第9節 返済
「おーい! エステル! 今、帰ったぞ!」
「あ、ロックだ!」
階下からの声にエステルは部屋を飛び出し、階段を駆け降りる。
「ロック~! ダンテ~! ドミニクさ~ん! みんな無事だったんだね!」
「あぁ、取りあえず無事だ」
「ドミニクが負傷してるけどな」
ダンテは肩を貸しているドミニクにちらりと目をやる。
「え!? 大丈夫なんですか!」
「ははは・・・・・・ちょっと油断しちゃってね。でも、こちらのゴルチエ氏のお嬢さんに治療してもらったから・・・・・・」
「え?」
エステルはドミニクの視線の先を見る。
「こ、こんにちは」
エステルと目が合ったユリアは、恥ずかしそうに挨拶をした。
「あ、こんにちは! ドミニクさんを助けてくれたんですね! ありがとうございます!」
エステルはニコッとユリアに笑いかけた。
「あ・・・・・・いえ、ユリア・ゴルチエです」
「私はエステル・バークリーです! よろしくね!」
「はい・・・・・・」
エステルから差し出された手を握って、ユリアもふんわりとした笑顔を見せる。
「お、帰って来たな! ロックも久しぶりだなぁ!」
ボスも階段を下りて四人の前に立った。
「お前・・・・・・コジモか? えらい貫禄が出たな・・・・・・」
ロックは頭の先から爪先までコジモを観察する。
「ハハハ! そりゃそうだ! 何時までもガキのままじゃねぇよ。お前と違ってな!」
「て言うか、太ったな・・・・・・」
「そっちかよ! お前は相変わらずだなぁ!」
そう言うとボスは大口を開けてガハハと笑った。
「おい、思い出話は後にしてくれよ。ドミニクを休ませたい」
ダンテが二人のやり取りを中断させる。
「おっと、そうだな。二階の俺のベッドを使えばいい。こんな美形の兄ちゃんをオッサンの汚いベッドに寝かせるのも気が引けるが、まあ勘弁してくれ!」
ボスの寝室はソファのある応接室と一続きになっていた。ロック達はドミニクをベッドに移動させ、応接室のソファに腰を下ろすと、ゴルチエ邸での出来事をエステルとボスに説明した。
「相変わらず派手なことしてるんだな」
ボスがしみじみと呟く。
「やりたくてやってるわけじゃない」
ロックは眉間にしわを寄せた。
「ねぇ・・・・・・ユリアちゃん、これからどうするの?」
エステルが心配そうにユリアを見つめる。ユリアは俯いたままだ。
「親戚とか、あてはあるのか?」
ロックの問いにユリアは首を振る。
「取りあえず、アカデミーに連れて行くという考えもあるが・・・・・・ユリアさんはどうしたい?」
「私は・・・・・・」
ユリアはためらいがちに言葉を紡ぐ。
「屋敷もなくなってしまいましたし・・・・・・どうしたらいいか・・・・・・」
「まあ、そうだろうな」
「でも・・・・・・お金は返したいと思ってるんです。父が色んな人から借りたお金を・・・・・・それまでは、ここを離れていいのかどうか・・・・・・」
「それについては心配しなくていいぞ」
「え?」
ボスの言葉にユリアだけでなく全員が振り向く。
「これ、さっきジェイが持ってきた」
「「ジェイ!?」」
ロックとダンテが声を揃える。
「ダンテ達が来たら渡してくれってな」
そう言うとボスは、分厚い封筒をテーブルの上に放り投げた。
「・・・・・・もうビリビリじゃねぇかよ」
「ハッハッハ! 気になって開けちまったよ! なあ、お嬢ちゃん!」
「うん!」
「うん! じゃねぇよ! てか、何なんだよこれは・・・・・・」
ダンテは封筒から書類を取り出し、文面を確認する。ロックも横から書類をのぞき込んだ。
「これ--!?」
「どういうことだ?」
書面にはゴルチエ氏を借り主とする金銭借り入れ契約の文言が並んでいた。二枚目、三枚目にも、貸し主と金額は異なるが、ほぼ同様の文言が並んでいる。
「ゴルチエの借金の契約書だな。全部そうか?」
「・・・・・・いや、前の方はそうだけどよ、後半は--領収書だ」
ロックとダンテは同時に顔を上げ、ボスの方を見た。
「ゴルチエは借金を全額返済していたということか?」
「違う・・・・・・そこにヘルハウンドが貸し主になってる契約の領収書があるだろ。そいつの受領日を見てみろ。二週間前だ」
「ユリアさんが払ったのか?」
「いえ・・・・・・私では・・・・・・」
ユリアが困惑の表情を見せる。
「ジェイが払ったんだ」
ボスが言った。
「は? ジェイが?」
「何でそんなこと・・・・・・」
ロックとダンテが不審そうに眉をひそめる。
「さっきヘルハウンドに遣いを寄越して確認してきた。二週間前、確かにジェイからゴルチエの借金全額の返済を受けたそうだ」
「ジェイが・・・・・・」
ユリアは言葉を詰まらせる。大きな瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「・・・・・・コジモ、ジェイのことを聞かせてほしい。構わないか?」
「あぁ・・・・・・もちろんだ」




