第10節 ジェイ
「ジェイは三年前にウチに入った奴だ。いきなり来て仕事がないかって聞かれたから、仕事するならウチに所属してもらわないと困るって言ったら、じゃあ入れてくれって。そのときは人手も足りなかったし、あんまよく考えずに入れたかな・・・・・・でも、しっかり働いてくれる奴だったし、入れてよかったとは思ってる」
「一年前にやめてるな?」
「そうだ。しょーもない、仕事上のトラブルだった。詳しいことももう覚えてねぇな。届ける商品の数だったか内容だったか--とにかくそんなどうでもいいことが原因でやめちまったよ。まぁ・・・・・・色々積み重なってたのかも知れねえが」
「色々とは?」
「・・・・・・あいつミルドだろ。しかもそれを自分から強調するようなところがあった。何ていうのか・・・・・・大人しくしとけばいいところで大人しくできない奴で、反対に周りが盛り上がってるところで盛り上がれない奴だった。はっきり言って浮いてたな」
「嫌われてたのか?」
「いや、そう言うわけでもねぇ。みんな適度に距離を取ってた感じだ。ダンテもそうだったよな?」
ボスはダンテの方に顔を向けた。
「あぁ、向こうも俺らと距離取りたがってたからな。カストとか、気味悪がってた奴もいたけど、別にそんなに気にしてた訳でもなかったぜ」
「ふん・・・・・・繊細な奴だったのかもしれんな」
「それはあると思う。それに融通の利かないところもあった。一緒に仕事してても、妙に意固地になるっていうか、やりにくいところがあったな・・・・・・そんで指摘すると、必要以上にヘコむんだよ」
ダンテは露骨に面倒くさそうな表情をした。
「当時、オーディンは一緒ではなかったのか?」
「俺は見てねぇよ」
「俺も知らねぇなあ」
ダンテとボスが相次いで返事をする。
「ジェイの本名も知らないのか?」
「知らねー」
「俺も知らん」
「出身地とかは?」
「そんな話しなかったからな」
「そんなもん聞かねぇよ」
「・・・・・・お前らジェイの素性については何も知らないのか?」
ロックは呆れたように二人の顔を見た。
「仕方ねぇだろ、ギルドなんてそんなもんだよ。仕事さえ出来りゃあいいんだ。身辺調査なんてしねぇよ」
ボスが反論する。
「ふん・・・・・・じゃあ、ジェイについてこれ以上聞いても仕方がないか。では、最初の話に戻るが--ユリアさん、貴方はこれからどうする?」
ロックはユリアに視線を移す。
「わ、私・・・・・・」
「取りあえず、アカデミーに身を寄せておくか? 近い内に『賢人会議』で話を聞かせてもらうことになるだろうし・・・・・・」
「えっ!? 賢人会議!?」
ユリアはこれまでで一番大きな声を出した。
「そうだ・・・・・・元々、俺の『賢者』承認のために二週間後に予定されているんだが、オーディンと新たな契約者の出現については、緊急の議題として追加しなければならん。そこではユリアさんにも発言を求めることになるだろう。あの二人と直近に関わった人間として」
「・・・・・・ジェイと執事さんを、捕まえるんですか?」
「指名手配することは間違いない。その後の処分については未定だが・・・・・・」
「ジェイも執事さんも悪くありません! 私が、あの子に・・・・・・シークに会いたいって言ったから--! 私が悪いんです」
ユリアは必死でロックに訴えた。
「シークというのは、貴方が探しているという『青い鳥の精霊』のことか? 残念だが問題はそこじゃないんだ・・・・・・オーディンがこの物質界に存在していたこと--そこが問題なんだ。アイツが何のために召喚されたのか--理由によっては大変なことになる」
ロックの眉間に皺が入り苦い表情になる。
「おい・・・・・・もしそうなら、今もこんなのんびりしてられねぇんじゃねぇのか? ジェイの奴がまたオーディンを召喚でもしたら--」
ダンテが口を挟む。
「それは心配ない。あそこまでダメージを与えておけば、半年は魔法陣をくぐって来れないだろう。まぁ・・・・・・それまでにジェイを見つけなければならんのだが・・・・・・」
「半年か・・・・・・テレポート使えるんだよなあいつ・・・・・・」
「あぁ・・・・・・」
ロックとダンテは難しい表情をして黙り込んだ。
「とにかく、ユリアさんさえ良ければ、しばらくはアカデミーに身を寄せておいてほしい--」
「分かりました・・・・・・」
ユリアはロックの目を見ず、俯いたまま言葉を返した。




