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ホワイト・デー!


 「イイ男ファンクラブ」なるものを所有するソラ・コーポレーションのバレンタインデーは、2人ほどのイケメンが既婚者になってしまったとはいえ、それで衰えるようなヤワなもんじゃない。

 今年もあちこちのきれいどころから、超ハイクラスから、なんでわざわざ送ってくる必要があるのだろう? と言うワンコインチョコまで、それこそ千差万別のお祭り騒ぎだった。


 そんな女性たちにお返しと称して、贈り物をする日。

 それがホワイトデー。


 しかし、ソラ・コーポレーションでは、悲しいかな、数と範囲が多すぎて、ろくなお礼が出来ないことが、加福さんにとっては、ほんのちょっぴりストレスだった。

 だから。

 ここ何年分かのお礼を込めて、と言う理由で彼は、またとんでもなく迷惑な企画を考え出していた。


「ねえー、俺の出した企画、まだ通らないのー? 」

「あったり前でしょ! なんであんたの個人的お返しに、会社の予算使わなきゃならないのよ!」

 魔の13階では、ここのところ毎日のように、加福さんと甚大のそんなやり取りが続いている。


 というのも。

 加福さんが、ホワイトデー・パーティと称して、3月14日当日に取引先のレディたちを招待して立食パーティを開こうと提案してきたのだ。

 しかも。

 歴代のイイ男ファンクラブメンバーである既婚者、(一直やアスラはもちろん、それ以前にも何人か独身に終止符を打った者がいた)にも、この日は独身に戻って彼女たちをエスコートしてくれ、と、参加を勧めている。



「いやです…」

「アスラぁ~」

「こればっかりは…。それに俺が社外からチョコもらったの去年だけですし、その人たちにはきちんとお礼しましたし」

 几帳面なアスラは、頂いたものにお礼はキッチリとしながら、那波と結婚することもちゃんと伝えて、今年はすべて辞退することを伝えていた。

「アスラくん。お世話している先輩が言ってるんだよ~」

「…俺がお世話になってるのは、パンダさん(半田さんのこと)ですし」

「うぐっ! 」

 正論で返すアスラに、さすがの加福さんもぐうの音も出ない。


 と言うわけで、その矛先は今、一直に向けられている。

 とはいえ、一直も恭との結婚を決めたときに、きちんとしたお礼をしつつ、決して誤解されないようかなりシビアな対応をしたために、社内外のレディからは恐れられているのだが。

「なあー、一直~。親友のよしみだろ~」

「イヤだよ。それに俺がいつお前の親友になったんだよ」

「そんなことはどうでもいいんだ。それよりお前は今までどれだけレディたちに気を持たせてきたと思う? 」

「別に。俺はソラ・コーポレーションに入社してから恭と出会うまで、仕事一筋だったし。お前と違って女性に気を持たせたことなんか一度もないし」

「わあ、ひどいー」

「ホントの事だろ? それに、俺はもう恭には、誤解から二度と悲しい思いをさせたくないんだよ」

「はいはい、麗しき夫婦愛だね~。わかったよ、もう」


 と、さすがに一度は企画をあきらめた加福さんだったが、そんな彼にチャンスが巡ってきた!



「ヤッホー! 空ちゃんいるー? 」

 今日も濃ーく登場したのは、かの有名な地渡社長。

「どうしたんだい? いきなり時間とれるかって、いつものことだけど」

「それがさあ、すごいんだよ! あれがあーなって、これがこーなってだね」

 と、いつものごとく話がこんがらがるので、それをうまく収めるのが、この人。

「じつは、ホワイトデー企画として、個性豊かなパティシエ何人かに共演していただく形のスイーツフェアを、とある企業とデパートがコラボして開催いたします」

 地渡社長に影のごとくつきそう、秘書のデラルドさんだ。


「ほほう、それで? 」

「この企画のメインイベントとしまして、3月14日、ホワイトデー当日にパティシエ自慢の新作をお召し上がり頂いて、忌憚のない意見交換のパーティを開くこととなり、それには口の肥えたレディが欠かせないという主催者の意見がありまして」

「うんうん」

「そこで、お若いレディをよくご存じなヤツら、…あ、これは失礼。レディをたくさんご存じであろうこちらにお願いに上がりました」

「アハハ、たしかにうちはイイ男が多いからね。バレンタインの贈り物を見たところでは、口の肥えた素敵なお嬢さんをたくさん知ってると思うよ」

 デラルドさんのひょいと飛び出す失礼な言い回しにも、いつものごとく余裕で空社長が答える。

「助かります。さすがに誰でも良いと言うわけには参りませんので」

「わかった。じゃあ若いレディの人選はこちらに一任してもらうよ。ただね~」

「? 」

「素敵に年を重ねてきたご婦人はさ、地渡の方がよく知ってると思うよ。だからそっちはお願いするね」

 すると、少しきょとんとしていたデラルドさんが、珍しく素直に微笑んで言った。

「承知しました」



 こんな経緯があって、加福さんの思惑通りホワイトデーにパーティが出来ることとなったのだ。

「やった! 俺ってやっぱりついてる! じゃあ早速レディたちに連絡しなくちゃ。末山、お前もだぞ」

「ああ、わかったよ」

 ちょっと苦笑しながらも、真面目な末山さんは、その日から休み時間を利用して各社に連絡を取り始める。

 それに気をよくした加福さんは、既婚者たちにも声をかけ始めた。

「一直! アスラ! お前たちもレディ集めに協力しろ」

 すると、黙り込むアスラの肩を叩いて、一直が言う。

「大丈夫だよアスラ。末山がいるならほとんどパーフェクトに声かけてくれるから」

「ああ、そうですね。末山さんなら」

 確かに…。

 加福さんは「なんだよそれー」とか言いながら、なぜか妙に納得したのだった。


 おかげでホワイトデー・パーティは大盛況。加福さんは長年の夢? が叶って大満足だ。

 ただ、一直が言うように、ほとんどパーフェクトに連絡を取った末山さんの株が、またまた上がったことは、付け加えておこう。





 ここまでお読み頂き、ありがとうございました。


 3月14日、ホワイトデー。

 その昔は、3倍返しだ! 10倍返しだ! などとマスコミやらがあおってあおって、義理チョコをもらった殿方たちが戦々恐々とする日でした。

 さて、皆さまは、今年はどんなホワイトデーを過ごされるのでしょうか。

 それにしても、加福さんの扱いがだんだんひどくなりますね(笑)でも、作者は彼が大好きなんですよ。次回は起死回生してくれる、かな。

 またお会いできることを楽しみにしています、それでは。

 

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