蛇たちは消え失せていた。そして、ラマヌジャンの肌は青く、手は四本になっていた。

「この姿でいることはリスクが高いので早めに終わらせる」

 その言葉と共にラマヌジャンは一歩歩いた。すると、まるで世界が悲鳴を上げたかのような、世界がきしむような音が辺りに響き渡る。それと共にラマヌジャンはいつの間にかイエニィーの後ろにいた。そして、ラマヌジャンが歩く前に、彼とイエニィーの間にあった空間はイエニィーごと消滅していた。



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