あるパーティーの備忘録-01
ここに1つの世界がある。
我々の住んでいる世界とは異なり、文明レベルは低いと言わざるを得ないだろう。
我々の尺度で言えば、中世レベルか、それ以前であり、政治形態や社会生活にも当てはまる。
この世界を特徴付けるのは、さまざまな「魔法」の力、そして、さまざまな「モンスター」の存在。我々が伝説でしかその姿を見ることの出来ない不可思議な魔法の力、凶悪なドラゴン等のモンスターは、ここではまごうことなき現実である。そして、そのために数多くの冒険があることも。
叩けよ。されば、開かれん。冒険の扉は、あなたの目の前にある。
1.襲撃と疑問
ネーアヴィス王国のセラブルグと、エーセストを結ぶ街道。商業の大動脈であるこの街道は、ここしばらく治安が悪化していた。先の飢饉により周辺の農村が荒れ果て、野盗となるものが増えたのが原因である。
そんな街道を行く荷馬車が一台。中堅処の商会の荷馬車である。治安の悪化に対応するため、通常の倍の2パーティーの冒険者を護衛に雇っていた。
荷馬車の前を歩くのは4人。前列左側を歩くのは、身長180cmぐらいの人間の大男。大男の右側には、身長175cmぐらいの細身の人間の男が並んでいる。
後列左側で短い脚を必死に動かしているのは、身長130cmぐらいのビヤ樽体型。長いひげの中に、ダンゴ鼻が埋もれていた。ドワーフ族の男だ。ドワーフ族の男の隣には、身長155cmぐらいの普通体型の人間の女が並んでいる。
荷馬車の後ろには4人の人間の男。身長170cmぐらいの中肉中背の連中である。装備や身のこなしを見るに、あきらかに駆け出しの冒険者であった。
「後ろの連中、役に立つのかね?」
大男が小声で隣の細身の男に尋ねた。
大男の名前は、レイブン。傭兵団出身の冒険者だ。身長:180cm。体重:85kg。大柄な筋肉質の身体の上に、純朴な田舎の青年の顔が乗っている。そんな感じの青年である。年齢は18歳は過ぎているが、23歳にはなっていないようだ。肌の色は茶色で、髪の毛はボサボサの灰色。大きめな灰色の眼球が、優しい雰囲気をかもし出していた。
旅用マントの下には硬皮皮鎧を装備している。同時に鎧と同素材の手甲と脛あてを付け、腰に巻いた剣帯には両刃直刀を差している。
「カカシよりは、マシでしょう。自分の足で歩いていますからね」
細身の男の顔には、明らかな冷笑が浮かんでいた。
細身の男の名前は、バルナス。賢者の学院の魔術師である。身長:175cm。体重:63kg。年齢はレイブンよりは少し下のようだ。肌の色は白色で、髪の毛は黒色の癖毛。切れ長の眼の中に光る金色の眼が、神秘的な雰囲気を見せていた。
長袖、長ズボンの上からローブを羽織り、手にはゴツゴツした杖を持っていた。
賢者の学院とは、この世界では一番の権威を誇る教育機関であり、魔術師と賢者の育成を行っている。もともとは、とかく世間から嫌われる存在である魔術師の保護とお互いの学問の振興のために造られた組織である。本部はサロストという東方一の大都市にあり、世界中の大都市に支部が設けられている組織なのだ。
バルナスは、研究室にこもるよりも現場に出て知識を得るほうが性にあっているという、インドア派が多い魔術師のなかでは、ある意味での変わり者である。講義の無い日は、自らの趣味と実益を兼ねて冒険者として活動しているのだ。