イケメンサンタとトナカイさん
毎年、クリスマスイヴになると、取引先のきれいどころがわんさか押し寄せて、仕事どころじゃなくなる「ソラ・コーポレーション」。
取引先からも何件か、クリスマスイブは女子社員がわざわざ用事を作ってそちらに伺うので、仕事が停滞すると苦情が入り(それはこちらに何の非もないのだが)。
今年は社長が先手を打つ事にした。
「加福くん~、末山くん~。君たちさ、今年はクリスマスイヴに取引先回って書類を届けるようにしてよ。先方には君たちが行くこと、大々的に宣伝しておくからさ。そしたらきっと3分の1になると思うんだよねー」
「何がですか? 」
真面目に聞く末山さんに、加福さんが茶々を入れる。
「末山~、お前はほんっと天然だねえ。クリスマスイヴにやってくる社外の美しい女性社員が、だよ」
「? よくわからんが。それが何かうちにメリットがあるのですか」
「あるよあるよ。社内の仕事がね、間違いなく3倍ははかどるよー。だからお願いだよー」
社長が手を合わせて頼むものだから、末山さんはちょっと恐縮気味に返事を返す。
「わかりました。会社のためになるのなら」
「ありがとう。この埋め合わせはちゃんとするからね~」
「そんな、いいですよ」
とは言え、手塚社長は言ったことは必ず守る人なので、2人には年明けにでも、きっと良いことがあるだろう。
ところで、この案件を企画した、自称、社内女子力ナンバーワン? の音川 甚大は、
「ただ書類を届けるだけじゃダメよ! やっぱりこの時期はサンタクロースがプレゼントを配らなきゃ! 」
などと言い出し、2人にサンタの赤い帽子と、トナカイの角型カチューシャ&なぜか真っ赤なお鼻を渡す。
「じゃあお前はこっちな」
と、すかさず自分はサンタになり、トナカイの方を末山さんに渡す加福さん。
「なんでだ? 」
「お前、最近隣のジムに通い出して、筋肉量上がってるだろ? そりを引くトナカイにぴったりだ」
「そうか」
あっさりと引き受ける末山さんに、周りは「どう考えてもトナカイは道化役だろー」「末山ー、騙されてるぞー」とか思いつつ、本人が良ければまあいいかと口出しする者はいなかった。
さて、その日は社長の狙い通り、会社を訪ねてくるきれいどころは3分の1になって、社員は仕事がはかどると大喜び。
取引先の女子たちも、2人が直接手渡ししてくれるプレゼントに、はしゃいだりうっとりしたり(女子社員の一人一人に手渡しすることは、社長が根回し済み。中身は甚大がわざわざお取り寄せした、個包装の有名店スイーツをバラでおひとつずつだ)
ただひとりだけ、狙い通りに行かなかったのは。
「やあーん、末山さーん。トナカイですかあ。かわいいー」
「ほんとー。真面目な末山さんの、意外な一面みちゃったー」
行く会社、行く会社で、大もてだったのは、なにを隠そうトナカイ末山さんだった。
策士、加福さんの完全敗退で、イヴ大作戦は幕を閉じたのだった。