あるパーティーの備忘録-08
「まずは、血管。血を止めるのが先決じゃ。両手の指先から癒しの光を放射することをイメージせい」
ジュールが試行錯誤している隣で、ガロンは冷静に治療を続けていた。太い指からは想像できないような、繊細な癒しの光だ。
2人の献身により、怪我人の傷口は完全に塞がった。ただ、流しすぎた血が戻るワケではないので、動くことができる状態ではない。荷馬車の内部にスペースが作られ、横たえられた。
「出発しますぞ」
商人の掛け声により、荷馬車が動き出す。
その日の夜。荷馬車は街道脇に作られた休憩所に止められていた。簡単な煮炊きができるスペースと均された地面があるだけの場所だが、これだけでも野営が格段にラクになるのだ。
「昼間は世話になった」
駆け出し冒険者の1人が、バルナスたちのたき火の近くに寄ってきた。手には酒瓶を持っている。商人から売ってもらったのだ。
「これは、礼の気持ちだ。受け取ってくれ」
「おお。なによりも嬉しい贈り物じゃな」
ガロンはホクホク顔だ。
「ところで、あいつの治療費はどれぐらいだ?」
駆け出しが尋ねる。その表情には、怯えの色が濃い。神官に回復魔法をかけてもらった場合の治療費は、彼らのような駆け出しにとっては大きな負担なのだ。場合によってはパーティー崩壊の危険性もある。そんな金額なのだ。
「治療費? そんなものは、いらんぞ。旅の仲間から治療費をふんだくるほど、腐った性根はしておらんでな」
ガロンの言葉に、ホッとする駆け出し。
「そのかわり、お主らが儲けを得たら、街のノドレイ神殿に寄進をしてくれれば、それでいいからの」
「寄進? どれぐらい?」
再び警戒の色を強める駆け出しの肩を、ガロンはバンバンと叩く。
「お主らの気持ちと懐具合と相談すれば良い。一度では払いきれないと思ったら、何度でも寄進してくれれば良いのじゃ」
「そうか」
駆け出しは晴れ晴れした顔で仲間たちのほうに戻っていった。
「神殿の門は、信者でないお主らにも、何時でも開かれておるぞ。寄進をするつもりがある限り」
ガロンはニヤリと笑いを浮かべた。完全に悪人のそれである。
「ガロン師は、見かけによらず商売がお上手なんですね」
バルナスが感心した様子で声をかけた。
「これぐらい、外に出ている神官なら、誰でもできる程度の営業じゃ。ところで、ジュールよ、お主も働いたのじゃから、遠慮せずに営業すればよかったのじゃぞ?」
「営業、ですか?」
キョトトンとした様子のジュール。