第5節 ユリア・ゴルチエ
(僕、どうしたんだろう・・・・・・)
ドミニクはぼんやりとした頭で現状を分析する。
(そうだ・・・・・・屋敷に入って・・・・・・ジェイに会って・・・・・・そして--話してる途中に、刺されたんだ・・・・・・)
徐々に状況が思い出せてきた。
(脇腹が温かい--刺された辺りだ・・・・・・)
ドミニクは瞳をゆっくりと開く。仰向けに倒れる自身の左側に、誰かが座り込んでいるのが見えた。ドミニクは思わず体をビクッとさせる。
「あ・・・・・・目が覚めましたか? 大丈夫ですか?」
「あ、あなたは?」
ドミニクは声の主を確認する。エステルよりも少し幼い、大人しそうな少女だった。栗色の長い髪に大きなピンク色の花飾りを付けている。取りあえず危害を加えてきそうな相手ではなかったことに、ドミニクはホッと胸をなで下ろした。
「私は、この屋敷に住んでいるユリア・ゴルチエと言います」
「ゴルチエ・・・・・・?」
ドミニクはそう言いながら上半身を起こそうとする。しかし--
「--くっ!」
脇腹へのダメージが思いの外大きく、彼は顔を歪めることしかできなかった。
「まだ動いてはダメです! 今、回復装置で治療していますから」
「回復装置?」
ユリアはドミニクの左脇腹の上に丸い物体を掲げていた。
「これは私の父が作った魔道具です」
「父? 貴女はもしかして、魔道具技師のゴルチエ氏のお嬢さんですか?」
「そうです。これは父が作った自慢の道具の一つです。あんまり売れなかったんですけど・・・・・・」
ユリアは恥ずかしそうに頬を染めた。
「少し、楽になってきたように感じます。いい道具をお作りになったんですね」
「そう言って頂けると・・・・・・すごくうれしいです。後、三十分もあれば全快します。もう少し待ってくださいね」
「いえ、もう結構です」
「え--?」
ドミニクはユリアを手で制し、気合いで上半身を起き上がらせる。かなり痛むが、失神するほどではない。ドミニクは動けると判断した。
「まだダメです! 傷はかなり深いです! もう少しでいいので待ってください!」
「ありがとう。でも、すごく急いでるんだ。早くしないと仲間がやられるかもしれない。外の音--君にも聞こえてるだろう?」
轟く雷鳴と地面を揺るがす振動に、ドミニクは何が起こっているのかはっきりと理解することが出来た。
「危ないから・・・・・・出てはいけないって・・・・・・」
「誰に言われたの?」
「ジェイ・・・・・・」
ユリアは俯いた。
「そう・・・・・・ジェイはもうここにはいないよ。君にも色々聞きたいことがあるけど、まず僕の仲間を助けるために、お願いしたいことがあるんだ。僕は、あまり自由に動けそうにないから」
ドミニクは眉を寄せ、申し訳なさそうな表情をする。
「何をすればいいですか?」
「そうだね・・・・・・じゃあ、そこのストールを絨毯いっぱいに広げてくれないかな」
「こうですか?」
ユリアはドミニクのストールを絨毯に敷くと、皺を一つ一つ丁寧に伸ばしていった。
「そう、そんな感じ。ありがとう」
「他には何かありますか?」
「ううん、これで大丈夫。あ、いや・・・・・・一つだけ、許してほしいことがあるんだけど・・・・・・」
「? 何ですか?」
ユリアはドミニクの側へ屈み込む。
「屋敷の屋根、吹き飛ばしちゃうけど・・・・・・構わないかな?」
そう言うとドミニクは少し困ったように笑った。




