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研究室にて

『ぴぴっ!(信じられないっぴ!)』

「ご、ごめん・・・・・・ラッピー。ラッピーのこと忘れてた訳じゃなくて、色々あって頭から抜け落ちてたって言うか・・・・・・」

『ぴー!(一緒っぴ!)』


『ドミニク貴様・・・・・・オーディンと一緒にこの私まで『強制送還』してくれるとは・・・・・・いい度胸をしているな』

「う・・・・・・悪かったよ。でも範囲を決めたのは僕じゃなくて『極楽鳥』だからさ・・・・・・文句ならあっちに言ってほしいっていうか・・・・・・」

『あいつに何を言っても無駄だろう! 極楽鳥に範囲指定を指示しなかった貴様に一番の責任がある! いきなり精霊界に帰されて、どれだけ負担だったか!』

「だからこうやって謝ってるじゃないか・・・・・・」


 エステルとドミニクは研究室の片隅で、それぞれの契約精霊から説教を受けていた。

 屋敷からカイラニへのお使いを頼まれたラッピーは、何とか運良く村にたどり着けたものの、ドミニクがいない上に誰にもラッピー語を理解してもらえず、心細い一夜を明かすこととなった。次の日の午後、ようやくドミニクを連れたロック達がカイラニに姿を見せたと思えば、「あっ! ラッピー! 忘れてた!」と、契約者に言われる始末である。

 一方、オブシディアンはと言うと、オーディンと一緒に極楽鳥に強制送還されていた。オーディンに吹き飛ばされた後、森の中に墜落したオブシディアンだったが、極楽鳥が強制送還の範囲を山全体に設定したせいで巻き込まれてしまったのだ。怪我を負ったまま強制送還をさせられたオブシディアンには相当の負荷がかかったらしく、もう一度物質界に召喚するのに何と一週間もかかってしまったのである。


「あ! コルン、焼けたみたい!」

「ドミニクさん! 私も手伝います!」


『逃げるな! 貴様等!』

『ぴぴー!(まだ、話は終わってないっぴよ!)』


 エステルとドミニクはキッチンへと姿を消した。


『ハァ、あなた方も大変でしたねぇ』

 大げさな溜め息を吐いたのはクイーンだった。

『クイーン・・・・・・貴様は契約者の無事も確認せずに勝手に精霊界に帰ったそうだな』

 オブシディアンの視線がクイーンに突き刺さる。

『--!? 仕方ないじゃないですか! ワタクシも災難だったんですよ! 気が付いたら見覚えのない部屋の中にいて、いきなり知らない女の子に「シーク!」とか言って抱きつかれたんですから!』


 ガラッ--


「シーク!?」

『ひぃいいいいいいぃ! だから、ワタクシはシークではないのですっ! 精霊違いです!』

 研究室のドアが開き、栗色の髪をした少女が姿を見せた。クイーンは少女の登場に戦慄すると、自分の机からのんびりとやり取りを見ていたロックの後ろに避難した。

「ユリアさん、よく来てくれた。今日はちょっと人口密度が高いがそこのソファが空いてるから・・・・・・おい、ダンテ、ちょっと詰めろ」

「へいへい」

 三人掛けのソファに足を広げて座っていたダンテは、ロックに言われて大人しく一人分の席を空けた。それでも二人分のスペースは占拠している。

「すみません・・・・・・おじゃまします」

 ユリアは遠慮がちに空けられたスペースに腰を下ろすと、改めてロックの方を見た。

「その子は、シークじゃないんですよね・・・・・・」

『違うと言っているでしょう!』

 クイーンが声を上げる。

「ユリアさんの探している精霊は『ブルーイーグル』だったんだなぁ。だが、こいつはもう三十年近く俺と組んでいるから『シーク』では有り得ない」

「そうなんですね・・・・・・」

「まあ、種類が分かっただけでも一歩前進だ。俺も知り合いに聞いてみるから、期待せずに待っていてくれ」

「はい・・・・・・ありがとうございます」


「コルンできたよ~!」

「今日はエステルさんも、お手伝いしてくれたんですよ」

 エステルとドミニクがにこにこしながらキッチンから現れた。二人はまず丁重にそれぞれの契約精霊にコルンを捧げてから、ソファの前のローテーブルにもいっぱいのコルンを並べた。

「久しぶりだな~、ヴァレリー製のコルン」

「うまそうだな」

「ほんとに、すごくおいしそうです」

 焼き立てのコルンを前にロック、ダンテ、ユリアが感心する。

「いっぱい食べてくださいね」

 ドミニクの言葉を皮切りに一斉にみんながコルンに手を伸ばし、その究極ともいえるおいしさを絶賛した。ドミニクとエステルは照れくさそうに笑いながら、自分たちもコルンと紅茶を楽しんだ。


「さて、そろそろ本題に入ろうか」

 食後の少しまったりとした研究室の空気をロックが仕切り直す。

「オーディンの出現から一週間が経った。未だにジェイは見つかっていないわけだが、昨日正式にこの件が『賢人会議』の議題に上がることに決まった」

 研究室の空気がピリッとする。

「そして、ドミニク、ダンテの二人については、調査官として会議に参加してもらう」

「は!? 俺らが!?」

 ダンテが大げさに声を上げる。

「当たり前だ。テレサ先生やドルバックの奴らが参加しているのは知っているだろう。バークリー校長にはたくさんの調査官がいるから交代要員もいるが、俺にはお前ら二人しかいないんだから、これから毎回参加だぞ」

「マジかよ・・・・・・」

「が、頑張ります・・・・・・」

 ダンテとドミニクは若干テンションが下がった。少し考えれば当然のことなのだが、自分たちのような未熟者が『賢人会議』に出るなど想像もつかなかったのだ。

「そして、以前も言ったとおり、ユリアさんにも参考人として出席してもらう」

「分かりました・・・・・・」

 ユリアは小さく返事をした。

「ねぇ私は?」

 エステルが心配そうに尋ねる。

「お前は留守番だ」

「う・・・・・・やっぱり」

 少し期待したがにべもなかった。

「俺達が留守にする間、お前はケーラーや他の護衛と一緒にいるように話を付けてある。ちゃんと仲良くしとくんだぞ」

「は~い・・・・・・」


「で、これからもう一つ重要な話をする。ジェイの正体のことだ・・・・・・」

 ロックはそう言うと、その場にいた全員に目線をやる。

「え!? 正体って、ロック、ジェイさんの素性分かったの!?」

 エステルが興奮気味に前に出る。

「分かった・・・・・・訳ではない。お前らから聞いたジェイの特徴--そしてドミニクがジェイに言われたという言葉と、捨てたナイフ--これらから俺は一人の人物像を浮かべずにはいられなかった」

「誰なの!?」

 思わせ振りな口調にエステルが焦れる。


「・・・・・・ジェレミー・コレットだ」


「ジェレミー・コレットって・・・・・・」

 エステルは言葉を詰まらせた。三十年前に『エンフィールドの悲劇』を引き起こし、同族のミルドによって処刑された少年--彼女は最近知った事実だったが、これは魔法律家の間ではそれなりに有名なことだった。

「でもよ・・・・・・ジェレミー・コレットは処刑されてんだろ?」

「あぁ・・・・・・」

「じゃあ、そいつの訳ねぇだろ。それにもし生きてたとしても、四十歳は越えてるだろ。俺の知ってるジェイはせいぜい、十五、六のガキだぜ」

 ダンテが呆れたように言う。

「それは俺も分かっている。だが・・・・・・このナイフは、おそらくジェレミー・コレットのものだ」

 ロックがローテーブルに銀色のナイフを置く。

「これって・・・・・・ドミニクさんが刺されたナイフだよね?」

「そうだ・・・・・・そしてドミニク、お前、ジェイに去り際何て言われた?」

 ロックはドミニクに顔を向ける。

「セシル・ロックに伝えてくれ、姉さんによろしく、と・・・・・・」

「えっ!? どういうこと!?」

「ジェイは・・・・・・俺のことを知っている。そして『姉さん』と言うのは・・・・・・アメリー・コレットのことだとすれば・・・・・・」

 ロックは、沈痛な面持ちで続ける。

「ジェイの目的は、俺と姉のアメリー・コレット、そしてヴァレリーへの復讐--と考えられる」

 その場の空気が凍り付いた。

「で、でも、復讐って・・・・・・」

 エステルが泣きそうな声を出す。

「これは魔法律家の間でもあまり知られていないことだが、オーディンに再起不能な程のダメージを与えたのは俺だ。そして、極楽鳥でオーディンを強制送還したのは他でもないドミニクの父親、ガルシア・ヴァレリーだ」

「えっ!?」

 全員の注目がドミニクに向く。

「そしてジェレミーを処刑したのが・・・・・・アメリー・コレットだ」

 極限まで凍り付いた空気は更に重苦しくなった。

「もし、ジェイがジェレミー・コレットなら、被害は俺達への復讐で終わるかも知れん」

「そんなのヤだよ!」

 エステルは声を上げる。

「もちろん俺も殺されてやるつもりはないし、アメリーやドミニク、クロエを殺させるつもりもない。だが、少なくとも世界を崩壊させられることがないなら、ちょっとは安心できるというだけのことだ」

 ロックは冷静に話を続ける。

「まあ・・・・・・これも、あくまで仮定なんだがな。俺も死んだはずのジェレミーが、まだ生きているなんて、自分で言っててちょっと恥ずかしいからな」

 そう言うとロックは、大きな声でははっと笑った。

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