ダブルスとエキシビション
今日は末山さんが通っているスポーツジムが主催する、テニス大会の日。
末山さんが出場するのは当然のことだが。
以前にとんでもない聞き間違いをした加福さんもまた、出場している。
しかも、なんとなんと、末山さんとペアを組むダブルスで!
客席には2人の応援をすべく、ソラ・コーポレーションの社員もやって来ている。
試合前の練習を見ている観客の中に、手塚一直と恭夫妻もいた。
「大丈夫なのかしら、あの2人で」
「ん? どうして? 」
「だって、加福さんって末山さんのこと、けっこうライバル視してるじゃない? うまくいくのかしら」
そう。
末山さんはともかく、あのナルシー加福さんが、なんとダブルスなのだから。
だが、恭の言葉を聞いて可笑しそうに笑った一直が言う。
「うん、俺も心配だから、ずばり聞いてみたんだよね。そしたらさ」
「どうだった? 」
「(一直~。そんなこと心配してるのかー? いつもはライバルだけど、同じコートに入ったからには…、彼は俺の大事な大事なパートナーさ。)と言うことだよ」
加福さんそっくりの物まねをする一直を、あっけにとられて見ていた恭が、一呼吸置いて大笑いする。
「! ……。あ、はははは! もうやだー、一直さんってば、加福さんそっくり。けど、けど、…そのセリフ、くっさーい! 」
「だよね。俺も、何だよそのくさいセリフ、とか思わず言っちゃったよ」
その後も可笑しそうに笑っていた恭だったが、ふと、今気がついたというように一直に聞く。
「そう言えば、一直さんもテニス出来るわよね。何で出場しなかったの? 」
「ああ」
一直は、返事したあと、苦笑いしながら言う。
「俺は身体能力が、ちょっとね。ヒューマンハーフなもので…」
「!あ、そうか。普通の人とはレベルが違いすぎるわね。納得ー」
うんうん、と何のこだわりもなく頷く恭を優しい瞳で見ると、一直はふいに恭を引き寄せ、その髪に口づけを落とした。
「ちょ! 一直さんってば! 」
「ふふ、やっぱり恭は最高だね」
「…」
真っ赤になって唇をとがらせながらも、少し嬉しそうにしている恭だった。
「あ、始まるわよ」
そのあとすぐ、試合が始まった。
くだんの2人は。
昔々、縦ロールおリボンで超華麗に強い方が出てこられる、某テニス漫画に登場する、イケメンダブルスペアのごとく。
ピッタリと息が合って、強いのなんの。
「あ! いけない」
「おう、まかせとけ」
「あらよ」
「お、ナイスだ」
とんとん拍子に勝ち上がり。
みごと優勝の栄冠を勝ち取ったのだった。
「きゃあー、加福さん、かっこいいー! 」
「末山さあーん」
応援の女子たちに、優雅に手を振ったり投げキッスなどして、プロのようにリストバンドやボールを客席に放ると、加福さんと末山さんはコートを後にした。
大会の後はお楽しみのエキシビション。
だいたいエキシビションというものは、ショー的に楽しくて愉快なものが多いが、この大会においては、その常識は通用しない。
「LADY'S&GENTLEMAN! お待たせしました。これより本大会のエキシビションが始まります。なんと、このエキシビションは一対一のテニス対決となっております。まず、ひとりめは、アスラ・フルストヴェングラー! 」
すると、ソラ・コーポレーションの応援席からやんやの大歓声が沸き上がる。
「そして、彼と対戦するのは、デラルド・ジツェルマン! 」
今度は地渡社長をメインとする応援団から、こちらもやんやの大歓声。
そう、なんとこのエキシビションは、悪魔のテニス対決だったのだ。
「てめえには絶対負けないぜ」
「おや、気が合いますね。私も絶対負けてあげませんよ」
バチバチと火花を散らす2人。
「アスラくん。無理しちゃダメよ」
観客席から、ひとり心配そうに手を組んで言う那波。そんな那波の背中に手をやって、「大丈夫よ」と励ます恭。
そして。
テニスコートの四方に、わざわざ異界から呼んできた少年少女が立つ。彼らが手を差し出すと、ヴィーンと羽音に似た音がして、テニスコートの周りに結界が張られたのだった。
なぜって? それは。
某、全員年齢詐称の、ありえんバトルテニス漫画よろしく、彼らが結界なしで試合すると、観客に死傷者が出るおそれがあるからだ。
「くらえ! 」
「やりますね! 」
「これが…、返せますかね! 」
「んなもん、軽いぜ! 」
ドガアーン! ズガーン! ババババ!
とてもテニスとは思えない擬音で、彼らのエキシビションは続くのだった。
「あーあ、何なの、このエキシビション。せっかくの優勝がかすんじゃうよ」
不服そうに言う加福さんに、末山さんはコートから目が離せないようだ。
「すごい…。あのパワーはとても出せないけど、あの2人。どんな難しいコースを打つときも、フォームが完璧だ。さすがは、悪魔…」
ところで、試合の結果は?
どんどん加熱する2人のパワーに耐えきれなくなった少年少女の結界が、バチンとはじけたところで、審判を務めるルエラからの中止命令が下り、結局引き分けで終わったそうだ。