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完全なる魔導と不完全な平和論  作者: アルケニア
3/8

闘争

間が空いてしまいましたが、まだ書こうと思うのでよろしくお願いします。

銃や爆弾によって、平和のあり方は人に要求することになりました、新たなる平和の形を。人は学ばなければならないのでしょう、誰もが力を持つことの難しさを。そして、その答えを見つけることが我々の役目であると私は考えています_せんせい



「戦争は起こるべき現象ではないと、私は考えています。それでも、今の世界の現状を知っているのなら、変えなければなりません。その矛盾を『正しい』こととするためには、我々はルールを作らなければなりません。そして、我々はそれを厳守しなければならない。・・・」

トマスがカール一行を強襲し、エンゲルスがトマスを食い止める二日前。

魔導士3人がとある国の会議室で椅子に座りながら、モニターに映し出されたカールの動画を見ていた。距離をおいて、何人もの関係者がモニターを見ている魔導士たちを見ている。そのうち、関係者の一人が立ち上がり、カールの動画を止めるように指示を出し、話し始めた。

「カールたちは自分たちの侵略行為を正当化するためにルールを設けたようです。①戦争行為に参加するもののみを攻撃対象とする。②国の統治のみを目的に戦争行為を行い、攻撃対象以外の人間、文化への尊厳を厳守する。③戦争中に攻撃する意思を失ったものに対して攻撃行為を行わない。などなどの厳しいルールを彼らは自らに課すことで、・・」

「侵略後の納得感を作ろうとしているということでしょう」

 関が口を開いた。

「・・流石ですね。その通りです。彼らは統治後のことに関して考えているのだと思います」

「戦争は国家間のコミュニケーションだ。だからこそ、国家間で上下の関係が生じる『統治』という形での戦争の終結には『納得』が必要になる」

 トマスが関に続く形で語り始め、バトンタッチをするようにラマヌジャンに目配せする。やれやれとラマヌジャンはそれに反応しながら話し始める。

「人と人との関係性に関しても、そうだが、上下の関係が生じる場合は上の立場の人間が下の人間に自分の能力を示さなければ、『下』であることを人は認めようとはしないだろう。まして、国家間ではなおさらだ。どう転んでも勝てない相手に統治されるといった納得感が必要となる。今回では、その納得を『ルールを守る高潔な集団』という形で成立させようとしている」

「・・・・。はい。まさしくその通りです」

「理解してもらえたか。我々は作戦をただ聞くだけのために、ここに来ているつもりはない。我々は勝つためにこそ、ここに来ている」

「はい」

「だからこそ、議論をすべきだと思うのです。私たちが納得する、私たちの作戦を完成するためにです」

「・・・分かりました。軍として、いえ、わが同盟軍としての作戦はこのようになっています」

 そういうと軍服の男が目配せをして、それに答えるように部下らしき者たちが魔導士たちに試料を配布した。

「奴らは地下で活動してるのか」

「はい、奴らは地下で活動しているようです。これは極秘の話ですが、実際に、彼らの集団にいたものからも情報が出てきています」

「・・スパイですか。怖い怖い」

 そういって、関が扇子を開き、自分を扇ぐ。

「・・。しかし、地下にいる奴らに対処するのは困難であるように思えるが・・」

「はい、その通りです。奴らは地下に位置していて、こちらから、的確に奴らを攻撃することは困難です。そして、不用意に近づけば、奴らからの奇襲を受ける可能性も十分にあると考えられます」

「普通に攻撃することが困難なら、炙り出すか」

「はい、恐らくは、それが最善ではないかと。補給を狙うなども考えられますが、補給路がいくつあるかも正しく認識していない状況です」

「長期戦に持っていけないのがきついな」

「仕方ないですよ。奴らは、現在、集団の成長の初期段階にあり、人手を非常に必要としている。・・だからこそ、表立った行為も多いですが、ある程度安定したら、水面下で活動するようになるでしょう。無線などを用いた連絡手段で、やりとりするならまだしも魔法の存在する現代において、奴らの動きを正しく把握するのは不可能に近い。その上、最悪なことに奴らのボスが誰なのか、こちらは把握していませんから」

「それについてだが、スパイがいるなら、誰がボスなのか把握できていそうだがな」

「把握はできています。ボスは動画に顔を出している男だと思われます」

「!!なんだ。分かっているのか」

「ボスの名はカールと呼ばれているそうです。しかし、他の2人の魔導士については体格の大きい男と金髪の女である可能性が高いことしか把握できていません」

「まあ、時間を掛ければ分かるかもしれないが、一度でも、彼らが散り散りになられたら対処が難しくなることに変わりはない・・ということだろ」

「はい、だからこそ、今が最大の好機です」

「はい、はい、・・では議論に戻りましょうか」



 そして、話はトマスがカールたちを襲撃しエンゲルス含めカール一行を取り逃がして後に戻る。

 トマスがドラゴンに乗って空で弧を描きながら、飛んでいると、トマスの視野の範囲に何台もの軍事車両が現れた。

「追いついたか」

 トマスの耳に付けられたイヤホンから、関の声が聞こえてくる。

「全く、早すぎですよ。誰か、倒せましたか?」

「無理だった。うまく逃げられた。魔導士レベルってのは噓ではないようだ」

「そうですか」

 トマスはにやにやと笑い続ける顔を抑えるのに必死になっていた。楽しい、楽しい。そこには、戦いには、確かに強く重要な意味がある。しかし、しかし、トマスには、魔導士には、そのようなバックボーンなど関係ない。無視できるほどの力とそれを行使し続けられるだけの精神性を持っているからだ。


 闘争は主張である。


 シンプルで、分かりやすい、そんなコミュニケーションである闘争は強者にのみ許された至高の行為である。それは、時に体と体、頭脳と頭脳で行われる。そして、魔導士は、取り分けトマスという男はそれを愛しているのだ。だからこそ、分かる。この闘争は、体も頭脳も満たしえるものである。


 

 しばらくして、トマスのもとに関やラマヌジャンが合流した。トマスは関やラマヌジャンと共に軍事車両に乗り込み、現状の報告を行った。

「恐らくは、ダメージを一時的に蓄積する魔法だと俺は考えている」

「強いな、それは」

「・・・・」

「ではどうするかを考える必要があるな」

「そうですね。今度は、奴らを炙り出す際に、私たちも同行しましょう」

「そうだな。あのまま、炙り出して、三人で叩いたほうが楽にやれそうだ」

「嫌そうな顔でいいますね」

「まあな。面白くなりそうだった状況で、それをやったら、早く終わってしまうからな」

「気持ちは分かるが」

「分かってるさ。これは戦争だ。闘争じゃない」

「・・・じゃあ、闘争にしましょう」

「??どういうことだ」

 関がラマヌジャンの耳に囁いた。

「はっ、奴らがそれを受け入れるか」

「もちろん、それは分かりません。しかし、このまま奴らを見つけることは難しいでしょう」

「なんだ、どうするんだ」


「決まっていますよ、真っ向勝負」


 革命、テロ、そういったものは多くの支持者が現れるまでは隠れて行われるものである。おそらくは、それは、一般論である。しかし、一方で革命は、テロは大衆への主張である。この強烈で、大きな矛盾は、現代という人の主張を聞き入れやすい環境においては大きく緩和されてきている。ただ、それは理想論でしかない。


誰もが思い、考える。自分が中心の社会を。


しかし、現実はそうではない。一般大衆の人生は、あくまでも片隅の、路地裏のストーリーに過ぎない。満たされない。刺激が足りない。そんな感情が世界を変える大きな源流である。もちろん、そこには崇高な意思があるだろう。社会に配置された理不尽への憤りがあるのかもしれない。しかし、源流は主人公になろう、舞台へ上がろうとする自己中心的なエゴイズムである。


そして、それは闘争の源流でもある。


革命家は真っ向勝負などしない。テロリストは真っ向勝負などしない。しかし、彼らが能力あるものたちであるならば、彼らが只の強者、マジョリティであったならば、彼らは求めるだろう、脳と体からなる真っ向勝負を。

関が『真っ向勝負』を策とした根拠はそこにある。


トマスは、関は、ラマヌジャンは、笑った。


こんな愚かなことがあるのか。革命家が、テロリストが、『真っ向勝負』を行う。しかし、彼らは『真っ向勝負』という奇策に対して、笑ったわけではない。


カール達が『真っ向勝負』を受け入れると考える己の理想を笑ったのだ。



数日後、カール一行が地下にいると予想される荒野を歩く、トマス、関、ラマヌジャンの姿があった。あらかじめ、ここに現れることをカール達が自分たちの主張をしていた動画サイトで告知した上でだ。


トマスは、関は、ラマヌジャンは、笑った。


己の愚かな理想が、理想でなくなるその愉快さに笑いが止まらなくなったのだ。


そう、闘争が始まったのである。


「久しいな、トマス。真っ向勝負受けて立つ。我々は『強者』だからな」

 戦場にエンゲルスが姿を現す。体に突き刺さるような、体に心に強烈な主張がエンゲルスを中心に突き刺さる、そうした表現の上に確かに存在する闘争の声、それがエンゲルスである。

トマスがにやにやとエンゲルスを見つめる。闘争という至高のコミュニケーション、強者に生まれた自分とその自分に答えるエンゲルスの存在に感謝した、トマス・ヤングは現実の天使と立ち会うことにしたのである。


「あなたが、関さんですね。噂は伺っています。あなたほどの賢者であれば、私と共に歩いてくれると思うのですが」

差し込める日差しのように確かに存在し、確かに主張する。しかし、それは痛くなく、不快でなく、心地よい。人が忘れた、何かか。人が捨ててしまった、何かか。それとも、人ならだれでも持つ、何かか。そうした懐かしい日の中心にカールは存在した。

関は、カールをまじまじと観察する。そして、納得する。カールは多くを曝け出した人間である。一年過ごした友よりも、関はカールを知っているだろう。雄弁で、情熱的、そんな安直な表現がカールを正しく表現する。他の多くの人間が持つであろう雄弁で、情熱的でない、ある種の不純物を無くした。そう、関は神と戦うことにしたのである。


「あなたがラマヌジャンね、正しい知性は一つであるべきだと思わない?」

 女は、イエニィーは張り裂けるような、強い痛みを感じる。体が、心が内部から張り裂けようとする。正しく、イカレタ強さの一つの形が確かにそこには存在する、イエニィーとして。

 ラマヌジャンは、確かにその女を捉えた。訴えかける女の正しさへの情熱、ラマヌジャンは、それを正しいとは思わなかった。悩むこともなく、ただただ、走り続けようとする。これから先、望まれる平穏としての日常を捨て去り、なおもカールという奇人と歩むことを覚悟した。そのイエニィーの瞳は、まるで妻を見ているようだとラマヌジャンは感じていた。そして、その天使に敬意を払うことをラマヌジャンは決めたのだ。



戦争は闘争となった。



ちっぽけなはずの闘争だが、これは聖戦である。宗教的な意味ではなく、より本質的に、より具体的に、これは聖戦であるといえるだろう。


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