表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

末山さん 会社帰り

〔末山さん〕


 末山さんは真面目で努力の人。


 机からコロリとボールペンが転がり落ちる。あっと思って手を出したが、ほんの少し間に合わず、ボールペンはコンコンと床をはじいていた。

「?」

 ついこの間まで、床に落ちきる前につかんでいたはず。



 重そうな段ボール箱が持ち上げられない女子社員に「どこへ運ぶんだ? 」と聞いて、代わりに運ぶ。

「?」

 重い…

 ついこの間まで、これくらいなら軽々と運んでいたはず。



 俊敏性と筋肉量が、落ちている…。

「…」

 真剣に考え込む末山さんだった。



〔会社帰り その1〕


 今日もお仕事を終えると、きちんと机を片付けて会社を後にする。

 1階のホールでは、ファンの女性たちがお互いを牽制し合いながら、彼を待っている。

「末山さん」

「末山さん、一緒に帰りましょ」

「抜け駆けしないで」

「何よ、貴女こそ」

 彼女たちの言い争いを制して、末山さんは静かに答える。


「悪いんだけど、もうみんなとは一緒に帰れないよ」

「ええー? どうしてー」

「なんでー? 」

「今日から、隣のビルにあるジムに行くんだ。最近運動不足気味でね。健全な肉体に健全な精神が宿る、だよ。毎日通うつもりだから、皆とは一緒に帰れなくなった」


 そう言うと、「ええー?」「やだー」と騒ぐ彼女らを残して、さわやかに手を上げて会社をあとにする末山さん。


 残された彼女たちはドヨ~ンと落ち込む。しかしそこであきらめるような輩はいない。

 先を争って隣のビルへ!

 けれどそこには。

「会員の方以外の立ち入りは、厳禁とさせて頂きます」との但し書き。おまけにさすがはジム。か弱い彼女たちではとても太刀打ちできないような、ごっつい警備員のお兄さんが睨みをきかせていた。



 次の日。

 末山が1階に降りると、相変わらずファンが待っていた。

「末山さん。今日もジムですか? 」

「ああ、そうだよ、どうして? 」

「実は…」

 と、彼女たちはいっせいにバッグから印籠? をとり出す。


「「「私たちも、ジムに通うことになりました! 」」」


 末山のおかげで、隣のフィットネスクラブは大盛況だ。

 オーナーの高笑いが聞こえてきそうな、今日この頃。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ