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第7節 コンペイトウ

「あの子、クイーンちゃんっていうんだね」

 バラバラになってしまった書類を片付けながら、エステルがロックに話しかけた。

「あぁ、最初は違う名前を考えてたんだがな、呼び出してみたら女王様みたいだったから、急遽クイーンに変更したんだ」

 ロックは机の上で書類の順番を確認している。

「へぇ、そうなんだ! 最初は何て名前にするつもりだったの?」

「ん~、何だったかなぁ? もう三十年位前のことだから忘れてしまったな」

「え! そんなに前から契約してるの?」

 エステルが目を丸くする。

「あいつとは長いなぁ。役に立つし、かなり頻繁に呼んでるから、もう家族みたいなもんだ」

「家族かぁ・・・・・・いいなぁ。実は私もね『プチラピス』っていう子、召喚してみたいって思ってるの!」

 エステルは書類を全部拾い終え、ロックの机に持って行くと、邪魔にならなさそうな所にそっと置いた。

「『プチラピス』か。俺も契約してたことがあるな。あいつも結構役に立つぞ。クイーンみたいにしゃべりはしないが、愛嬌があって可愛いしな」

「だよね! ロックも一番可愛いと思うよね!?」

 エステルが机越しにロックに詰め寄る。

「え? 一番かどうかは分からんが、確かに可愛いな。お前に似合いそうな精霊だ」

「ほんと!?」

「あぁ、きっと仲良くなれる。頑張ってみろ」

「うん!」

 二人は目を合わせてニコニコと笑い合った。


 その頃、ダンテはアカデミーの敷地を抜け、パンデクテンのメインストリートに出ていた。

(マジで勘弁して欲しいな・・・・・・)

 ロックから渡されたメモを握りしめ、ダンテは大きなため息を吐いた。

(何で俺が『コンペイトウ』なんて買いに行かなきゃなんねぇんだよ・・・・・・)

 ダンテはロックから『コンペイトウ』のお使いを命じられていた。それがクイーンへの仕事の対価だった。「お前のために召喚したんだからお前が買って来い」と言われ、渋々了承した。しかし、大人の男が一人でキャンディショップに入るのはかなり勇気がいる。ほぼ罰ゲームと言っていい。

(ここか・・・・・・)

 ダンテは地図を頼りにキャンディショップにたどり着いた。ポップでカラフルな色調が彼を委縮させる。ショーウィンドー越しに見える店の中には、案の定、若い女性と子供の姿しかなかった。

(もう、早く買って帰るか)

 意を決して店内に入った。

(う・・・・・・)

 周囲の視線が自分に集まるのを感じる。ガラの悪そうな大男の存在は、店内の平和を軽く乱した。うろうろ見て回るのも嫌だったので、すぐに店のカウンターまで行き、目的の商品を店員に告げる。

「『コンペイトウ』--ビンに入ってるやつがあるって聞いたんだが」

「は、はい、こちらですね」

 店員の女の子はダンテにビビりながらも、きちんとした態度で接客する。

「今、お買い上げ頂いた方にシールをプレゼントしてるんですけど・・・・・・どちらがいいですか?」

「・・・・・・」

「あ、い、いりませんか?」

「・・・・・・いや、どっちでもいいから入れといてくれ」

「は、はい!」

 そんなに委縮しなくても、とダンテは思った。むしろ委縮してるのは自分の方なのだ。

「お買い上げありがとうございます!」

 店員は『コンペイトウ』の入った紙袋をダンテに差し出す。

「あぁ、ありがとう。悪かったな」

 ダンテは紙袋を受け取ると、逃げるようにして店を後にした。


「おい、買って来たぞ」

「あ、おかえり、ダンテ!」

 エステルはすでに書類を片付けて自習をしていた。自身の机からダンテに声をかける。

「ちゃんとたどり着けたみたいだな! よかった! これでいつでも頼めるな!」

「もう行かねぇよ」

 ダンテは『コンペイトウ』の入った紙袋をロックの机にドンと置く。

「うん、商品も間違いない。ダンテ、よくやったな!」

「・・・・・・そりゃどうも」

 ロックはビンを紙袋から取り出す。一枚の小さな紙がひらりと机に落ちた。

「ん? 何だ、シールか?」

 ロックが紙を拾い上げる。

「何だ、この形は? 星か? ボコボコしてるな」

「変な形だよな。俺もよく分からなかったんだ」

「え、なになに? 見せて!」

 エステルが二人の側へ歩み寄る。ロックはエステルにシールを手渡した。

「あ! これ『お菓子な立体シールシリーズ』じゃん! 『コンペイトウ』のシールだぁ。可愛い!」

「「コンペイトウ!?」」

 ロックとダンテの声がそろった。

「コンペイトウのシールなんかあんのか? つーか難易度、高すぎだろ・・・・・・」

「あぁ・・・・・・分からんな、これは」

「え、そう? 私、分かったけど?」

 エステルが不思議そうに首を傾げる。

「・・・・・・それ、お前もらっとけ」

「え、いいの!?」

 ダンテの申し出にエステルが目を輝かせる。

「そもそもお前がいるかもって思ったからもらってきたんだ。商品買った人へのプレゼントだとよ」

「へぇ、今そんなのやってるんだ! ありがとうね、ダンテ! よ~し、さっそく貼ろうっと」

 エステルは机に戻ると、自分の実践用六法にシールで『E』の文字を作った。

「どう? エステルの『E』だよ!」

「・・・・・・いいんじゃね」

「あぁ、うまく貼れてるぞ、エステル」

「よかったぁ! 『L』と『D』も作ってあげよっか?」

 エステルが笑顔で提案する。

「いや、いい・・・・・・」

「お前がもらったんだ。お前の物に貼っておけ」

 二人は丁重に断った。エステルは「じゃあ、そうするね」と言って、鞄の中にシールを片付けると、自習を再開した。


「ダンテ、『調査官』についてなんだけどな・・・・・・」

 ロックが机越しにダンテに話しかける。

「具体的な仕事内容やもう一人の調査官との役割分担について、ちゃんと説明しておきたい。明日の午前中にもう一人のやつにも来てもらうことにするから、お前も十一時頃にはここに来ておいてくれ」

「分かった。もう一人のやつってどんなやつなんだ?」

「それは明日になってからのお楽しみだ!」

 ロックはそう言うと、楽しそうにニコニコ笑った。

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