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完全なる魔導と不完全な平和論  作者: アルケニア
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空爆

だいぶ、間が空きましたが出来ました。これからもマイペースでやっていきます。

 ある国の地下に多くの魔術師が集まっていた。床は乾いた地面、天井に何か所か取り付けられた電球のみが部屋に光を与えている。そんな寂れた空間に不釣り合いな強い意志をもった多くの魔術師たちの中心に男はいた。

「今回は集まっていただいてありがとうございます。あなた方は各国のエリートであると認識しています。エリートと言われるあなた方ならば、一度は世界を変えてみたいと思ったはずです。それも理想的なものに、多くの人間を救い、幸せを共有できる世界を、我々で実現していこうではありませんか」

 男、カールの呼び声でその場にいた魔術師たちは歓喜し、大地が震えるような声を上げた。


 魔術師たちが片手に飲み物を持ち、この新しい世界の実現を語り合う中でカールは2人の魔導士たちを中心に談笑していた。一人は大柄な軍服を着た大男、もう一人はスタイルの良い金髪、長髪の女である。

「娯楽の重要性の根本にあるのは人の生来的な不平等にあります。人は生まれながらに、地位やお金、容姿などの要素を中心に不平等な環境で生まれてきます。娯楽はそれらを仮想的とはいえ、改善してくれます。お金を払いさえすれば、人に自慢ができます。お金を払いさえすれば、素敵な異性と関係を持つことができます。こういった『救い』は社会には必要なものです」

 カールの持論を中心に周りの魔術師たちが手を挙げ、カールが発言者を選び、議論が進んでいく。時にカールの意見は修正され、その結果を魔導士の女がまとめ上げて記録していく。


 その様子は国の頂点に位置する大学の講義である。しかし、それは実現されようとしている。そう、これは講義ではない。実行のための計画なのである。


 議論が終盤に差し掛かった時、遠くで空襲でもあったのか。爆音が響いてきた。周りがざわめく中、カールは大男に目配せをした。

「皆さん、心配しないでください。ここには3人もの魔導士がいます。まともに戦闘機などと戦闘になっても、万に一つも敗北はあり得ません。彼らは威嚇することで我々を炙り出したいのです」

 その言葉を聞くと、全員が納得したように静かになった。そして、誰かが『軍事的なシステムの今後』について質問して、再び議論が開始された。

 その様子を見て、大男は地上に出た。外は暗闇であり、完全な沈黙をしている。男は空を見上げると言った。

「違うな。どうやら、戦闘機じゃないな」

 大男は地下で議論を続けているものたちに言った。

「逃げろ。あれは魔導士だ。おそらくは魔道生物だ」

 その声を聞くと、一斉に彼らは予め用意されていた地下通路を移動し始めた。

「どうする、手伝います」

魔導士の女がそういうと。

「お前はカールを頼む、心配しなくても深追いはしない」

「任せたわよ」

 彼らが移動を終えた段階で、彼らのいた建物は鉄でも溶かそうという温度の炎とそれを運んできた強風によって、完全に焼失した。その建物からゆっくりと大男エンゲルスは姿を現し、空を覆う赤い一団を睨み付けた。

「お前がトマス・ヤングか」

 空を覆うほどに感じる大量のドラゴンの一団、誰もが畏怖の対象として思い描く災悪の象徴、そのドラゴンを統べ、戦場を蹂躙することこそがトマス・ヤングであることの証である。



大気は、大地はしっかりと深呼吸をしているようだった。これから起こるであろう強大な闘争の準備をするために。


トマスとエンゲルスはしっかりと互いを視界にとらえた。互いが強いこと、互いが強い意志をもって、ここにいることを確認した。

「魔導士トマスよ。あんたが俺たちと敵対していることは理解しているつもりだが、あんたほどの知性を持っている者が、なぜ、こんな狂った世界の側にいることが理解できないな」

「そうか。あんたは俺のことを何も知らないだろう」

「そうだな。確かに知らない。しかしだ。賢者が理解している知識は世界共通のものだろう」

「はは、傲慢だな。お前らは自分が間違っているとは思わないのか」

「思わないさ。仮にそうだとしたら、人がこれほど集まることはないだろう。そして、そうした正しさこそが世界には必要だろう」

「正しければいいのか」

「は、トマス、お前は認識していないのか。正しくないという罪を。トマス、あんたに問いかけよう。『世界で最も人を殺す職業はなんだ』」

「・・・簡単な問いだな。答えは政治家だろう」

「そうだ、その通りだ、トマス。勘違いしている奴もいるが、人を殺すのは、多くは戦争ではない。システムだ。社会のシステムが多くの人を殺す。だからこそ、多くの人を救うためには正しさが必要だ、違うか、トマス」

「言っていることは理解できる。世界はそれで救われるかもしれないな。しかしだ。世界は正しさだけでは廻らないんだ」

「そうかい。どうやら、俺たちは相いれないようだな」

「そういうことだ」


  二人はゆっくりと構えた。互いの正しさを示すために、自分を信じるために。


 先に動いたのはトマスだった。ドラゴンの空襲の始まりである。十分な距離を取っていても、皮膚が悲鳴を上げるような高温、辺りの建造物は燃え、そして溶けた。

「ドラゴンか。ただただ強いな。仕方ないな、『変質の刀剣ソーズ・オ・アルティネイション』」

 エンゲルスは魔法陣から一本の刀剣を取り出した。そして、刀剣を鞘から抜くと鞘を投げ捨てて刀身をトマスに向けた。

「さあ、始めるか、ドラゴン狩りを、『神体強靭シャー・ディ・ジュー』」

 エンゲルスは視界を分散させる。神体強靭によって強化された身体能力がそれを助ける。しかし、それだけの身体強化をもってしてもドラゴンの飛行の速度には視界がついていかない。そんな理解を超えた速さでドラゴンは爪でエンゲルスに襲い掛かる。エンゲルスは変質の刀剣でそれを受けていくが次第に対応が間に合わなくなる。そして、一度でも間に合わなくなった瞬間に止めどなくドラゴンがエンゲルスに襲い掛かる。最初に命中した攻撃で隕石でも落ちたかのような衝撃が地面に反映される、そんな衝撃が絶え間なく繰り返される。


「生憎だが、生かすつもりはない。お前にはそれくらいでちょうどいいだろう」


「足りんなあ。俺と戦うなら、それでは足りん」


そういって、エンゲルスはドラゴンの攻撃を受け止めた。変質の刀剣はまるで爆発したかのように辺り一面に刀身を拡散させた。拡散された刀身は霧のように広がっていく。

「なるほど、罠を張るつもりか」

霧のように広がった刀身はエンゲルスの周りを覆った。当然のことだが霧のように広がった刀身は刀としての強度を保っている。触れれば、鋭い刀身に傷つけられるだろう。

「その刃でドラゴンたちに対処するつもりか。無理だな。ドラゴンの表皮の硬さはその程度の強度の物質では傷つかない」

 その言葉とともに大量のドラゴンがエンゲルスに襲い掛かる。

 先ほどのドラゴンの攻撃が効いているのか神体強靭が発動していながらエンゲルスの初動が遅れる。しかし、エンゲルスが間一髪、ドラゴンの攻撃を避ける。それを数回繰り返した後で、今度はドラゴンが何体も倒れた。

「ん、どうした・・・・。いや、しまった」

 トマスは自分の勘違いに気付いた。霧状に広がった刀身はドラゴンの表皮を傷つける為ではなく、ドラゴンの体内に入り込み、体内からドラゴンを破壊するためにエンゲルスの周りに広がっていたのである。

「そういうことか。これではドラゴンが迂闊に接近できないな」

 ドラゴンの鼻は小さいがドラゴンの移動方向と同じ方向に穴が開かれている。高速で移動するドラゴンは、当然、鼻の穴を閉じて飛行する。そのため、通常は鼻や耳などに移動中に砂などが入ることはない。それは霧状の刀身が飛行中に体内に入ることはないことを意味している・・・はずである。しかし、現実は異なる。理屈は簡単である、刀身は移動中にドラゴンの体内に入ったのではなく、停止中に入ったのである。移動中に刀身はドラゴンの表皮に付着する。(本来は高速で移動するドラゴンの表皮に付着することも不可能に近いが、魔法で操作可能な刀身はそれを可能な確立にした)付着した刀身が移動を終え、停止したドラゴンの表皮から離れ、ドラゴンが呼吸したタイミングでドラゴンの体内に入る。後はドラゴンの体内を破壊するだけである。

「しかし、対抗策がないわけではない。ドラゴンという力はそう簡単に超えられるものではないんだよ」

 そういって、トマスは手を挙げた。その動きに合わせて、何体のドラゴンがエンゲルスを中心に円状に集まり、回り始めた。それを見たエンゲルスは神体強靭により身体能力強化によって、高速で動き始めたが、エンゲルスを中心として円の形を崩すことなくドラゴンたちは一定の距離を保ちながら、その動きに容易についていく。


 トマスは挙げた手を下ろした。


 それと同時にエンゲルスを中心に円状に集まっていたドラゴンたちが一斉に炎を吐き始める。ドラゴンの吐く高温の炎は強烈な熱とともに光を発生させ、辺りは白く燃え上がった。そして、そこから逃れようとエンゲルスは高速で逃げ惑うが円は形を変えることなく光り始める。


 それは白い太陽のようであった。


 その白い太陽は、もはや燃やしているのでも、溶かしているのでもない。それは只の消滅である。そんな燃やすだの溶かすだのというエネルギーの規模ではない。何も残らないのだから。・・・・・エンゲルスでなかったのなら。

 ドラゴンたちが炎を吐き終えると、そこには全身を覆う鎧姿のエンゲルスの姿があった。

「そろそろだな。『翻弄のマント(ディ・グラーデ・ディス・マンティス)』」

 エンゲルスは魔法陣を目の前に出現させ、そこからマントを取り出し、それをつける。するとエンゲルスの姿が見えなくなる。音も気配も何も感じない。まるでエンゲルスがいなくなったかのように。そして、しばらくしてから鎧の音がした。すぐにドラゴンたちが鎧の音がした場所に向かうとそこには脱ぎ捨てられた鎧が捨てられていた。


 そして、その鎧が消え去ると同時に一瞬、その鎧が白い太陽となり燃え上がった。


「逃げられたか。にしても・・にしてもだ。いつ以来だ。ドラゴンたちが獲物から逃げられたのは・・・ガウス以来だな」



地下道を移動し、何キロか歩いたカール一行はもう一つのアジトに到着していた。

「地下道の爆破は完了したわ、カール。エンゲルスは手筈通り違うルートから合流すると連絡があったわ」

「そうですか。よかった」

 カールはほっとした様子で、魔術師の一団を見て言った。

「これからはこういったことも増えると思いますが、みなさん、大丈夫ですか」

「もちろんだ。我々はあなたとともに理想を完成させたいと考えている」

「そうだ」

「その通りです」

 魔術師の一団は大きく声をあげ、そして、自分たちが行おうとしていることの大きさを認識した。

「ここに集まっている皆さんには我々の幹部として、しばらくの間、私たちと共に行動していただきます。それと同時に皆さんには守っていただきたいルールがあります」

「ルールですか」

「心配せずとも、簡単なものです。幹部となる皆さんはそれぞれの国のリーダーとして、既存のルールを廃止し、新しいルールをその国に合わせて作っていただくことになると思います。そのために必要なルールなのです」

「例えば、どういったものですか」

「ルールは二つです。一つは担当の国のルールは私たちと議論をしたうえで決めてもらいます。もう一つは私たちと議論した内容は担当の国内のできるだけ多くの人に伝えることです」

「一つ目は分かりますが、二つ目は」

「二つ目は私たちは極力、弱者を作りたいとは思っていません。そのためには国が何をしようとしているかをできるだけ多くの人に認識していただく必要があります。全ての人が私たちの考えを理解できるとは思っていません。しかし、優れた能力を持つ皆さんであれば、これらの考えを正しく、分かりやすく、多くの人に伝えることが出来るはずです」

「おお、おお、おおお」


「そして、世界は完成するのです」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 地響きのような声があがる。彼らは天使になろうとしている。絶対的な正しさを作り、その正しさによって、人を管理し、見守る。人を超えた天使に。

 そして、カールたちは、そうした表現の下で神になろうとしている。伝説としての、宗教としての神でなく、真に正しく、絶対的な神になろうとしているのである。


 

その表現を使うのならば、彼らは悪魔であろうか。人を誑かし、争いを引き起こし、平和をかき乱す悪魔なのだろうか。


 答えは分からない。ただ、悪魔たちは言うだろう、『それを考え始めたなら、あなたは悪魔になっているだろう』と。


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