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「勝負事で勝利する秘訣は、相手の最も嫌がることをすることだ」
それが彼の師匠の教えだった。相手の立場に立って考え、尚且つそこを付け狙うーーー世間的には『卑怯』だとか『下劣』だと評されるその教義は、しかし弟子である彼の戦績を揺るぎないものにしていた。代行任務遂行率80%ーーー自身に無理だと判断し代行を拒否した仕事を差し引いても請負人業界では上位に入る仕事だった。
『請負人』---頼まれた仕事を依頼人に代わって遂行する、いわゆる何でも屋である。しかし、家事手伝いや犬の散歩などといった雑務が彼らに依頼されることはまずない。
専ら彼らに任せられる仕事といえば、殺人や強盗などといった悪行の類であった。報酬には莫大な金銭が支払われるが、請負人の数は全体でも300人にも満たなかった。
その理由はーーー
「がっ!?」
逃げる殺害対象が引きずる右足に、容赦なく蹴りを叩き込む。対象は呻きながらも素早く旋回しつつ手にした拳銃をこちらに向けてくる。しかし今蹴りを入れた足の痛みのせいか、
動きが鈍いーーー
拳銃をナイフの柄で叩き落としてから、容赦なく首筋を切り裂いた。
苦悶の表情と共に対象は床に倒れこみ、そのまま動かなくなった。
携帯端末を取り出し、組合にコールする。
「任務完了」
余計なことは言わず、通信を切る。そのまま携帯端末でメールボックスをチェックし、次の仕事の依頼が来ていないか確認する。組合ーーー正式名称「請負人管理組合」は非正規の
組織であり、そこに請負人として登録すれば、依頼を分配してくれるシステムになっていた。新着は一件だった。
『依頼:木賀峰家専属の請負人としての着任』
「これは…」
専属請負人。それは、個人もしくは団体のいわゆる『汚れ仕事』を一手に引き受ける請負人を意味する。その専属先以外からの依頼を受けることができなくなる代わりに、
好待遇、高給が約束される。それゆえに請負人業界でも目指すものは多かった。
しかし果徒はそのままブラウザのアプリを起動し、木賀峰家についての情報を集め始めた。
『依頼を受ける前に、その依頼人が信用できる人物かどうか見極めろ』
これも彼の師匠の言葉だった。果徒は彼がいなくなってからも彼の教えを忠実に守っていた。
そのおかげか、果徒はこの過酷な業界でも五年間生き延びることができていた。
だが・・・
「何の情報もない・・・?」
30分間も情報収集を続けたが、木賀峰家についての情報は何一つ見つからなかった。
専属の請負人を雇おうとするくらいの家だ、何かしらの噂くらいはあってもいいはずなのだが・・・
結局果徒は検索を諦め、ある番号にコールした。
『情報屋』が必要だ。