第5節 男子会
ダンテは悩んでいた。
力が欲しい--確かにアカデミーに入ったのは、そういった理由からだった。しかし、力が欲しいと思ったのにも理由がある。『力をつけて村を守る』--これがダンテの目的だった。
(みんな、どうしてんのかな・・・・・・誰も死んでねぇといいけど)
ダンテの故郷はカイラニという南部の小さな村だった。この村は一応、学園都市パンデクテンの保護区域内にあった。しかしパンデクテンの保護区域は広い。各地に神殿や祠を建て、結界を張ることで保護区域をモンスターの脅威から守っているが、結界の効力も永久的ではない。最低でも年に一度は結界を張り直す必要があった。中央アカデミーの下部組織『光の神殿』から派遣される祭司や巫女がその役割を担っているのだが、残念ながら完全には手が回らないのが現実だった。カイラニ村に結界が張り直されたのも、つい二年前のことだ。それまでは、モンスターに襲われ放題だった。なぜこんなところに住んでいるのか、もっと安全な場所に移り住むことはできないのか--そう親に聞いたが、金がないからムリだと言われた。現実的で、シンプルな答えだった。その両親も今はもういない。金があったら生きていた。ダンテはそう思っている。
「はぁ~~~! くっそ~~~っ!」
思わず机に突っ伏して悪態を吐く。今日はもう勉強どころではなかった。
「ちょっとダンテ、うるさいよ」
同室のユーリが遠慮なく睨んでくる。
「あ~あ~、悪かったよ」
こうやってイライラしながら机に向かっているとユーリの邪魔にしかならない。早めに寝てしまおうと二段ベッドの下に潜り込む。長身のダンテにはほぼギリギリのサイズだった。
「何か悩みでもあんの?」
ユーリがダンテの方を振り向かずに問う。
「聞く気ないくせに、適当に気遣ってんじゃねぇよ」
「そんなことないよ、内容によるよ。そう言えばさ、ロック先生が調査官探してるって噂あるんだけど、知ってた?」
「・・・・・・」
「知ってたんだ」
「・・・・・・お前、そう言う聞き方するのやめろよ。感じ悪いぞ」
ダンテがユーリを諫める。しかしユーリは無視して話を続けた。
「ねぇ、何悩むことあんの? やればいいじゃん。勿体ないよ。オレだったら二つ返事でOKするけどね」
「簡単に言うな。俺だって目的があってここに来てんだ。そう易々受けられるか」
ダンテは上半身だけ身を起こした。いつの間にかユーリもこちらに向き直っている。
「目的って何なの?」
「・・・・・・前に話したことあるだろ」
「村を守ること?」
「そうだよ・・・・・・」
「そんなの誰でもできるじゃん。それに今は祭司さんも毎年来てくれてるんでしょ? 結界さえ有効ならモンスターなんてほとんど寄り付かないよ」
ユーリがダンテの言い訳を一つ一つ潰していく。
「自信ないんでしょ」
「--!」
核心を突かれた。というより、自分でも気付いていなかった核心を見抜かれた。
「確かにさ、調査官なんて超エリートだよ。ダンテなんかに話が回ってくること自体がおかしいんだよね。賢人会議に出席でもしたら、他の賢者や調査官に鼻で笑われちゃうんじゃない?」
「言いたい放題、言ってくれるじゃねぇか・・・・・・」
「ムカつくからね。あ~あ、何でロック先生、オレに声かけてくれなかったんだろ? こんなヘタレより、ずっと役に立つのに」
ユーリが大げさにため息を吐く。
「お前は弱すぎるからだろ」
「すぐ強くなるよ。その辺の調査官よりもね」
「・・・・・・」
「・・・・・・もし受けないんだったら、オレ推薦しといてよ。よろしくね」
そう言うとユーリはダンテに背を向け、再び机に向かった。
ダンテは横になりながら自分の気持ちを再度整理し始めた。
確かに村を守るというのがここに来た目的だ。村のみんなにもそう言って出て来た。しかし、結界が有効な今、モンスターの襲撃を受ける可能性はかなり低い。それに村の人間だって全く無力というわけではない。だからこそ、安心して出て来れたのだ。ダンテが村に帰らなければならないという絶対的な理由はない。
『力の承継』についてはどうか。ダンテはこれが大嫌いだ。人を殺してまで『賢者』を存続させる必要はないと思っている。しかし、賢者の力を狙うバカな人間に『力の承継』を許してしまったら大変では済まされない事態が予想される。瀕死の賢者にまともな人間がとどめを刺し直す--これ自体には正当性があるように思える。問題は自分にそれができるかだ。いざとなったら・・・・・・できるかもしれない。しかし、そもそもそんな事態が実際に起こる確率は低いだろう。ロックは強い。自分で最強だと宣っていたが、それも案外誇張ではないように思える。ブラックホールの効果には正直引いた。
(じゃあ、やっぱり自信がないのか・・・・・・)
悔しいがユーリの指摘は正しそうだ。ダンテは昔、地元でモンスター退治を生業としていた時期があった。それなりに強く、所属していたギルドでは一番の腕前だった。自分は最強だと本気で思い込んでいた時期もあった。かなり恥ずかしい思い出だ。今では、自分より強い人間がたくさんいることは知っている。そして、自分にはまだ伸びしろがあることも分かっている。だからこそ力を付けたい、強くなりたい--そう思っている。この気持ちには理由なんてなかった。だとすれば、この本能のような気持ちに素直に従ってもいいのではないか。周りに白い目で見られようが、強くなるチャンスをみすみす逃したくはない。『すぐに強くなる』--ユーリのさっきの言葉が頭を過ぎった。
「なぁユーリ」
「・・・・・・」
「ありがとな」
「・・・・・・気持ち悪」
ダンテの気持ちはほぼ固まった。




