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創世の日に その2

 大通りに出ると、そこは待ち合わせをしていた場所よりも一段と華やかな装飾がたくさん飾られていた。

金色の大きな鈴や創世主の加護を表すクーレイルの雪花などがそれぞれの店の前や頭上のロープに飾られ、見ているだけでも楽しい雰囲気を味わえる。


「毎年すごいよねぇー、こんなに飾り付けするのって大変そうだよ」

「そうだな、聞いた話だと中央通りだけでも通りの店の関係者だけじゃなく、騎士団からも人手が回されるらしいからな」

「へぇ~、そうなんだ。随分、賑やかにやるんだね」

「……あまり余所見ばかりするなよ、人が多いからぶつかるぞ」


ネイトは繋いでいた腕を軽く引いて、上手いことフィリアをエスコートする。このあたりの所作は貴族の男子として幼い時から教育を受けてきたネイトにはお手の物だ。

その上、騎士見習いでもある彼は人ごみを素早く避けながら移動することにも慣れているので、人ひとりを誘導するくらいは造作もない。

だが、エスコートされてる側からするとその自然ながらも洗練された動作に感心するもので、フィリアもその例に漏れずに美しいとも言える動きに見蕩れながらそのエスコートに従う。


「とりあえず先に昼食にしよう。演目が終わる頃にはもうだいぶ時間が過ぎているだろうしな」

「そうだねー、わたし、ドリィレアが食べたいな」

「了解だ、相変わらずフィーはドリィレアが好きだなぁ…」


外食するときはいつもドリィレアを頼んでいる気がするフィリアにネイトは苦笑しながら了承の意を示す。

 ドリィレアとはうつわの底にお米を敷き詰め、その上からチーズや野菜などを盛り付けてオーブンで焼いた料理のことだ。家庭でも作れるメニューだが、やはり店の物となるとプロが作るだけあってひと味もふた味も違う、らしい。

らしいとはネイトには分からないが、フィリアが熱く語っていたのでそう言っているだけだったりする。


「ドリィレアは至高だよ! あれ以上美味しいものなんてなかなかないよっ。少なくもわたしはしらない!」

「そうだな、至高だな。それで、お勧めの店とかあるのか?」


拳を握って力説する彼女にネイトは軽く引くもののいつものことだと割り切って見事にスルーする。

するーされたことが分かったフィリアは一瞬だけ不機嫌そうな顔になったが、すぐさまこのあたりの美味しいドリィレアの店を脳内検索する作業に入った。


「えと、西側の通りにちょっとした隠れ家的なところがあるよ。料理も美味しいんだけど、適度にお店が空いてるんだよね。あの空気感はなかなか作れるものじゃないよ」

「それならそこに行くとするか」


今度はフィリアが案内する形で、ネイトの横に並んで歩く。裏通りを抜けて、道をいくつか曲がった先の人通りが少なくなったあたりに目的のお店があった。

控えめな装飾で『創世の日』を祝うその店は店内に入ると独特の落ち着きのある雰囲気が伝わってくる。フィリアは何度かこの店に来たことがあったが、この雰囲気が特に気に入っていた。

王都の中央通り近くにあるとは思えないほどに静かで上品な店は人の心を落ち着かせる効果があるかのようだ。


「なるほど、確かに雰囲気の良い店だな」

「でしょ? わたし、この感じが大好きなの」


同じようなことを感じてくれたネイトにフィリアはまるで自分が褒められたかのように嬉しくなった。


「いらっしゃいませ。お客様は2名様でしょうか?」

入口前でにこにこしていると、すぐに店員のお姉さんが声をかけてきた。

この店員さんも店の雰囲気にあった清潔感のある女性で、穏やかな感じが伝わってくる。


「ああ、ふたりであってる。もし空いていたらで構わないんだが、どこか端の方の席でお願いしたいんだが」

「かしこまりました。ではこちらにどうぞ」


ネイトが席の希望を告げるが、お姉さんは嫌な顔ひとつせずにすぐさまふたりを窓際の端の席に案内する。

そこは日当たりが良くて、店内でも評判の席だとお姉さんが案内をしてくれながら教えてくれた。


「それではご注文がお決まりになりましたらお呼びください」


ふたりが席について少し落ち着いたのを確認すると、お姉さんは丁寧にお辞儀をして離れていった。


「ここのご飯はどれも美味しいんだけどねぇー、やっぱり一番はドリィレアだよ」

「そうなのか。ふむ、なら俺はこのラハーゼ肉の黒シチューにしておくか」

「あーっ、もう、そうやって流すんだから!」

「少し分け合えば2度おいしいだろ?」


いつもの悪戯好きな少年のような顔でネイトはにやりと笑った。この顔をしてくるときはフィリアに勝ち目がないことくらい今までの付き合いで嫌というほど実感しているので、フィリアはそうそうに話を逸らす。


「まぁ、良いけどさ。あ、そうだ。今日ってドレスコードとか厳しいんだっけ? そのあたり考えずに普通の格好で来ちゃったから心配だったんだよね」

「ん? ああ、今の格好なら何の問題もないだろう。あまりに酷すぎる様でもない限りは弾かれないだろうしな。……それに、その服はよく似合ってる。誰に選んでもらった?」


目線をフィリアから逸らしながら、ネイトが気になっていたことを訊ねる。正直、彼もフィリアのセンスの無さは知っているので、この組み合わせは誰かに選んでもらったのだろうと当たりをつけたわけだ。せめて男じゃなければいいと思っていたりするが、それは仕方がない話だろう。


「に、似合うかな? 慣れない格好だから心配だったんだよね…。えと、これはね、コーネリアさんと一緒に選んだんだよ。今日誘ってもらたことを言ったら一緒に選びに行きましょうって」


友人が少ないことを自分でも自覚しているフィリアとしては、年上でも同性で仲良くしてくれる人と一緒に買い物に行くというのはとても新鮮で嬉しい出来事だった。

その事を思い出して自然と顔が笑顔になるが、それを隠そうとは思わない。ネイトとしては選んだ相手が男ではなかったことに安堵すると同時に、こういう変化は良い事なのだろうと考えるが、できれば今度は自分がその役目になりたいと思った。


「コーネリアさんか。あの人は何故人に選ぶときはまともだというのに、自分の服装はあんなのなんだろうな…」

「あはは…、それは仕方がないと思うよ…」

「お客様、こちらドリィレアとラハーゼ肉の黒シチューになります」


ふたりして諦めたような顔になっていると、先ほど案内してくれたお姉さんが料理を持ってやってきた。

出来たての料理は相変わらず美味しくて、ネイトも絶賛していたくらいだ。そうしてふたりで和やかに昼食を済ませると、ネイトとフィリアは時間も良い感じだと店から出ていった。

ちなみに昼食の代金はフィリアが自分の分は払うと言っていたが、それをネイトが強硬に受け取らず、結局彼の奢りとなったりしている。

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