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第2節 エントランス

「ようこそ、ヴァレリー家のご子息さん」

 エントランスに入ったドミニクを階上から優しい声が迎え入れる。

「・・・・・・僕のこと、ご存じなんですね」

「うん、でも初めましてだよね」

 声の主は広々とした階段を一段一段、ゆっくりと降りてくる。カーテンが閉め切られた室内でシャンデリアの薄暗い光が『彼』の姿をぼんやりと照らし出していた。プラチナブロンドの髪と深いグリーンの瞳--そして顔全面に描かれた複雑な魔法陣--とても不思議で美しい少年だった。

 階段を全て降り終えた『彼』は、ドミニクの前に立つとニコッと微笑んだ。だが、何も話そうとはしない。沈黙に耐えきれなくなったドミニクが、先に言葉を発した。

「あなたは誰なんですか?」

「僕? 僕はジェイ。君と同じ、ミルドなんだ」

「ジェイ? ジェイというと、以前『レッドグリフォン』に所属していたという?」

「そうだよ、よく知ってるね」

「ダンテから聞きました」

「そうなんだ・・・・・・ダンテも外にいたね。友達なの?」

「まあ・・・・・・というより、仕事仲間ですが」

「そう。僕もね、ダンテと一緒に仕事したことあるよ」

「はぁ」

「ダンテね、僕のことゴミでも見るかのような目で見るんだよ」

「・・・・・・そんな人じゃないですよ、ダンテは」

「ダンテだけじゃないよ。みんなそうだった『レッドグリフォン』の奴ら、みんな僕のこと気持ち悪がってた」

「それは、あなたの態度にも問題があったからなんじゃないですか?」

 ドミニクは言葉を選ばず、はっきりと言った。それは自分に対しての言葉でもあったからなのだが、これを聞いたジェイの様子は一変した。

「僕が悪かったって言うの!?」

「--!?」

「僕、誰も傷つけてないし、誰にもイヤな思いもさせてないよ! なのに、どういう態度を取ればよかったっていうんだよ!」

「それは・・・・・・もう少し、周りに心を開くとか・・・・・・」

「心を開く!? あんな奴らに!? 僕をゴミみたいな目で見る奴らに心を開けって言うの!?」

「ちょっと・・・・・・冷静に・・・・・・」

「大体、どうして心を開かないだけで、ギルドを追い出されなきゃいけないんだよ!? 気持ち悪いって!? 気持ち悪いって何なんだよ!?」

 ジェイは美しい顔を歪めてヒステリックにまくし立てる。その剣幕に流石のドミニクも完全に萎縮してしまった。ジェイもそんなドミニクの様子を見て我に返ったのか冷静さを取り戻す。

「・・・・・・まあ、そんなことはどうでもいいんだよ。あんな奴らなんて、どうせいい死に方しないだろうし」

「・・・・・・」

「僕が話したいのは、もっと大事なことなんだよ」

 そう言うとジェイはまたニコリと笑った。

「何のお話でしょうか」

「君、人間嫌いでしょ?」

「いきなり何なんですか・・・・・・そんなことないですよ」

「隠したってムダだよ。僕には分かる。だって僕たち似てるもの」

「・・・・・・会ったばかりのあなたに、何が分かるっていうんですか」

 ドミニクは眉をひそめた。

「少なくとも僕は君のことを知ってる。いや、君のことって言うより、この魔法陣の契約者のことかな・・・・・・」

 ジェイは腕にかけていたグリーンのストールをバッと広げる。

「・・・・・・それ、返して頂けますか」

「いいよ、はい」

 意外にもジェイは簡単にストールを返した。ドミニクはそれを受け取り、本物かどうか確かめる。確かに自分のものに間違いなさそうだった。

「ねぇ、その精霊といつ契約したの?」

「・・・・・・」

「ねぇってば」

「・・・・・・あなたには関係のないことです。それよりもこちらからも聞きたいことがあります」

「いいよ、何?」

 ジェイは相変わらずニコニコと微笑んでいる。

「外にいた白髪の男性--いえ、『オーディン』と契約しているのはあなたですね?」

「・・・・・・なぁんだ、そんなこと聞きたいの」

 ジェイはあからさまに面白くなさそうな顔をする。

「答えてください!」

 ドミニクは声をあらげた。

「そうだよ。オーディンと契約をしているのは僕だよ」

「なぜ!? オーディンと彼の以前の契約者がしたことを知らない訳ではないでしょう!?」

「そりゃそうだ。『知らない訳ない』よ」

 そう言うとジェイはくすくす笑い出した。

「何が可笑しいんですか!? あなたの行為は、あの日からミルドが少しずつ取り戻してきた信頼を破壊するものなんですよ!? 即刻、契約解除してください!」

「それはできない相談だよ」

「なぜ!?」

「何でも。そのことについて僕が話せることはもうないよ。それに・・・・・・僕から聞くことも無くなっちゃったかな・・・・・・」

「は?」

「君とは仲良くなれると思ったんだ。でも、ちょっと無理みたいだね・・・・・・すごく残念だよ」

 ジェイは困ったように笑う。

「僕さぁ・・・・・・君のことも嫌いになっちゃったかも。ちょっと運が良かったってだけで、調子乗り過ぎじゃないかなぁ?」

 どういう意味--と、聞こうとしてドミニクは声を出すことができなかった。変わりに大量の血が口から噴き出し、エントランスの絨毯を赤く染め上げた。

「--かっ、はっ!?」

 膝を着いたドミニクは反射的に顔を上げる。そこには血の付いたナイフを右手に冷たい目で見下ろすジェイの姿があった。

「セシル・ロックに伝えておいて。姉さんによろしくって。まあ、お互い生きてたらでいいから」

 ジェイはそう言うとナイフを絨毯に捨て、テレポートでドミニクの前から消え去った。

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