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第6節 世界

「--っ痛いなぁ! アイツ、本気だな!」

『大丈夫か? セシル・ロック?』

 ロックとオブシディアンは屋敷近くの森の中へと吹き飛ばされていた。地面に着く直前にフロートで浮き上がったので最悪の事態は免れたものの、二人とも風圧で少なからずのダメージは受けていた。

「アイツ、こっちまで来るか? 来てくれればやりやすいんだが・・・・・・」

『それは向こうも分かっているはずだ。あくまでドミニクを人質にしたままで戦うつもりなんだろう』

「はぁ・・・・・・旅行気分で来たのに、まさかオーディンとやり合うことになるとは・・・・・・運が悪いとしか言いようがないな」

 ロックは大きく肩を落とす。

『ぐだぐだ言っていないで、倒す方法を考えろ。ドミニクが無事だとも限らないんだ』

「う~ん・・・・・・だがやはり懐に飛び込む以外に方法が思い付かんな。遠くから狙うと、どうしても屋敷が射程に入ってしまう」

『・・・・・・分かった。では私がオトリになる。私が奴を引き付けている間に懐に入ってくれ』

「できるか?」

『まあ・・・・・・やられたとしても、私の場合は精霊界に帰るだけだ。貴様がやられると笑い話にもならない』

「ふむ・・・・・・では、その作戦で行こうか。笑い話にならない事態が起こる可能性もゼロではないが、最善を尽くそう」

 ロックは、オブシディアンにニコリと笑いかけた。

『貴様はいつも余裕に見えるな』

 オブシディアンが毒づく。

「そういう訳でもないんだがな。性格的に焦れないんだ。許してくれ」


『来たか・・・・・・逃げたのかと思ったぞ』

 空中に二人の姿を認めたオーディンが、待ちくたびれた様子で言い放った。

「痛くて動けなかったんだ」

『その割に元気そうだな』

「若いからな! すぐ回復するんだ」

 ロックはハハッと笑った。

『・・・・・・貴様のそういう人を食ったようなところが大嫌いだ』

「俺はお前の独り善がりなところが大嫌いだ--なぜあの時、ジェレミー・コレットを止めなかった?」

 ロックは真剣な表情でオーディンを見据える。

『独善的なのは貴様の方だ。なぜジェレミーの処刑に賛成した?』

 オーディンは深く窪んだ目でロックを見つめ返した。

「馬鹿みたいなことを聞くんだな。あいつが何人の人を殺め、何人の家族を不幸に陥れたと思っている? 処刑は当然だ」

『処刑は当然・・・・・・それが貴様の価値観か』

「俺だけじゃない。社会一般の価値観だ」

『そうか。貴様らがジェレミーが死ぬべきだと思ったから彼は死ななければならなかった--そういうことだな』

「・・・・・・まぁ、そういうことになるな」

『なぜだ』

「なぜ? 今、言っただろう。ジェレミー・コレットは罪のない沢山の人を殺めた」

『罪のない・・・・・・本当にそう思っているのか』

「は? 当たり前だ」

『貴様らはジェレミー・コレットという人間を拒絶した--それは罪ではないのか』

「--? 何を言っているんだ? 拒絶などしていない」

『だが、ジェレミーは拒絶されたと思っていた。自分は他の人間に嫌われていると--彼の両親が殺されたのも、人間によってだった』

「--! あの時代の魔女狩りは、ほとんどが一部の狂人集団によって起こされたものだっただろう! エンフィールドの人間は関係ない!」

『そんなもの、ジェレミーにとっては一緒だ。自分と・・・・・・それ以外の社会--彼が認識できたのは、それだけだ』

「随分と極端な世界観だな」

『だが、それが彼の世界だった。そして、そうなってしまったのも、彼の世界で言えば貴様らのせいなのだ』

 オーディンはゆっくりと瞬きをする。

『私は、彼の世界での正義が正しかったなどと言うつもりはない』

「ではなぜ・・・・・・」

『貴様らの正義に共感するつもりもないからだ。私はジェレミーの契約精霊だ。私がエンフィールドを滅ぼしたのは、契約に則ってジェレミーの意向に従ったからに過ぎない』

 そう言うと、オーディンは槍を天に掲げる。ロックとオブシディアンは互いに距離を取り、攻撃に身構えた。

『裁きを受けるべきはどちらなのか--今度こそ決着を付けさせてもらおう! --エンドレスジャッジ!』

 空を覆った真っ黒な雲から、複数の雷が二人をめがけて落ちてくる。その威力たるもの凄まじく、先ほどの比ではない。庭に落ちた雷は地面を割り、屋敷を傾けた。

「何考えてるんだ!? 屋敷が壊れるぞ!」

 ロックの叫びにも、オーディンは全く耳を貸さない。次々と落とされる雷は、いつ屋敷を直撃してもおかしくなかった。

『オーディン! やめろ! 中に貴方の仲間もいるんだろう!?』

 オブシディアンが必死に訴えかける。

『スレイプニール--裏切り者が・・・・・・! とっとと消滅しろ!』

 オーディンは天に掲げた槍を両手で構え、オブシディアンに向かって振り下ろす。

『ぐっ--!』

 バリアを張ったものの正面からオーディンの疾風を受けたオブシディアンは、思い切り後ろへ吹き飛ばされる。しかし、その瞬間オーディンの脇に隙が出来た。ロックはそれを見逃さず一気に懐に入り込むと、魔法律で創り出したソードでオーディンの腹部を貫く。

『くっ・・・・・・!』

 オーディンはロックを右手で薙払い、地面に向けてたたき落とす。そして、両手で槍を構え直すと、墜落していくロックに向かって槍を投げつけた。

(ヤバい--!)

 流石のロックも焦らずにはいられなかった。あの槍を受けたら確実にやられる。瞬時にバリアを張るが、どこまで防ぎきれるか分からない--大ダメージを覚悟したときだった--


 ダンッ! ガキンッ--!


 突然の破裂音と金属音と共に、槍の軌道がそれた。槍はロックのすぐ左横を通り過ぎると、地面に斜めに突き刺さった。


「おい、ロック! 油断してんじゃねぇよ!」

「おぉ! ダンテ!」


 ロックは空中で体制を維持し直すと、地上に向かって笑顔を見せる。庭の入り口近くに、魔銃器ソウルガンを構えるダンテの姿があった。


「何ヘラヘラしてんだ! トドメさせ!」

「分かっている--イクスプロード(時空法四五八条)!」


 その瞬間、オーディンに突き刺さったソードが大爆発を起こす。辺りは真っ白な閃光に包まれ、灰色の煙で覆われた。


「やったか!?」

 煙の中でロックはオーディンの姿を探す。徐々にはっきりとしてくる視界に、地面にうずくまる大きな老人の姿が映し出された。

 ロックはそのすぐ側へと降り立つ。ダンテも彼の元へ駆け寄った。

「・・・・・・やったのか?」

 ピクリとも動かないオーディンの実体に、ダンテは眉をひそめる。

「これくらいでは消滅しない--三十年前もそうだった」

「三十年前って--!? まさか三十年前にオーディンを精霊界に帰したのって!?」

 ダンテはロックをバッと振り向く。

「俺ではない。俺が出来たのはオーディンの動きを止めることだけだ。オーディンを帰したのは--あぁ、そろそろ準備が出来たみたいだな」

「は?」

 ロックは屋敷の方を仰ぎ見た。

「いいもん見れるぞ、ダンテ。俺も人生で二回もアイツを拝めるとは思ってもみなかった」

「へ?」


 バリンッ! ドドドドッ--!


「な、何だ!?」

 爆音と共に屋敷の天井が勢いよく吹き飛ばされる。

 屋敷の中から姿を現したのは、目も開けていられない程の光を放つ巨大な青い鳥の精霊だった。長い嘴は黄金色に輝き、全身の羽毛は世界中の青い宝石を集め散りばめたかのような豪華絢爛さを見せつけていた。

「これって!?」


「そうだ--これが『極楽鳥』だ」


 極楽鳥は天高く舞い上がると、両の翼を左右に大きく広げる。次の瞬間、庭全体が白い光で覆われた。ロックとダンテは反射的に目をつぶる。


 次に目を開けたときには『極楽鳥』も『オーディン』も二人の前から消え去っていた。

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