あるパーティーの備忘録-06
いつのまにか、街道の周囲は草原になっていた。草の丈が高く、周囲の見通しは全く利かない。野盗が待ち伏せをするには絶好の環境であり、数日前にも商人が襲われたという。一行は襲撃を警戒しながら、慎重に進んでいく。
「止まれ!!」
周囲の草原から、複数の人間が現れた。セオリー通り草原の中に身を伏せ、通り過ぎるのを待ってから現れたらしい。30人位の集団であり、完全に包囲されていた。薄汚れた衣服を身にまとい、ボロボロの剣を手にしていた。中にはクワやスキ、カマを持っている者もいる。
「命が惜しかったら、荷物と女を置いて、とっとと失せろ!! 俺は気が短けぇんだっ! 早くしねぇか!!」
首領なのだろう。体の大きな男が、ダミ声をあげていた。そんな男の口上を無視し、バルナスが左手を思いっきり突き出し、こう叫んだ。
「電撃っ!!」
バルナスの左手につけた指輪から、電撃が迸る。電撃の呪文 (ライトニング)を封じたコモンルーンが、キーワードに反応して封じられていた呪文を発動させたのだ。電撃は首領に直撃すると、そのまま貫通して行った。首領の後ろにいた数人も同じように貫通していく。
コモンルーンとは、古代語魔法をアイテムに封じ込め、共通語のキーワードで発動するようにしたマジックアイテムであり、賢者の学院で販売されている。通常は魔術が使えない者が魔術を使うために購入するものなのだが、バルナスは詠唱が間に合わなかったときの保険として装備していたのだ。
ちなみに、ライトニングのコモンルーンは一般には流通していない。付与魔術の研究の一環として完成してしまったのだが、市場に流すのは危険という判断で死蔵されていたのだ。バルナスがそれを譲り受けた経緯については、ここでは割愛する。
「ま、魔術師がいるぞっ?!」
「れ、連発はできねえハズだっ! 数で押し切れっ!」
電撃を受け、膝をついてしまった首領だが、気力を振り絞って指示を出していた。動揺していた野盗達だが、その声に蛮声を上げて襲い掛かった。
「死ねやぁ!」
レイブンに襲い掛かった野盗が、一刀のもとに切り捨てられていた。
「お前がな」
レイブンはニヤリと笑った。その姿は、完全に悪人のそれである。
「降伏すれば、命までは取らんぞ?」
ガロンの言葉に動揺を見せた野盗達。しかし、首領がダミ声で鼓舞する。
「俺たちは捕まれば死罪だ。こいつらを殺して生き残れ!」
首領の言葉を受け、彼らはヤケクソ気味に襲い掛かってきた。
「襲い掛かってくるなら、容赦はせんぞ」
荷馬車前方の戦いは、一瞬で掃討戦と化していた。数を頼みに攻めかかっても、前衛の2人とはレベルが違いすぎるのだ。そのうえ、後衛からは魔法が飛んでくるのである。時間の経過と共に、物言わぬ死体が量産されていく。